第一章 誕生編 第4話 見られたくない瞬間って絶対見られるよね
段々と物語が動いてきます
僕はその日もいつものように両親の寝室から艶かしい音が止んで寝静まった後に自分の部屋を抜け出した
自分の部屋というのは、僕がまだ赤ん坊で、母さんが満足に働けなかった時に家政婦さんとしてきていたカレンさんが僕が一歳になったときにお役御免となり、いなくなってしまったので、その部屋が僕の部屋になったのだ
今日も今日とていつのまにか育った隠密のスキルを使い、そろりそろりと書斎に行く
今日は火魔法の更なる活性化を目指すつもりだ
火魔法で作れる炎は赤いのだ
何当たり前のこと言ってるんだと思うかもしれないが 赤い炎というのは不完全燃焼の証なのだ
つまりは燃焼に必要な酸素量がまだ足りていないということである
そのため今日は風魔法を応用して火魔法の炎に空気を送り込み完全燃焼を目指す
早速やってみることにする
まず右手の指先にミニファイアを灯し、そこに左手から風魔法で空気を送り込む、すると段々と炎が青みを帯びていき 最終的に完全燃焼の炎となった
(やったぞ!仮説は正しかった!)
魔法を源にして燃える炎なので何が不思議パワーを使って燃えていることも危惧されていたが、ちゃんとしたプロセスで燃えることがわかったのだ
僕は指に火をつけたまま、ルンタッタと小躍りした
この時僕は忘れていたのだ
いつも閉めているカーテンを開けたままにしていたことを
……次の日
僕は昨日の興奮冷めやらぬままリビングに突入した
「おはよう〜!父さん母さん!」
「あぁ、おはようアレン…」
ん?どうしたのだろうか父さんも母さんも神妙な顔で座っている
いつもはこっちも少し引くくらい朝から元気な二人なのに
僕が寝ている時に何があったんだろうか?
「どうしたの?何でそんなに今日は静かなの?」
僕は努めて3歳児らしく聞いた、すると父さんが
「アレン 何か父さんと母さんに隠し事してないか?」
「え?」
予想だにしない返答に、思わず言い淀む
頭の中をぐるぐると色々な僕の秘密が駆け巡る
(秘密ってなんのことだ? 僕のスキル?それとも称号? もしかして前世持ちだってバレたのか? いやそれはおかしい それとも……)
と考えていると
「アレン お前俺たちに隠れて魔法使ってるだろ」
「そうよアレン 隣の家のミネルバさんが昨日の夜に指に火を灯して踊ってるあなたを見たって言うのよ」
(まさか!見られていたのか! カーテンは閉めていたはずなのに! あれ?閉めてたっけ? ってかよりによって小躍りしちゃったところかよ〜 一番恥ずかしいとこ見られてんじゃん…)
と、思考を巡らせていると父が
「で、どうなんだアレン 使ったのか使ってないのか?」
と聞いてきた
(証拠もあがってるし、もう言い逃れはできないや
この歳で魔法を使ってるなんて気味悪いだろうな…
最悪捨てられちゃうかも!?)
とほぼ絶望しながら
「はい… 夜に魔法を使っていました」
と弱々しく言うしかなかった
どんな恐ろしい宣告をされるのかビクビクと待っていた すると…
「「すごいぞ(わ)アレン!!!!」
え?
「まだ3歳なのに魔法を使えるなんてウチの子は天才かもしれないな!!」
「もちろんよ! だって私の子供ですもん!」
「こりゃ将来が今から楽しみだな!!」
「ええ!あなた!」
と言って二人はキャイキャイと手を取り合っている
予想外の反応だ
「 お、怒らないの?」
「怒る?ははっ 俺らの目のないとこで魔法を使ったのは正直いただけないが それでも息子の才能を喜ばない親がどこにいる?」
「そーよ! これからは私たちの前で使ってね! 母さんとの約束よ〜!」
怒られたり、気味悪がられたりするのを予想していたからびっくりしてしまう
「でだ!アレン! お前まさか火魔法以外も使えたりするのか?」
「書斎の本には他の魔法も載ってるはずだから何種類かは使えるはずよ!」
「う、うん 他のも使えるよ」
戸惑いながら僕は右手に水、左手に電気を出す
「「む、無詠唱!? しかも雷魔法!?」」
あ、つい癖で無詠唱で使ってしまった!! 無詠唱できる人はそんなにいないんだ
僕が今度こそあわあわしていると なんと母さんと父さんが泣き出してしまった
「 だ、大丈夫?父さん母さん!」
「大丈夫なはずあるか! 息子がとんでもない才能に恵まれていて感動したんだ!」
「自分の子が歴史に残るかもしれないほどの魔法使いの卵かもって思って嬉しくて…」
と言って、二人ともおいおい泣き出してしまった
収集がつかねぇ…
しばらくすると父さんが、ガバッと起き上がり
「決めた!! 本当は5歳になってから始めようと思っていた訓練を前倒しでやることにする!」
と高らかに宣言した 僕の当初の流れでも5歳から訓練を受けるつもりだったがどうやら明日からにでも始まってしまいそうだ
「待ってあなた! まだその話決まってないじゃないの!」
「アレンはもう魔法が使えるんだ、だから今から剣を教えて魔法剣士にしよう!」
「話が違うわ!! 5歳の時の鑑定の儀で魔法系の固有スキルなら魔法使いの教育を 剣系の固有スキルなら剣士の教育をって話だったじゃない!
