第一章 誕生編 第5話 いわゆる修行回です!
爽やかな朝が来た そう思うのも今日から待ちに待った剣と魔法の修行が始まるのだ
いわゆる修業回というやつだ
おそらく僕の映画ができるのならば、このシーンは軽快な音楽と共にダイジェストでお送りされることだろう 走り込みの途中で果物をもらって、階段の上で跳ねたり 常に赤い鼻で飲んだくれの師匠に何に効くのかわからない修行をさせられるかもしれない
とにかくワクワクしているのだ
「おっはよ〜!父さん母さん!」
僕は元気よくリビングに突入した
「おはよう!アレン よく寝れたか?」
「うふふっ 鍛錬を前にこんなにワクワクしちゃうなんて やっぱりアレンも男の子なのね〜」
「メシ食ってからすぐに始めるから、よく食っとけよー」
そう言って父さんは壁にかけてある剣ではなく木刀を持って庭に出て行った 先にアップでもするのかな?
今日の朝ごはんもいつもと同じ黒パンと野菜のスープだ 素朴な味だが美味しい
僕は飲むように食べると庭に飛び出した
外で父さんが木刀を地面に刺して切り株に座って待っている
「よしっそれじゃあ早速始めるとするか!」
どんな鍛錬が始まるのだろうか?楽しみだ
「じゃあ最初は身体を作るところから始めよう!俺についてこい!」
と言って父さんは走り出した
どうやら心肺機能や筋力を伸ばすことも合わせて行うらしい
父さんになんとかついていく
三歳児にしては厳しいが弱音は吐いてられない
「剣を振るのはお前の体だ お前の体が動かなかったら、当たり前だが剣は振れない 魔法は口を動かせば放てるが、剣は体が資本だ、そうはいかねぇ 体を鍛えることは剣の道への第一歩だ」
父は汗一つかかずに軽々と講釈を垂れている
僕はそれに返答もできないまま、ひーこらひーこらついていくしかなかった
どれくらい走ったろうかいつの間にか家まで帰ってきていた
思わず僕は膝をついて息をゼハゼハと吐いてしまう
前世でもこんなに疲労困憊になったことはない
もしかすると距離は大したことないかもしれないがが何せ三歳児なのだ 疲れもするさ
「アレン きついか?やめたいか?」
「いえ…やめません!」
「よし!その意気だ! 次は筋力を鍛える! どんな剣でも自由に振ることができなかったら意味がない!」
そう言って筋トレが始まる
全身を満遍なく鍛えて正直もうヘトヘトだ
「やめ!それでは次はいよいよ剣を使う アレン剣を出してみろ」
実は今まで【剣召還】を使ったことはない、魔法に気を取られすぎて後回しにしていたのだ
だが、詠唱も使い方も分かっている
僕は勢いよく体の前で手を合わせ、詠唱を唱える
「顕現せよ 我が心剣 力を示せ 【木刀】」
そして手を開いていくと木刀が段々と姿を表す
詠唱は仰々しいのだが出てくるのは木刀なので、なんだかシュールだ
木刀を手に取る
何故だかとても手に馴染む感じがする 何年も振ってきた相棒のような感じだ
「なんとも面白いスキルだな しかし使いこなすには剣術スキルがなくっちゃな! 最初は素振りから始める!握り方は…そうだそんな感じだ では素振り連続で400回 始め!!」
1.2.3…と数を数えながら木刀を振るが、まだ慣れていないかためなのか木刀に振り回されている気がする
「どうした! 剣に振り回されているぞ!」
そうしてしばらく降っていると、ふっと剣が扱いやすくなったように感じた
【剣術スキルを獲得しました】
(もうなのか早いな! やっぱり全経験値5倍の恩恵は大きいな)
後半は最初に比べるとやや剣に振り回されることもなく振ることができた
「398.399.400…そこまで! 最後らへんは少し良くなったな!飲み込みが早いぞ」
「ありがとう… 父さん…」
初めて剣を何度も振ったせいで手に豆ができて潰れていたので、光魔法のプチヒーリングで治す
「光魔法も無詠唱で使えるのか? とんでもない逸材だな全く…」
「治癒の力だけだよ 他のはまだ詠唱しないとダメなんだ」
「そ、そうなのか でも治癒を無詠唱で使えるのは大きいぞ こほんっ それでは最後の修行だ 俺と模擬戦をする もちろんハンデはやる」
そう言って父さんは自分の周りの地面に木刀で半径五十センチくらいの円を書く
「俺はこの円の中から動かない お前は剣術のほかに魔術を組み合わせてもいいぞ 俺をこの円から出せたらお前の勝ちだ、もちろん俺の攻撃は寸止めしてやる お前は俺に思いっきり当てるつもりでこい」
そう言われるとギャフンと言わせたいのが男の子だ
僕は絶対に円から出してやると意気込んだ、
結果から言うと、父さんは円から動くどころかその場からピクリとも動かずに凌いで見せた
もちろん僕は全力で魔法も使った
身体強化はもちろん使ったし戦い方も工夫したつもりだ
水魔法で全身ずぶ濡れにして雷魔法で感電させてやろうと思って水魔法を放っても、剣を一振りして水を飛散させられてしまうし、ミニファイアに魔力操作で魔力を込めまくって撃っても、炎をぶった斬られてしまうのだ 木刀なのに意味がわからない!
