第一章 誕生編 第2話 知識を求めて三千里〜実際は数十メートル〜
父がシルヴァードとミネルバと言葉を交わした後に僕らは帰路についた といっても家から目と鼻の先だが
「また来いよ!!」
シルヴァードは僕らが家に入るまで手を振り続けていた いい人なのかもしれない 顔怖いけど
家に帰ると昨日もいた助産師のおばさんが何か料理を作るのか野菜を切っている 母は奥のベッドで寝ているようだ
赤ん坊の身では家を探索できずにいるがこの家はおそらく平家であと部屋がいくつかあるようだと僕は予想している
(魔法とかこの世界について載っている本があるといいな)
あのバカ神の話だと僕の両親はどっちも冒険者という話だから何か本とかあるだろうと予測していた
どうやら僕は母の隣の小さなベッドに寝かせられるらしい これでは迂闊に身動きがとれない!
僕のできる行動はつかまり立ちかハイハイが関の山だろうしかもその行動を誰かに見られたりなんかしたら気味悪がられるだろう
(これはとんでもないスニーキングミッションじゃないか 蛇の旦那もびっくりだよ!)
僕はベビーベッドに寝転びながら考えていた
父は壁にかけてある剣を取り庭に向かった
多分だが素振りとかするんだろ
やがて外からはブンッという風切り音が聞こえてくる
(日本だとあんな刃物振り回してたらお縄だしな)
と、少し異世界に来ていることを実感していると助産師さんが切った野菜をフライパンのようなものに乗せて、薪をかまどにくべていく
そして小さな声で
「根源たる炎よ 今その輝きを示せ プチファイヤ」
というと指先から炎が飛び出して薪に火をつけたのだった
(魔法だ!!)
僕は異世界に来ての初魔法を見てテンションが爆上がりしてしまう 元々この世界にいる目的は魔法なのだ 僕の好奇心が疼きをあげる
(さっき助産師さんが詠唱してた言葉言ったら僕も使えるのかな?)
そう思って僕は心の中で詠唱を唱えたが何も起こらない
(やっぱり声に出して言わないと魔法を行使できないんだ!)
なんとも残念な話だ 赤ん坊の僕が急に話をしても変な話だろうし魔法は多分2歳くらいまでお預けだろう
(じゃあ今の段階で使える能力は鑑定だけってことか〜)
僕がうんうんと考えているといつのまにか食事ができたみたいで庭から父が帰ってきた
壁に剣を掛けて母を起こすと、助産師の作った料理をベットに持ってきた 一緒に食べるつもりらしい
二人は互いに食べさせ合いながらイチャイチャしだした
(正直、体感27の僕からするとちょっと恥ずかしい光景だな)
やがて食べ終わった二人は僕のことを構い出した後僕は母からお乳をもらって眠りについた
僕からすると母は美人な女性なのでドギマギするかと思ったが不思議とそんなことはなかった やはり母であるからなのだろう
そんなこんなで夜になり両親はまだ家にいる助産師によって晩御飯を作ってもらい、それを食べ僕も授乳を受けて家族みんなで床についた
助産師さんは違う部屋に住み込んでいるようで、両親とも気の置けない仲のようだ もしかしたら家政婦さんなのかもしれない
僕はみんなが寝静まった真夜中にスニーキングミッションを遂行することを決めた
部屋は家政婦さん?の寝る部屋の他に後三つあるがその誰かに本棚があることを願う
そして、真夜中に両親が寝静まったことを確認して僕はベットの柵に使ってよじ登りするするとベビーベットを降りた
そしてカサカサと床を移動し第一の部屋を開ける
(さて、本命の部屋かな?)
どうやらその部屋は倉庫のようで、いろいろな野菜らしきものや干し肉、薪などが積み上がっている 元の世界のピーマンのような形のものもあるが何故か緑ではなく青かった
(やっぱり異世界なんだなここは、てか青い色って食欲減退色では!?)
そんなことを思ったが僕は静かに扉を閉め次の部屋にカサカサ移動した
(まだ見ぬ知識よ!来てくれ!)
