第二章 冒険者編 第6話 厄災の目覚め
ぶっちゃけ名前はノリと勢いで決めてます
その後ギルドは騒然となった
ゴブリンキングだと思われた魔物が、それ以上の化け物かもしれない可能性が高いとなったからだ
この結果、調査依頼のランクが上がりBランクとなったので、僕は調査ができなくなってしまった
まぁ、ゴブリンキング以上の怪物が発生するかもしれない場所の調査なんて普通に危ないから、よかったんだけどね
これから調査依頼しなくていいから、他の依頼をしてみるとしよう
シルバーもいるし、遠出でもして採取依頼とか色々消化しようかなぁ
ちなみに、他の冒険者の反応は様々だった
ゴブリンキング以上の魔物に怯えるもの、逆に喜び勇むもの ランクが上がったことで受けられなくなり、落胆する者、ほっとしたもの など色々だった
その中でも異常な反応だったのは、あの金髪ドリルだった ランクが上がったことに憤りを露わにし、詰め寄ったのだ 他の冒険者達から抑えられていたが、そこまでゴブリンキングに執着しているとは思わなかった 何か因縁でもあるんかね?
と、そんなハプニングはあったがその日はそこでお開きとなり、みんな通常の仕事に戻っていった
僕もそのまま宿に帰ってリューネちゃんに昼ごはんのお礼を言って 絶品晩御飯を食べ、そのまま寝た
……………
今日も日の出とともに起床する
この街の冒険者でこんなに早起きなのってもしかすると僕だけなのかもしれない
ギルドで潰れている先輩方はノーカンだ ずっと起きてるだけだしね
「おはよ〜 リューネちゃんは今日も早起きですね」
「おはようございます! お客さんより遅く起きるわけにはいきませんよ〜 ささっ 座ってください 朝ごはんできてますので」
毎朝楽しみなご飯の時間だ 今日は何かな〜
もうすでにいい匂いがしてくる しばらくするとリューネちゃんがお盆を持ってくる
いつも大変そうだけど、前に手伝おうとしたら拒否られたのだ
リューネちゃんにも何か矜持があるのだろう
「んしょっ んしょ はい! お待ちどうさまです さぁ召し上がってください」
今日の朝ごはんはいつもの白パンと、目玉焼きとベーコンのような加工肉だ 今日も美味そうだ
「いただきます! むぐっむぐ あぁ〜今日も美味いです!! なんでリューネちゃんが料理すると、普通の料理でもこんなに美味しいんだろうなぁ 」
「いつものように調理しているだけですよ〜 えへへっ」
天使や、天使がおるわ 天国とは現世に存在したんやなぁ…
今日も一瞬で完食してしまった 味わって食べたいけど美味すぎて無理だわこりゃ 罪な味だぜ
「ご馳走様でした! 今日もおいしかったです!」
「はい! お粗末様です 食器下げますね〜 あ、一応お昼のお弁当作ったんですけど 今日は必要ですか? そうじゃなかったら私のお昼にするからいいんですけど…」
今日はお弁当の予定はなかったけど、作ってくれたみたいだし、絶対美味しい 今日もお弁当にしよう
「じゃあお願いしてもいいですか? お昼ご飯、取っちゃうことになりますけど」
すると、リューネちゃんがパァッと大輪の笑みを浮かべた
「いえいえ! アレンくんに食べてもらった方がお弁当も嬉しいと思います!
