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プロローグ

一二三書房サーガフォレスト様で書籍化させていただくことになりました〜

第一巻は9月15日発売です

 後衛職、支援職、サポート要員、回復要員、バフ要員。

 そのように呼ばれる白魔導師が自身の役割を果たすには、誰かの存在が必要不可欠――――そう思っていた。


 一人だと何もできない。果たしてそうだろうか?

 誰かがいないと本領を発揮できない。本当にそうだろうか?


 仲間がいなければ支援の対象となる人がいない?

 いや、まだ残っている。たった一人だけ、自分という対象が残っているではないか。


 仲間はいない。だったら、それを受け入れよう。受け入れて抗おう。

 後衛職は守ってもらわなければいけない。支援が仕事のサポート要員。そんな常識すら覆そう。


「自分の道は自分で切り開く。誰かじゃない――――他でもない私自身で」


 強化魔法も回復魔法も全部自分に。

 後衛職、支援職、そんな肩書などに縛られない――――物理型白魔導師と呼ばれる少女の軌跡はここから始まった。





 ◇ ◇ ◇





「ルーミア。本日限りでお前はクビだ。パーティを抜けてもらう」

「え……?」


 ルーミアと呼ばれた小柄な少女は突然のことに驚いた。

 冒険者活動を終え、宿に戻った後にパーティのリーダーであるアレンに呼び出され、何の話だろうかと思っていたところに突き刺さった不意打ちの言葉。


 ルーミアは確かに聞いた。しかし、頭は理解することを拒んでいるのか、次の言葉は一向に出てこない。依然として白い髪の隙間から動揺の瞳が顔を覗かせているだけで、喉から捻り出されるのは声にならない空気だけだ。

 そんなルーミアの様子を見て、アレンは腹立たしさを隠すことなくこれ見よがしに舌打ちをしてため息をついた。


「聞こえなかったようだからもう一度だけ言ってやる。お前はクビだ」

「………どうしてですか?」


 二度目の宣言ではっきりしたが、やはり聞き違いなどではなかった。

 パーティをクビ。ルーミアはそう告げられたのだ。

 それは理解した。だが、言及されたことを理解するのと、受け入れるのでは話は別だ。ルーミアは絞り出すような震えたか細い声で理由を問う。

 それに対してアレンはまたしても大きなため息と共に吐き捨てるように言った。 


「はぁぁぁぁ…………そんなのお前が欠陥白魔導師だからに決まっているだろう?」

「え……? 欠陥……?」

「何を驚いている? まさか自覚していなかったのか?」


 ルーミアの職業は白魔導師。離れたところから仲間に強化や回復などの支援魔法をかける後衛職。要はバフ要員だ。

 だが、ルーミアは普通の白魔導師と違って一つ弱点を抱えていた。

 それは魔法の効果範囲の狭さだ。

 魔法の効果が及ぶ範囲は人それぞれで個人差はあるが、広い人ならば目の届く範囲ならば全域で魔法を使える。


 だが、ルーミアは極端に狭い。いや、狭いという言葉で言い表すのもおこがましい。

 その狭さは驚愕のもので、遠隔魔法行使は不可能。

 何とルーミアは、魔法をかけたい対象に触れていなければいけなかったのだ。


「お前の支援魔法は触らなければ使えない。強化をかけなおすのにも回復をかけるのにもいちいち前に出てこなければいけないなんて隙でしかないだろう? そんなお前を守るのに気を遣わなければならない俺達の負担を考えたことはあるか?」


 声を荒げてまくしたてるアレンにルーミアはビクッと身体を震わせる。

 確かにその通りで、ルーミアは対象者に触らなければ支援魔法をかけられない。

 その不利益は中々に大きい。


 ルーミアが担っていたパーティの役割は主に二つ。

 強化支援と回復支援の二つだ。

 だが、回復はともかくとして、強化に求められるのは継続性だ。


 戦闘中は常にバフ状態でありたい。

 支援魔法が切れたら即座にかけなおしてもらいたい。

 しかし、ルーミアの致命的な欠点は、それを可としない。


 切れてしまったらそれっきりの支援など、いつ切れるか分かったものじゃなく、かけられている側からすれば常にタイムリミットが設けられているようなもの。

 明確な理由を並べられ、反論の余地もないルーミアは悔しそうに俯いた。


「皆さんもそう思っているんですか?」


「当然の事だろう? これはパーティ全員の総意だ」


 僅かな期待。

 自身の力を少しでも認めていてくれる仲間がいるのではないかという縋る思い。

 そんな小さな願いも儚く散った。


「後方からの支援をできない後方支援職のお前はもうパーティに必要ない。お荷物なんだ」


「そう、ですか。分かりました。私はパーティを抜けます。今までお世話になりました」


「いい判断だ。ごねてパーティを抜けるのを嫌がるようだったら実力行使に出なければいけないところだったが、賢い選択してくれて助かったよ」


 酷い言われようにルーミアはパーティへの思いも一気に冷めてしまった。

 これ以上話すこともないと踵を返して部屋を出ようとしたところでアレンに呼び止められて嫌々ながら振り返る。


「何ですか……? まだ何かあるんですか?」


「当たり前だろう。お前が今身に着けている装備、全て置いていけ。それは冒険で手に入れたパーティの共有財産でお前には一時的に貸し与えていただけにすぎん。それはお前の後任の白魔導師に与えるものだ」


「……分かりました。全部置いていきます」


 ルーミアは言われたとおりに装備を外していく。

 手袋、杖、ローブ、腕輪。

 どれも白魔導師としての力を増幅させる一級品の装備だ。


 そんな貴重な装備をパーティを抜けるルーミアが持っていける道理はない。

 そう告げられた少女は言われるままに装備を元リーダーの前に並べていく。


 それらをすべて返却し終えた時、ルーミアと彼らを繋ぐものはなくなった。

 もう用はない、さっさと出て行けと身振りで示すアレンから目を逸らし、ルーミアは静かに去っていった。


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