その部屋には少し段差がありそこに穴が空いていて横にバケツがある
(うわ!ここ絶対厠だよ!流石に自動じゃないよな〜 多分このバケツの中にある水で流す感じなんかな〜)
その厠?の周りには炭が置いてあります多分消臭効果のためだろう
僕は静かに扉を閉めてその部屋を後にした
そして最後の部屋の前に行く
(たのむ!ここでなんでもいいから知識欲を満たすものがあってほしい!神様仏様よろしくお願いします〜!だがバカ神てめぇーはダメだ)
と、なんとも罰当たりなことを思いながら扉を開けた するとそこは僕にとっての理想郷が広がっていた
(ビンゴ!! 本棚がある!)
この部屋は多分書斎なのだろう、中央に簡素な机と羽根ペンがあり、その側に本棚が3つある
(とりあえず一番下の段の本を読んでみよう 上は高くて取れないからね)
にやにやと笑いながら背表紙の題名を読む どうやら日本語ではない文字だがなぜか意味はわかるらしい ここら辺はバカ神に感謝だ
(ふむふむ…お!これだ! 『魔法の詠唱と効果〜入門編〜』まさに僕の求めてた本じゃないか!)
その分厚い本をひーこらひーこらばひんばひんとなんとか取り出し本の最初のページを見てみると魔法と相性の関係が記されていた
(なになに?『魔法とは体内の魔力を使い事象を顕現させる働きのことである』 なるほどなるほど
『そして、詠唱を声に出すことで魔力を練り上げ、魔法を使うことができる』 と、なると詠唱により体内の魔力というエネルギーを別の形のエネルギーとして外に出すのをオートマチックにやれるのか)
なんとも興味深い話だ 思ったより奥の深い分野らしいな魔法とは 次のページは目次のようだった
(結構色んな魔法が載ってるんだな
『火魔法』『水魔法』『土魔法』『風魔法』『光魔法』『闇魔法』『雷魔法』か〜全部気になるなこれは ん?)
下の方に何やら気になるページがあった その項目は『無詠唱について』である
僕はそれが書いてあるところまでページをめくった
(無詠唱って言ったらチート代表格だからな、えーっと『無詠唱のできる魔法使いはとても少なく その分野の研究はまだ発展途上と言えよう。現在わかっていることはその魔法の根源的なイメージを掴むことで無詠唱を行える可能性が高いということだけだ。無詠唱ができる魔法使いに話を聞いたところイメージを掴むために四六時中考え続けてやがてできるようになっていたと述べている。』か〜 なるほどね〜根源的なイメージか火ならば燃焼物が空気中または酸素中で光や熱の発生を伴いながら、比較的激しく酸素と反応する酸化反応のことかな?この場合の燃焼物は多分魔力というエネルギーだけど)
そして何がなく僕はそのイメージのもと体内の魔力を燃やそうとしてみた すると体内から何がエネルギーが湧き出し腕を通じて指先に集まりやがて指先に小さな炎がともった
(嘘だろ!無詠唱できちまったよ!!そうかある意味根源的なイメージを前世の知識で得ているから、魔法が無詠唱でつかえるんだ!)