えっと 今回はお代はいりません! 私が勝手に作っただけなので」
お代はいらないと言われたが払わない訳にはいかない そうリューネちゃんに言ったが 何度も断られてしまった 今度何か買ってこよう
リューネちゃんにお礼を言って宿を出た
今日は遠出するからシルバーのおやつにラップルーを買っておく
さぁ、出勤しましょかね〜 今日も一番乗りかな〜
ギルドに入るといつもの光景とルカさんがいた
「お、今日も早いっすね〜 残念っすけど調査依頼は受けらんないっすよ〜」
「いや〜全然いいんですけどね 僕も好き好んでゴブリンキング以上の化物の相手なんてしたくないですよ 今日は普通に違う依頼受けますよ」
「そうなんすか? てっきりバトルジャンキーかと思ってましたよ〜 あっははは! じゃあ依頼持ってくるっす!」
ルカさんは僕をなんだと思ってるんだ? ゴブリンジェネラルは成り行きだよ ほんとだよ
さてさて今日の依頼は何があるかな〜 ちょっと遠出もしたいし
お、これいいかも 『Dランク依頼 ヒポポス草5本の採集 銀貨5枚』 結構奥地にあるからこのランクなんだな よし、これにしよう
依頼書を剥がして受付に持っていく
「これお願いします 今日も一番乗り達成ですよね」
「はいはい 受理しましたっす〜 一番乗りっすか? 残念アレンくん〜 一番乗りじゃないっすよ〜」
ん?誰なんだろうじゃあ
「一番乗りはクリスティーナちゃんっすよ 最近やる気なのか、毎日一番乗りはクリスティーナちゃんっす!」
クリスティーナ? あのドリルの名前だよな?たしか やる気があるのはいいことだが、最近は目に余る程の異常な執着が見られる 何もないといいが…
「じゃあ僕も頑張らないとですね じゃあ頑張ってきます」
「頑張るっすよ〜」
さ〜て今日も元気にお仕事だ
……………
今日は遠出するつもりなので馬房に行きシルバーを連れて行こう
「今日はお前の初出勤だな しっかり運んでくれよ〜」
「ぶるるっ」
シルバーはそう鳴いて、まるで心外だと言うように鼻で僕を少し押した
「ははっ ごめんごめん そうだなお前はすごい奴だもんな 」
と、謝りながらシルバーを撫でてやると、満足そうに顔を擦り寄せてくる
よし 早速向かおう
僕はシルバーには乗らずに、手綱を引きながら裏口に向かう まだ乗ったことないから街中ではまだ乗らないでおこう
そのまま裏口を抜け、原っぱの開けたところで止まる
「じゃあ乗らせてもらうぞ よいしょっと」
シルバーに初めて乗ったが、抵抗されることもなくすんなりと乗せてくれた 安定感も抜群だ
これはいい馬を拾ったかもしれない
「よし! お前にとっては初仕事だな 頑張ろうな! ハイヨー! シルバー!」
シルバーが駆け出す 足取りもしっかりと力強く、地面を蹴り進んでいく 空でも飛べそうだ
景色が後ろにすっ飛んでいき、風を切り裂いて進む
気分は爽快だ
さてと、結構走ってきたな そろそろ目的の草の生息地だろう ここからは歩いて森の中を進まないといけないので、シルバーには一先ず休憩しておいてもらおう
手綱を木にくくりつけて、何個かラップルーをあげる バクバクとすぐに食終えてしまった
いっぱい買っておいてよかったほんと
「え〜っと ヒポポス草の特徴は、確か青い小さな花をたくさん咲かせていて、葉っぱは平行脈だよな
殆どの場合、群生してるからまとまっててわかりやすいらしいけど…」
地面を良く見ながら探してみると、それらしき花を見つけた
一応鑑定してみるとしっかりと『ヒポポス草』となっている 周りにも生えていたので依頼量の5本取っておこう
鑑定の説明だと、解毒剤の材料になり
この草だけ食べても解毒の効果があるらしい
便利な草である
草も回収し終えたし、そろそろお弁当にしようかな
シルバーの元に戻り、その側に座って食べることにした シルバーにはラップルーをあげる
さてさて、今日のリューネちゃんのお弁当の中身は何かな〜
