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非常識への慣れ

「あ、あの! 本当に大丈夫ですか?」


「問題ありません」


 時はルーミアが馬車から飛び出したすぐ後。

 ルーミアがレッドバイソンの群れに向かったため気にせずに走り抜けるよう伝えられた御者は一瞬リリスの言っている意味が分からなかったが、その内容を理解した途端ギョッとした。


 走行中にもかかわらす乗客が一人降りていった。それだけでも大問題なのに、その乗客がトラブルを始末しに行ったと聞かされた御者はとても混乱していた。


 飛び出していった少女――――ルーミアが問題を解決する、いわゆる護衛の役割を引き受けてくれたのは理解できた。そのことに関してはとてもありがたいと感じている。だが、そんな彼女を置いて走り去っているこの現状。ルーミアを囮として見捨ててきたとも考えられ、御者は内心ヒヤヒヤしていた。


「あの方はお強いのですか?」


「ユーティリスが誇る姫ですからね。本人もあの程度なら楽勝だと言ってましたしすぐに戻ってきますよ」


「ええ……? この速さの馬車に追いついてくるってことですか?」


 リリスが実力的にルーミアに信頼を置いているのは分かる。

 そこまで豪語するのならレッドバイソンの相手をすること自体は何の問題もないのだろう。


 それよりも御者が気がかりなのは、降りてしまったルーミアが戻ってくるということ。

 多少スピードを落としているとはいえ、身軽な馬車の走行速度はそれなりに速い。

 それに追いついてこれるか否か。普通なら懐疑的に思ってしまうだろう。


「ルーミアさんなら大丈夫です。走るの速いのですぐ追いつきます」


「え……でも」


「大丈夫です。このまま行ってください」


「……よく分かりませんが分かりました」


 どのみち馬車を止めたところで、戦闘要員がルーミアしかいないのならば、その場に残っても守ってもらわなければいけない。

 そうなってしまうとむしろ彼女の足手纏いとなってしまう。

 それを避けるためにその場から離れてしまった方がいい。ルーミアが気持ちよく戦うための配慮となることをリリスは分かっていた。


「とはいえ、ルーミアさんがいない以上今この馬車に何かあったら困るわけですが……」


「やっぱり今からでも引き返した方がいいんじゃないですか?」


「……いや、その必要はなさそうです」


 御者とリリス、それと馬。

 ルーミアが降りて一気に戦力ダウンした面々に、今トラブルが起きたら対処のしようがないと最悪の事態を想定したリリスだったが、どうやらそれも杞憂で終わる。


 窓を開けると不自然なほど強い風が吹き抜ける。

 その風がどこの誰から発生しているものなのかを感じたリリス。

 風と共に時折バチッと何かが弾ける音まで耳に届くことから、その渦中の人物は容易に確定できた。


「ほら、追いついてきましたよ」


「えっ、本当ですか!?」


「はい。なので乗り込む猶予を与えるために少し減速を……いえ、面白そうなので加速で」


「え、どっちですか?」


「全速前進です」


 ルーミアの姿がもうそこまで来ている。

 彼女が再度馬車に飛び乗るためにスピードを落とすように指示を出したリリスだったが、何を思いついたのかその指示を取り消した。かと思いきや真逆の要求を行った。


「どうせ勝てませんが……ふふ、競争です」


 そんなことを呟いたリリス。

 悪戯に笑うリリスの耳に何やら叫び声のようなものが届いたが、彼女は風で聞こえなかったことにし、素知らぬ顔で窓を閉めた。

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