敵か味方かサイコロか
みんなは苦手なものってある?
私が苦手なものはお日様、つまりは太陽。
物心ついた時からお母さんが言ってることがある。
「お日様は肌が荒れるし病気になるし、日焼け対策が必須なの」
と。
なので私も物心ついた時から日焼け止めを塗っている。
赤ちゃんの頃の写真には、ぬいぐるみを抱く私の隣に日焼け止めがあった。
お日様は病気の元、お日様は肌の天敵、そう自分に言い聞かせてきた。
そんなある日、転んだ。
転んだ場所がずっと痛む。何日たっても痛みが残る。
(大丈夫。こんな時はお父さんに頼ろう。なんたってお医者さんなんだから)
子供を専門に見ているお父さんならきっと何とかしてくれるはず。
*
「骨がへこんでいるね」
「え?骨ってへこむの?」
「くる病って言ってね。骨が柔らかくなる病気かな」
「どうやったら治るの?」
「お日様の光を浴びることかな」
診察室でお父さんが告げた言葉に、私は驚きの声を上げる。
「いいかい?確かにお日様の光は、病気や肌荒れの元になるよ」
「うん。お母さんがいつも言ってるよね」
「それと同じで、体に必要なものなんだよ」
「どう必要なの?」
「体を温めたり殺菌効果があったりビタミンDを作ったり――」
お父さんの話を注意深く聞く。
私の真面目さが伝わったのか、お父さんは机の上にあるぬいぐるみを手に取る。
それはサイコロのぬいぐるみだった。
「物事にはね、確かにマイナスな面、悪いところもあるよ」
優しい瞳と声で話してくれるおのさんは、手に持ったぬいぐるみを私の目の前で回す。
サイコロのぬいぐるみが私の瞳に映る。
面がかわる。また変わる。ぐるぐるといろんな面を映し出す。
「それを乗り越えて、いろんな角度や視点で物事を見られるとまた一歩素敵になれるよ」
お父さんがサイコロのぬいぐるみを回す手を止める。
「よかったら、受け取って」
暖かいお父さんの言葉に従い、私はお父さんからサイコロのぬいぐるみを手に取った。
(困った……)
お母さんはお日様の対策をしろっていう。
お父さんはお日様を浴びろっていう。
私の頭の中でサイコロのぬいぐるみが回る。ぐるぐると思考と一緒に。
*
翌朝、悩み抜いて出した答えを、私は実行に移す。
カーテンを開け、お日様の光を浴びていく。
目も覚めてきたあたりでやめて、カーテンを閉める。
「学校行く準備♪しましょうか♪」
適当な歌を口ずさみ、私は日焼け止めを体に塗り始めた。
ぺたぺた。
ぬりぬり。
ぐりぐり。
気分はまるでお化粧。
塗り終えると、ランドセルを手にして部屋を出ようと扉に手をかける。
「忘れるとこだった。こういうのは、初日が肝心よね」
私はランドセルが置いてあった机まで引き返す。
その上にあるサイコロ状のぬいぐるみを手に取り、面を変えた。
「これでよしっと。行ってきまーす」
部屋に挨拶して私は扉を開ける。
サイコロ状のぬいぐるみが置かれた机を、カーテンから差し込む朝日が照らしていた。