うそだろ! 米だ、異世界にも米があるのか
中は、焼肉丼だった シンプルに塩で味付けされた肉が上に乗せてある
ってか この世界に来てから一回も米なんか聞いたことも見たこともないぞ… まじでどっから仕入れてるんだろうな 帰ったら米の産地を聞いてみよう
元日本人として、米は抑えておきたいポイントだ
よし、食べてみよう 美味い、美味すぎるよ本当に…
気付いたら、僕の目からはツーっと涙が流れていた
僕の遺伝子というか、記憶が求めていた米の味がそこにあったのだ なんとも言い難い感情に包まれた
いつもはすぐに食べ終わってしまうが、僕はその気持ちを必死に抑えてじっくりと味わって食べた
今日はお弁当の予定では無かったけど、お弁当にしておいてよかった
いつもより長い時間をかけて完食し終えた
身も心も満足した食事だった〜
帰りはのんびりと行こうと考えて、シルバーに乗り、パカパカと周りの景色を見ながら帰っていった
こう落ち着いて景色を見ると、人の手があまり入っていない森の雄大な自然に圧倒される
日本の頃は研究職だったこともあり、身近な自然はせいぜい、近くの公園や街樹くらいだった
雑木林を駆け回ったのも、小学生の時が最後だろう
その雑木林も人の手が入っていたし、人に対して開かれていた場所だった
このように全く人のために開かれていない自然はある意味で、全ての生き物に開かれているのだと思うなぁ
そんな感慨に耽りながら街に戻る
その途中であの魔力溜まりの近くにきた
冒険者もちらほらと居て、あの先輩冒険者ガッチェスさんの姿もあった
「おう! アレン! お前も調査か!?」
こちらに気づいたらしく、話しかけてきた
「いや僕、まだDランクなんで依頼受けられないですよ 今日はヒポポス草の採集依頼を受けて、帰ってきたところです ところで、調査で何かわかりましたか?」
ガッチェスさんは首を横にふる
「いんや、今んところ何もだ お前の話によると魔力が多いらしいが俺たちには感じられねぇんだ まぁ異常に周りの魔物がいないから異常な場所ってのはわかるんだがな まだ監視は続けておくさ」
「そうですか… 気をつけてくださいね」
「がっはっは! こんな仕事だ、いつでも覚悟はしてるぜ! だが、タダで殺される気はねぇけどな!」
何とも頼もしい返事だ いつゴブリンキング以上の怪物なるものが生まれるのかはまだわからないため、まだ油断はできない
「じゃあ僕は先に上がりますね お疲れ様です」
「おうよ! お前も早くランク上げてもらえ! ギルマスのネェちゃんに頼めば一発だろ! ガハハっ」
僕はヒラヒラと手を振りながら、苦笑いするしかなかった そんなことしたら更にドリルが突っかかって来そうだ しばらくは平穏に過ごしたい
そろそろ街に着く、シルバーを撫でて労ってやろう
「おつかれシルバー 最高の仕事だったよ」
シルバーは鳴き、僕に答えてくる
こいつとは長い付き合いになりそうだ
馬に乗ったまま街に入り宿の馬房にシルバーを乗り入れる
シルバーに残りのラップルーを全部食べさせ、一撫でして馬房を後にした
よし ギルドに依頼の達成報告に行くか
ギルドに入ると、受付はレティシアちゃんに交代したようだ
「こんばんは レティシアちゃん 依頼の達成報告したいんですけど」
「あらぁ〜 アレンくんじゃないのぉ どれどれ〜 うん!ちゃんとヒポポス草5本採ってきたのね えらいえらい! じゃあ報酬持ってくるわね〜」
といってレティシアちゃんは裏へパタパタと向かい、お金を持ってくる
「はぁい 報酬の銀貨5枚よ〜 こういう採集依頼はあんまりみんなやりたがらないから 助かるわぁ」
「そうなんですか? こっちの方が労力が少ないと思いますけど」
「ん〜ん 冒険者は大体戦闘狂みたいな人たちだし、採集するくらいなら危険のある魔物退治の方を優先しがちなのよぉ〜 だからこういう依頼は寝かされがちなのよ」
