第二章 冒険者編 第15話 クラーケン、来襲
実はタコの浸透圧調節機能は発達していないので、大型のタコはアンモニア臭で食えたもんじゃないんですが、この世界の大きなタコは美味しいんです
そうったら、そうなのです
僕の世界だと美味いんだよ
何げなく海に出たら、クラーケンが出ました
僕の運の値の65より、大きい人見たことないから運がいいと思ってたけど、そんなことなかったな〜
あはは〜…
「ちょっと! アレン!! 帰ってきなさい!!
現実逃避してる場合じゃないわよ!」
クリスから頭を引っ叩かれる 本気で叩きやがったな… めちゃ痛い
「いって… はっ! ごめんクリス、あまりに面倒ごとが起きるから頭ぶっ飛んでたわ」
「私もそれは思うけど… とにかく何とかしないと、私たちみんなあのタコのおやつになっちゃうわよ!」
げぇっ! クラーケンが船に足を巻きつけようとしている
「えいっ! えいっ! このっ! アレンくん! しばらくは私が食い止めとくよ! そのうちにクラーケンをどうにかする案考えて!」
見ると、リューネちゃんが船にまとわりつこうとしているタコの足を火魔法で追い払っている
だけど、その抵抗もいつまでも保つわけではないだろう
くそっ! 考えろ!考えろ! 何のための『好奇心の化物』だ! 前世でのタコについての知識、知識…
「ねぇ! アレン! クラーケンにも心臓あるのよね? それを潰せばいいんじゃないかしら!?」
「だめだ! 奴がタコだとしたら、心臓が3つある! 一つなら決死で行けば潰せるかもしれないけど、3つじゃ難しい!」
「嘘でしょ… 心臓三つあるの?」
「因みに脳みそは9つだよ」
「えぇ!! 何それ反則よ!」
そうなのだ、タコはとても高い知性を持っていて、無脊椎動物の中で最も賢い存在なのだ そのため、クラーケンには、単純な手は効かない可能性がある
タコの弱点、弱点… まず一つはストレスだ
ストレスを感じると自分を齧り出す性質がある
いや、これは使えないな…
タコ好きな研究者仲間とタコを獲りに行った時に、そいつが何か言ってた気がする…
なんて言ってたんだっけ タコの弱点は…
「アレン! リューネちゃんが!」
クラーケンは中々仕留められないのに豪を煮やし、全ての足を総動員してきている
リューネちゃんも流石にキツそうにしている
「アレン! 早くしないと、リューネちゃんが齧られちゃうわ!」
考えろ、考えろ… あ! そうだ、あの時そうやってタコを絞めていた!
「リューネちゃん! そいつの倒し方がわかった!! こっちに下がって!」
リューネちゃんが戦線を離脱して戻ってくる
「アレンくん! 信じてました! クラーケンの倒し方思いついたんですね!」
「あぁ! ばっちりだよ!」
僕はゆっくりとクラーケンに向かっていく
「これがこいつを倒す方法だ!」
僕はまず土魔法を応用し、クラーケンの周りを海水ごと囲み、指先にある魔法を展開する
「アレン! なんで水魔法なのよ! そんなの効きっこないわ!」
そう、僕の切り札は水魔法なのだ
「まぁ、見てなって そりゃっ!」
僕はクラーケンの囲いの中に大量の水を放っていく、するとクラーケンが突然苦しみ出して弱っていく
「どういうことなの… クラーケンが弱ってくわ…」
土魔法を壊そうと足を振るが、弱り切っているためびくともしていない
僕はそのまま、水魔法を放って行き、やがてクラーケンは動かなくなった
「ふぅっ もしかしたらタコの生態と違うかもって思ってたけど、なんとかなったな」
経験値は入らなかった、おそらくクラーケンはタコの突然変異種、もしくわそういった種なのかもしれない
「どどどど、どういうことなの!? ほんとに水魔法で倒しちゃったわ! なんでなんで!?」
「そうだよアレンくん! 最初水魔法出した時、やばい、アレンくん気がおかしくなっちゃったって思ったもん! 私もなんでか聞きたい!」
二人が詰め寄ってくる、たしかに水中にいるものに水を浴びせるのは悪手だと思うのかもしれない
「簡単なことだよ 水は水でも僕が浴びせた水魔法は真水なんだから」
それがどうかしたの? と二人が首を傾げる
「簡単に言えば、タコは真水じゃ生きられないんだよ だから土魔法で囲って、塩分濃度をどんどん薄くしてあげたら、弱ってやがて死ぬのさ」
「へぇ〜! そんなの知らなかったわ! やっぱり知識は武器になるのね〜」
「私もそんなこと初耳だよ! この船にアレンくんが乗っててよかった…」
二人がタコの事実に感嘆している ありがとう前世の友人!