これが父さんの実力なのか……やはり元一流の冒険者は強すぎる
僕は今日剣術スキルを得たが、父さんのスキルは剣聖術まであがっている
剣術スキルはレベルが10になると次の段階まで進化するのだ
その段階は
剣術→中剣術→上剣術→剣帝術→剣聖術→剣王術→剣神術
という具合だ
剣術スキルは修行によって経験値を得ることもできるが、魔物を剣で倒すことによっても得ることができる しかも強力な魔物であればあるほどだ
父さんは固有スキル【剣の友】を持っているので、成長率に補正が入るが その才能だけでここまで上り詰めることはできない
おそらく父は幼い頃から修行をし、冒険者になった後も強力な魔物と戦い続けたのだろう
今日はそんな父の実力のほんの一端が知れただけでも大きな収穫となったと思う
「よし!こんなとこで今日はおしまいだ とりあえずお前の目標は俺に一歩使わせることだな 」
(くそ〜悔しい! 絶対すぐにギャフンと言わせてやる!)
僕は悔しさを滲ませながら父さんに礼をする
(さて、昼食までまだ時間があるし自分の部屋で本でも読んで休みながら午後に備えるか)
そう思って家に入ろうとするが、
「アレ〜ン! あそぼ〜!」
と母親譲りの青い髪を揺らしながらニッコニコとこちらにかけてくるリリが見える
(そうだ!いつもこれくらいの時間にいつもリリと遊んでたわ!)
「ねぇアレン!何して遊ぶ!?」
とリリがキラキラした目で見てくる
(どうしよう?修行が始まっちゃったから遊べないって伝えなきゃいけない)
「ごめんリリ 今日は遊べないんだ…」
「え〜…なんで?なんで〜?」
リリが泣きそうな顔になってしまう
「リリのこと嫌いになっちゃったの?…」
やばい!リリを泣かせてしまう
「ち、違うよ嫌いになったわけじゃないよ!
ただ今日から僕、剣と、魔法の修行始まっちゃったんだ… だからリリとは遊べないんだ」
「え〜修行って何〜? リリよりそっちの方が大事なの??」
三歳児なのに答えにくい質問してくるぜまったく…
僕が答えに詰まっていると後ろから父さんがやってきてこう言ってきた
「3歳で女の子を泣かすのは感心しねぇ〜なぁアレン 遊んでやればいいじゃないかよ」
「そうは言っても 午後から母さんの魔法の鍛錬もあるんだよ 体を休めておかないと母さんにも失礼だよ」
「む、たしかにそれも一理あるな〜 はてさてどうしようか………そうだ! リリちゃんも一緒に魔法の修行すればいいんじゃねぇか?」
「修行!? アレンと一緒たのしそ〜! リリ修行する〜!」
「え!?」
まずい まずすぎる 確実にリリのチートスキルが火を吹くことになる 絶対に大騒ぎになるに違いない
「そ、それはダメだよ!」
「何がダメなんだアレン」
「だ、だってもしかしたらリリの家の教育方針が違うかもしれないじゃん!」
「難しい言葉使うのな、まぁそれもそうか… じゃあ、ちょっとまっとけ!」
そう言って父さんは隣のシルヴァードの家まで駆け出した
しばらくして父さんがもどってくる
(流石に断られてるだろう 三歳児にいきなり魔法教えるとかダメだって…)
「大丈夫だってさ」
「だよね〜流石に断られて…ってええ!? 大丈夫だったの!?」
「わぁ〜い! リリも修行する〜!」
飛び上がって喜ぶリリを横目に僕は絶句する他なかった
「じゃ、リリちゃんも一回家に帰んな 昼メシ食ったらまた来な!」
「うん!わかった! アレンまたね〜!」
と言ってリリは家まで帰っていった
(まじでどうしましょ! このままリリが魔法を使ったらとんでもないことになる)
しかし、いくら考えてもなんの解決策も浮かばず 何もできないことに気づいたのでやがて僕は、考えるのを、やめた…
そのまま水浴びをして汗を流して家の中に入って ぼーっとしながらベッドに寝っ転がって過ごした
しばらくすると
「ご飯よ〜!」
と母さんの声が聞こえた
あぁ来てしまった いつもはウキウキの昼食だが、今日はなんと心躍らないのだろう
「さぁ、これを食べたら私と魔法のお勉強よ〜 いっぱい食べてね」
「なぁララ そのことなんだけど 隣んとこのリリちゃんも一緒に受けさせてくれないか?」
ここが最後の砦だ!母さん!断ってくれ!
「いいわよ! 一気に二人も生徒が増えるなんて嬉しい〜」
終わった… どうやら避けられないようだ
残念!魔王からは逃げられない…
いや…残念!魔導王からは逃げられない
だな…
僕は絶望しながら気持ちゆっくりと昼食を食べるのであった………