なるほど ガッチェスさんがお花探しをチマチマしてるところなんか想像もできないしな
確かに冒険者が討伐依頼を好みそうなのは納得だ
そしたら僕はその隙間産業でもしよかね
「じゃあ僕はしばらく採集依頼を優先して受けますよ みんなやらないから報酬も良いですし」
「ほんと大助かりしちゃうわ! じゃあ一つおすすめの依頼があるんだけど ちょっと早起きしなきゃいけない以来だけど…聞く?」
早起きしなきゃいけない依頼かぁ
まぁ、いつも早起きしてるし大丈夫だろう
「はい その話、ぜひ聞かせてください 早起きは得意ですし」
「あらほんと? うふふっありがとねぇ その依頼ってのが『朝日下草』っていう草の採集なの
その草はその名の通り朝日が登ってから1時間しか咲かないし、その状態で摘んであげないと効力がなくなっちゃうっていう個性的な草なの〜
その花は白く輝くから、すぐ見つかると思うわよ〜 裏口の前にある原っぱの奥の方に生えてるわ
どう?受けてくれる?」
なんとも不思議な草だな 他の冒険者で早起きしてそうな人もいなそうだし ほんとにずっと寝かされてきた依頼なんだろう 普通に興味もあるし、受けない理由もない
「じゃあ受けさせてもらいます じゃあ依頼もう受けときますね 明日そのまま行きたいので」
「わかったわぁ じゃあクエストボードから持ってきてもらってもいいかしら」
クエストボードを見ると、端の方にその依頼があった 必要な量は10本らしい 報酬のところに2回訂正が入って銀貨8枚になっている、だいぶ高額だ よっぽど寝かされ続けていたのか紙も色褪せ、日光焼けをしていた
「はい お願いします」
「はぁ〜い 受理したわよぉ 受けてくれてお姉さん大助かりよ! がんばってね〜」
レティシアちゃんに見送られながらギルドを後にする
明日は早起き確定だな どう起きよかな
「ただいま〜 リューネちゃん」
宿に帰るとリューネちゃんが珍しくクッキーのようなお菓子を食べていた 小さな口でモッモッと食べていてハムスターみたいだ とっても可愛いのだ!
「あ、おかえりなひゃい すみまへん、こびゃらがふいてしまって」
「いえいえ食べててください あ、そういえばお昼のお米ってどこ産なんですか?」
「ごくんっ お米をご存知だったんですね! お米は東のほうにある島でしか栽培されてないんですよ〜 唯一無二の味わいがあって美味しいんですよね」
東の島か、一度訪れておきたいな そうなるとやはり、リューネちゃんの仕入れ方が気になる
「あの〜、リューネちゃんはどうやって食材を仕入れてるんですか?」
すると
「うふふっ」
と、ただ笑うだけだった 怖い… やばい方法で仕入れてるんじゃないか? 怖かったのでそれ以上は聞けなかった 触らぬ神に祟りなしよ…
「うふふっ じゃあご飯用意しますねー」
「は、はい よろしくお願いします…」
さ、さぁ気を取り直して晩御飯だ いやーたのしみだなー
「んしょっ はい!晩御飯もご飯使ってみました〜 召し上がれ〜」
今日の晩御飯は生姜焼き定食のようだ といっても生姜でも豚肉でもないのであくまで風である
肉を一口食べ、ご飯をかき込む
美味い、あまりの美味さに、ついリューネちゃんの前だが涙を流してしまう
「え!? 大丈夫ですか? もしかして味おかしかったですか?」
「いえ ちがいます… あまりの美味しさに感動して涙が出てしまったんです」
リューネちゃんがニヘラと笑って顔をお盆で隠す
「そんなに褒めてもらっても何も出ませんよ〜 えへへ〜っ おかわりもあるので沢山食べてくださいね!」
僕は結局その後、3回もおかわりをしてしまった
明日のことを話すと夜明け前に起こしてくれることになった 感謝…
明日はいつもより早く起きるので部屋に戻った僕はすぐに眠りについた
………………
「………きてください、起きてください」
はっ! え?天使? いつの間に死んでたんだ?