「でも、食材また1から探さないといけないわね」
「そうですね… また釣りすればいいんだよ!
次はクラーケンなんて、でないよ!」
二人が釣りに戻ろうとしている なんで?
「ちょっとお二人さん 食材ならもう手に入ったよ」
「まさかあの小魚って言うんじゃないでしょうね」
「アレンくん 心配しなくてもいいんだよ すぐに私が釣ってあげるからね」
僕はクラーケンを指差さす
「あれ、食えばいいじゃん」
すると二人が正気かこいつみたいな顔をする
失礼な
「何言ってるのアレン! あんなキモいの食えるわけないでしょ!」
「そうだよ! 見るからに食べちゃいけないものじゃん! そっか、さっきので疲れちゃったんだね…
休んでていいよ、私とクリスちゃんで釣るから」
え! この世界タコ食べないの!? 確かに締め方知らなかったしな〜
そういえば、タコって日本以外だと食べない国の方が多いからな 見た目がダメなんかな
クトゥルフ神話のモチーフになるくらいだしな…
あの手は何だ! 窓に! 窓に!
「美味しいよタコって ちょい待ち」
僕はクラーケンの足の先っぽをちょっと切って、火魔法で焼いて二人に渡す
「うぇ〜… ほんとに食べるの? 美味しくなかったら承知しないんだから」
「アレンくん 流石の私も怒っちゃうかも」
二人がめちゃくちゃ嫌そうな顔をしながら食う
ごめんなクラーケンもう少しの辛抱だ
すると、みるみる顔が明るくなっていく
「うそっ! 美味しい! すごくおいしいじゃない!」
「ほんとだよ! 今まで食べてなかったのが嘘みたい! 」
「だろ? しかもこんだけ有れば、仕入れることなく提供できるしね」
「そうね 疑って悪かったわね…. こんなに美味しいとは思わなかったもの」
いいのさ 最後は美味しいって感じてくれたからね
見てるか、クラーケン 勝ったよ…
「じゃあ食材手に入ったから港に帰ろっか リューネちゃんクラーケン仕舞える?」
「港に一回戻ってから仕舞ってもいい? 魔力が万全じゃないし、こんな大きなものしまうの宿ぶりだから…」
「そっか とりあえず港まで待ってこうか」
僕達は紐を土魔術で作ったクラーケンボックスにくくりつけ、船で引っ張って港に帰還した
港に船を着け、下船しクラーケンボックスを引き上げていたところ、あの漁師さんがやってきた
「おう、坊主! どうやら何か釣れたらしいな?
そのでっかい箱を見るに大漁だったみてぇだな!」
「いえ、1匹だけですよ クラーケン釣ってきました」
「そうか!そりゃよかった! クラーケンだもんな…. クラーケン? クラーケンだと!!?」
漁師さんが飛び上がって驚く 昭和か?
「どういうことだ!! 伝説の生物を釣っちまったってのか!? あの釣竿でどうやって?」
「釣った魚を狙って襲ってきたんで 獲ってきたんです」
漁師さんは驚きを通り越して、呆れてため息をついている
「はぁ〜 只者じゃねぇっては思ってたが、まさかクラーケンを倒しちまうとはな… おい! もしかして、それをコンテストに使うのか?」
「そうですよ?」
周りから他の漁師がなんだなんだと近寄ってくる
「おい、どうしたんだ ダレルよ! なんの騒ぎでい?」
僕たちに釣竿を貸してくれた漁師はダレルっていうらしい
「あぁ なんでもこの坊主たちが、クラーケンを獲ってきた挙げ句、それをコンテストに使うんだと…」
周りの漁師たちがざわめきだし、口々に伝説の生物を? とか 食えたもんじゃねぇとか言ってる
「あの〜 クラーケンって意外に美味しいですよ?
