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悪意の計画

 ルーミア達が泊まる最高級の宿よりかは数段ランクの低い宿に泊まるアレンは窓の外を眺めながら考え事をしていた。

 この二人部屋でザックは既に眠っている。別の部屋を取っているヒナももう床に着いているだろう。

 そんな夜更けにアレンは一人寝ることもできずに、痛む顔に苛立ちを募らせていた。


(ひとまず必要な物は……あいつを無力化していうことを聞かせることができる魔道具か。人を問答無用で奴隷に堕とす隷属の魔道具……本来なら表の市場に出回る事はないが……この王都なら裏ルートがあるはずだ)


 アレンの中に芽吹いた悪意と執着。

 ルーミアという少女を手中に収めたいという欲望。

 そうすれば、かつての栄光を取り戻し、さらなる躍進を手に入れられると信じて疑わない。


 そのためならば手段は厭わない。

 たとえ――それがどれほど非道な行いであったとしても。


 故に、まずアレンが考えたのはルーミアを御すための道具だ。

 力づくでいうことを聞かせる手段が有効でない事はもう既に理解している。だからこそ、そんなルーミアに命令をして、制御するための道具が必要。


 アレンが頭の中で思い描いたのは着けた相手を隷属させる魔道具。

 主に犯罪者や金が無くて売られてしまった者に対して着用され、奴隷へと堕とすための道具。真っ当な商売ではないが、奴隷商も認められているこの国では、そのような道具がある。もちろん、誰でも買えるような表の取引に上がる事はない代物だが、裏のルート――いわゆる闇市場と呼ばれるところには流通している可能性がある。


 そこで隷属の首輪など、着けた相手の自由を奪い思い通りにする事のできるものが手に入ればあるいは。そう考えたアレンは怪しく口角を上げる。

 だが――。


(どうやってあいつにそれを付けるかを考えないといけないのか……。道具は金さえ積めばどうにでもなるが……むしろこっちが問題か)


 道具を確保するのも運が絡むが、それ以上に至難と思われるのは、その隷属の道具をどのようにしてルーミアに着用させるかだ。

 戦闘力では敵わないと嫌というほど分からされた。力も速さも、何もかもが上回られている。そのため、力づくで押さえ込み、着けさせるといったこともできないだろう。


(だが……あれは魔法だ。ルーミア自身の身体能力はそれほど高くない)


 以前その支援魔法を受けていたから分かる。

 それに加えてあれほどまでに高らかに宣言されたのだ。

 ルーミアの爆発的な攻撃力の根幹が何なのか、それはもう分かっている。


(あれが支援魔法によるものなら、その源である魔力を削ることができれば……無力化に近付けることができる。だが……あいつは以前から魔力バカだったな。ちょっとやそっとの使用で削りきれるとは思わない方が賢明か)


 かつての仲間だからこそ知っている。

 ルーミアという少女に魔力切れを期待するのは愚策であると。


 しかし、魔力を断つという発想は悪くない。

 どれだけ強力な力を有していようと結局は白魔導師。魔導師であるからには魔力がなければ何もできない。それは明確なのだから、その状態に追い込むことができれば、ほぼルーミアを攻略したといえる。


(魔力を削れる何かないかも探してみるか……。あとは……あの女か)


 他にルーミアのアキレス腱となるものはないか。

 そう考えた時真っ先に頭に浮かんだのは、ルーミアの隣にいた金髪の少女――リリスだ。

 対峙したのは短い時間で、会話などもほとんどしていないため彼女について知ることはほとんどない。


 それでも分かる事は、リリスがルーミアにとって大切な人である事。

 どういう関係性か定かではなくてもそれだけは確信できる。

 だからこそ――


(人質として使えるかもしれないな)


 アレンはほくそ笑んだ。

 リリスという少女がルーミアにとって大切な存在であればあるほど、人質としての価値が高くなる。

 彼女が人質として機能するのなら、ルーミアを縛る一手になるかもしれない。


 しかし、まだそうと決まったわけではない。

 仮に人質として機能するとしても、人質にできなければ話は始まらない。

 ルーミアの隣に立つ者ならば、ルーミアと同じくらいの実力を持っている可能性もある。

 現状、情報が足りないため、迂闊に手は出せない。


「だが、方針は固まったな……くくっ、楽しみだなぁ。絶対、絶対にどん底に叩き落としてやる」


 アレンの不気味な笑い声は夜空に溶けて消えていった。

 窓にかすかに反射する彼の顔は酷く歪んでいて、どす黒く淀んだ瞳が揺れている。

 芽吹いた悪意はとてつもない速度で育つ。

 それを知っているのは――アレンただ一人だ。

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