3歳で魔法がこんなに使えるんだもん!絶対魔法系のスキルよ! だから魔法使いの教育をするべきよ!!」
そう言って二人はやいのやいのと言い争いを始めてしまった
しかし気になる単語が出てきた、『鑑定の儀』である
「あの〜…」
僕はおずおずと手をあげる
「何?アレン」
「鑑定の儀ってなんのこと?」
「あぁ、鑑定の儀っていうのわね…」
二人の説明を聞くとこうだ
この世界の子供は5歳になると近くの街まで行って教会で鑑定の儀を受ける
というのもこの世界において鑑定スキルを持っているものは少なく、殆どの人が自分の固有スキルがわからずに生まれてくる
だからその鑑定の儀で自分の固有スキルを知ることで、後々の人生設計に役立てるらしいのだ
この話を聞いてまずいなと思ったのは隣のリリクシールについてだ
おそらくあのバカ神は僕なら騒動にならないと思って【魔導王】のスキルを授けようとしたのだろう
その理由は僕にある鑑定のスキルだ
鑑定のスキルはレベル4で鑑定偽造の能力を得る
僕には全経験値5倍もあるし、何せ【好奇心の化け物】なので、レベル4には5歳まで上がるだろうと考えたんだと思う
しかし、バカ神のミスでそのスキルはリリクシールに移ってしまったのだ
おそらく小さくない騒ぎになるであろう
しかし現状何もできないのが歯痒い
「なるほどね〜 鑑定の儀っていうのはそんな感じなんだね〜」
「そーよアレン あなたは絶対魔法系のスキルだから魔法使いになるべきよ〜」
「おい!まだ決まったわけじゃないだろ! もしかしたら剣系統のスキルかもしれないぞ!」
と、また喧嘩が始まりそうなので二人を手で制した
「どうした?アレン 父さんは母さんを止めるので忙しい」
「何?私が悪者みたいじゃない! 元はと言えばあなたの…」
「待って!二人とも!」
やっと二人がこっちを向いてくれる
「僕 自分の固有スキルわかるよ」
「「えぇ!?」」
「「そ、それで!なんていうスキルなの!?」」
二人は息ぴったりで僕に詰め寄ってくる
「僕の固有スキルは【剣召喚】 剣を召喚できる能力だよ」
それを聞いた二人はとても驚いていた
「も、もしかしてアレン 鑑定ができるのか?」
「そ、それより 【剣召喚】って言ったわよね? 魔法系のスキルじゃないじゃないの…」
「 そ、そうだ!剣系統のスキルじゃないか!こりゃ剣士の道に進むしかないな!」
そう言って父さんはニヤニヤとして母さんはがっくりと肩を落としていた
「ば、僕 剣も教えてほしいけど 魔法も教えてほしい!」
「ええ!!?」
母さんの顔が途端にパァッと花が咲いたような笑顔になった
「そうよね! 今の段階でも魔法を使えるんだし 魔法の道が立たれたわけじゃないものね!」
「で、でも大丈夫なのか?アレン どっちもやるなんてどっちも中途半端になるかもしれないんだぞ
父さんはそんな奴らが魔物に殺される場面を何回も見た お前にはそんな奴らみたいにはなってほしくないんだ」
父さんは真剣な顔で僕の目を見つめてくる
僕はしっかりと父さんの目を見据えて
「ううん 絶対に中途半端にしないよ! どっちも全力で頑張る!!」
と、はっきりと宣言した
しばらく父と見つめ合っていたが、やがて父が大きなため息をついた
「わかったよ、お前の強い覚悟が伝わった だが、息子だからと言って甘い修行はしないつもりだ それは父さんも母さんも同じだ お前は痛かったり怖い思いをするかもしれない それが2倍になるんだぞ それでもやるんだな?」
「うん!僕はやり遂げてみせるよ」
「そうか!男の覚悟を踏み躙るわけにはいかないな! 明日からビシバシいくぞ!」
「はい!頑張ります!!」
そうして、剣の修行と魔法の修行のどちらもすることが決まった
これからは鍛錬の毎日になるだろう
両親との話し合いで朝ご飯の後に剣の修行をして、終わってから昼ごはんまで自由時間、そして昼食後に魔法の修行をして、終わってからご飯にして就寝という具合になることに決定した
とりあえずは7歳まで修行を毎日行い、7歳から冒険者登録ができるので冒険者として10歳までやってみるという方針になった
なぜ10歳までというと、どうやら10歳から16歳まで教育期間に入ることができるそうなのだ
学費は安くはないが元一流冒険者だった両親は貯蓄が少なくない額あるので行かせることができるそうなのだ
その学校を良い成績で卒業できれば就職も困らないし、冒険者に戻っても人脈もできて何かと便利だと力説された
正直この世界の教育内容に大変興味があるので願ってもない提案だ
僕は自分の固有スキルをやっと使えることと実践的な魔法の応用を教えてもらえるとワクワクしながら明日の修行に備えて早めに床についたのだった
(知識ビュッフェはしばらくお預けだな…)
しかし明日の修行で得られるものはそれ以上の価値であろうと期待しながら僕は眠りについた