食べてみてください」
僕はクラーケンの足を少し切って火魔法で焼いて、ダレルさんに渡す
「ほんとにほんとか? くそっええい、ままよ!」
ダレルさんはクラーケンをパクっといった
ムグムグと噛んでいくと、だんだん顔が綻んでいく
「う、うめぇ!! なんてことだ、めっちゃくちゃうめぇぞこれ!!」
ダレルさんや周りの漁師も驚いている
「な、なぁ? 俺にも食わしてくれねぇか?」
「おい! 俺も俺も!」
周りの漁師たちにも、クラーケンを振る舞ってあげる 文字通り腐るほどあるしね
「は、ほんとだ! うめぇ!」
「今度からタコ獲るか…」
どうやら、みんなタコの美味しさを認めてくれたようだ
「おい坊主! 俺、絶対お前のとこの料理食いに行くぜ」
「俺も俺も!」
みんなクラーケンの美味しさを知ってくれたことで、僕たちの料理にも興味を持ってくれたらしい
これは口コミで知名度が上がること間違いなしだろう
漁師のコミュニティもこの街はバカにならないだろう ここは港町であり、この街の住民は必ずと言っていいほど漁に関わっているので、その中で広まるだけで大きな宣伝効果が期待できよう
「皆さんありがとうございます! ぜひ来てくださいね!」
もしかしたら、知名度問題、材料問題も同時に解決かも? なんたって、使ってる食材伝説の生き物だし 普通の高級食材なんか目じゃないだろう
魔力が十分に回復したリューネちゃんにクラーケンを仕舞ってもらい、僕たちは宿に戻った
………………
「じゃあ早速、クラーケンを使った料理考えましょう! ソースも使うのも条件ね!」
「そうだね! こんなに美味しいクラーケンを生かしつつ、ソースも使う料理か〜どうしよっかな〜」
クリスとリューネちゃんがうんうん唸っているが、僕がすぐに手をあげる
「あら? アレン早いわね もう考えついたのかしら?」
「どんな料理? 聞きたい聞きたい!」
「ふっふっふ 僕の考えた料理の名前は、ズバリ…
『たこ焼き』さ…」
僕がドヤ顔でそう言う 決まった…
「何を言うかと思えばたこ焼きなんて! それってつまりタコをそのまま焼いて食べるってことでしょ? それ、最初に否定したわよね…」
「実は、そんな単純なものじゃないんですね〜これが… リューネちゃん、悪いけど今から言うもの出して」
「いいよ〜 どんな料理か見てみたい!」
僕はリューネちゃんから、クラーケンとたこ焼きの材料を出してもらい、そして鉄板も出してもらった
「その鉄板で何するの?」
「まぁ見てなって」
僕は鉄板を高火力の火魔法で柔らかくし、土魔法で作った球を押しつけ、丸い窪みを作り、それを水魔法で固めた たこ焼き機の完成だ
「何よその窪み? どう使うか検討もつかないわ」
僕はその鉄板を熱し、生地を流し込み、中にクラーケンなどの具材をいれ、焼いていく
辺りに香ばしい良い匂いが漂っていく
「お、美味しそうね」
「う、うん お腹空いちゃうね…」
二人はじゅるりと涎を垂らしている
「もう少しでできるからね よいしょっと…」
僕はクルクルとたこ焼きを回して行き、球体を作る
「わぁ、まんまるだ!」
リューネちゃんがそう叫ぶ 可愛い着眼点だ
僕は焼き上がったたこ焼きを皿に盛り付け、ソース、青のりをかけてあげる
マヨネーズがないな….後で作るか
「はい、召し上がれ」
二人の目の前にたこ焼きの皿を出してあげる
「わぁ! 美味しそう!これがたこ焼き!」
「そうね いい匂いだわ」
「「いただきます!」」
二人はたこ焼きを一つ口に含む
だが熱いのか、ハフハフッとしてから咀嚼する
「お、美味しい!! アレン! 何これ、とっても美味しいわ 」
「今まで食べたことも聞いたこともない料理だけど、とっても美味しいよ〜! アレンくん! これにしよう!」
その後、満場一致でたこ焼きに決まり、その夜の晩御飯もたこ焼きになった
マヨネーズを作ってかけてあげると、感動していた
やはりマヨネーズは偉大なり
その後、僕達は料理案を受付に提出したり、大型のたこ焼き機を作ったり、他の味を研究したりして日々を過ごしていった
そして本日、料理コンテスト開催の日を迎えたのだった
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