僕はそれから他の魔法も使えないか試していたらなんと闇魔法と光魔法のイメージの掴めないもの以外は使うことができた まだ指先に小さなものを出すことしかできないがたしかに魔法が使えたのだ
(魔導王なくても魔法使えんじゃん〜)
調子に乗った僕はどんどん魔法を使っていた そうしていると急に倦怠感に襲われた
(ん、なんだ魔法が使えないし体がだるい)
ステータスを見ると僕の魔力値が0になっていた
(これが魔力枯渇か、思ったよりきついじゃないか)
僕は重い体でなんとか本を戻して、しばらく寝転がっていたがやがて倦怠感が薄れてきていた ステータスを見ると魔力値が1に増えていた
(魔力が1でもあると倦怠感は消えるのか とりあえずベッドに戻ろう)
僕はまだカサカサと部屋から出てベットによじ登り自分の寝床に戻りその日は眠りについた
そしてその日から僕は毎日深夜にその本棚で知識を貪り食うことにした 睡眠は赤ん坊なので昼も取れるしなんとかなった そんなこんなで半年が過ぎ 色んなことがわかってきた
まずは経験値についてだ
体のレベルは魔物を倒したことで得られる経験値によって成長するようだ 強ければ強いほど獲得経験値は多くなる スキルのレベルはそのスキルを使うことによって得られる経験値で成長するらしい
次にスキルについてだ
スキルは先天的な固有スキルと 後天的なスキルの二つに分かれる
固有スキルは一人につき一つと決まっているらしい
スキルはその技能を何回か行うことで獲得できるものらしい だから例えば剣を振ると【剣術】のスキルがつくと言った具合だ
そして魔物という存在だ、魔物は魔力溜まりから自然発生し人や家畜を襲うらしい 倒されると経験値と素材を落として消えるらしいのだ なんとも不思議システムだと思う
最後に魔法の闇魔法と光魔法についてだ
闇魔法とは闇を行使する魔法で 闇を実体化させることのできる能力らしい この魔法はいまいちイメージが掴めず無詠唱で使うのは無理だった
光魔法とは光を行使する魔法のようだ 光を実体化する能力であるがそのほかに傷の治癒を行う能力でもあるらしい 光の実体化は出来なかったが、治癒の無詠唱は可能だった
と、まぁ得た知識はこんな感じだ 毎日のスニーキングで【隠密】のスキルを獲得したほどだ
そして僕のスキルは少しだけ変わった
まず闇魔法以外のスキルを得た、そのレベルは全て3まで上がっている 3に上がると出力が増えたように思える
そして魔力を体内で動かす遊びをしていたら魔力操作のスキルを得た 魔法に思考性を持たせて形を変えたりできるようになった このスキルのレベルは4にまで上がった 魔法を枯渇するまで使った後に少し回復した魔力を動かすのを暇つぶしにしているからここまで上がったのだろう
鑑定はレベルが4まで上がった 常に鑑定を発動しっぱなしだったからだろう あとはまぁ経験値5倍だしな〜
だがいまだに固有スキルの【剣召喚】は使えていない その詠唱はわかるのだが生後半年の我が身は未だ舌ったらずなので詠唱が成立しないのだ
両親はまだまだラブラブで僕に妹が弟ができるのもそう遠くない未来だろう
あと僕の住んでいる村のこともわかってきた
どうやらこの村の名前は『ブルグ村』というらしいのだ この村の村長がブルグという名を授かってからその名前になったらしい
父は元冒険者ということもあり隣のシルヴァードと一緒に村の周りの魔物退治をしている用心棒みたいな仕事をして生計を立ててるらしいのだ
なんと、うちの父もシルヴァードも元は有名な冒険者らしく、頼りにされているようで村外からも依頼が届くようなのだ
ちなみに二人の鑑定結果はこんな感じだ
グラン(26) レベル 87
体力: 8560
速さ: 6700
防御: 2450
攻撃: 9350
魔力: 730
知力: 560
運 : 42
固有スキル
【剣の友】
スキル
剣聖術 レベル7 身体強化 レベル6
風魔法 レベル6 土魔法 レベル4 神速 レベル8
称号
【剣聖】【Aランク冒険者】 【剣神の加護】 【竜殺し】
シルヴァード(31) レベル78
体力:8200
速さ:4350
防御:3200
攻撃:7800
魔力:580
知力:360
運 :35
固有スキル
【剛力】
スキル
斧聖術 レベル7 身体強化 レベル8
火魔術 レベル4 水魔術 レベル2
称号
【斧聖】 【武神の期待】 【Aランク冒険者】
二人とも恐ろしいステータスをしている…なんでこんな村にいるんだろ?
Aランク冒険者って感じだと冒険者にもランクがあるらしいな この世界を知るにはもってこいの職だな とそう思った
シルヴァードの娘の英雄の卵ことリリクシールとはたまに会うがその度に鑑定をしている しかし伸びているのは体力くらいなものでまだそのチート性は発揮していないようだ
あと余談ではあるがやはりあのおばさんは家政婦さんらしく名前はカレンというらしい
とまぁ半年でわかったのはこれくらいなのだ
もう少しわかるのは本棚の上まで手がかかるまで
だろう