「起きてください アレンくん 約束の時間ですよ」
あぁ、リューネちゃんか そういえば昨日頼んでたわ
「ありがとうございます リューネちゃん お陰で起きれました」
「いーんですよ〜 ささっもうご飯にしましょう 早くしないと夜が明けてしまいますよ」
窓の外はまだ真っ暗だ みんなまだ寝てる時間だろう
朝ごはんはすぐ食べられるように配慮されているのかサンドイッチだ 軽食のようだが抜群の美味さだ
これがリューネちゃんクオリティー
急いで宿を出て、馬房からシルバーを出し、ヒラリと乗り込み、裏口に向かう 人もいないので駆け足で駆け抜けていく
裏口に向かっていく途中から段々と空が白み始めてきた このまま行けば十分間に合うだろう
裏口に近づくとこの時間にも関わらず、人影がある 門番かと思ったが、どうやら違うようだ
よく見るとドリルだった こんな早くから活動してるのか そりゃ一番乗りは無理だわな
あまり気にも止めることなく駆け抜けていく
今は時間がないのだ
そのまま登り始めた朝日に向かってシルバーを駆けさせる そろそろ見えてくるはずだが…
すると先の方にある小高い丘に、何か白い光が見えて来た あれか!
近づくと百合の花に似た花が、白い光を放ちながら咲き誇っている とても美しい光景だ…
僕は急いで依頼通り10本の草を採集する 不思議なことに、その花は摘んだにも関わらず、美しく輝いていた
そこで僕は昨日のお弁当のお礼を忘れていたことに気づいたので、もう2本だけ摘んだ リューネちゃん喜んでくれるかな?
鑑定してみると、ちゃんと『朝日下草』と表示された この前のヒポポス草と組み合わせると強い解毒剤になるらしい 一応もう二、三本とっとこ
さて、帰るかと思いシルバーに跨ると異変が起こった
「ウゴォォォォォオアア!!!」
と、遠くから恐ろしい声が聞こえてきたのだ
(まじかよ! よりによってこのタイミングで、化物が産声を上げやがったのか!)
僕は馬に跨り、急いで現場を見に行く
ついに厄災が目を覚ました瞬間だった
……………
【side: クリスティーナ】
私はハシュッド家の四女として生まれた
私の家は代々続く優秀な魔法使いを輩出する家系で、母様も父様も、姉様達も、兄様達もみんな魔法系統の固有スキルを持って生まれてきていたの
私も絶対、魔法系統のスキルだって思っていっぱい勉強もしたし、すっごい楽しみだったわ
でも、鑑定の儀でその幻想は打ち砕かれた
私のスキルは【家事のスペシャリスト】だったの
効果はその名の通り家事全般がとっても得意になるものよ 笑っちゃうでしょ?
その日から私の人生は一変したわ
家族は私に対して酷くよそよそしくなった、みんな私を憐れみの目で見てきた 父様なんて、お見合いの時は困らなくていいな、なんて言ってたわ
そんな態度なら、冷たくされた方がよっぽどマシだったわよ
そんな環境で2年が経って7歳になった時、私はズタズタにされた、なけなしのプライドに従い、少しのお金と魔法の杖を持って家を飛び出し、そのままの足で冒険者になったわ
それから私はとっても頑張ったわ 今振り返ると、気が可笑しいのかってくらい無茶してたわね 毎日毎日、魔法で魔物を倒して、レベルを上げて、依頼をこなしていったわ
最初に魔物を殺した感覚は忘れられないわ…
その日は眠れずに泣きながら夜を明かしたのを覚えてるわね
そんなことを繰り返して、はや2年が経ち、私は9歳になっていた ランクはやっとの思いでDまで上がったわ 最初の頃を思い出すと自分を褒めてあげたい気分よ
そんな時だ、自分が冒険者を始めた年と同じ年の少年、アレンがギルドにやってきたのは
そのアレンは自分より小さく細身だったから、自分がとっても苦労した日々を思い出して、こんな小さな子には、そんな思いはさせられないって思ったの
でもそこで私の嫌なプライドが出ちゃったのよね
思わず偉そうに意見しちゃったわ ただ私の経験を話して促せばよかったのに まともに人と話したこともなかったし、ましてや、男の子となんて話したことなんて皆無に等しいしいわけで、思わずそんな態度で接しちゃったのよ
しかも、アレンが私のことをドリル?とか言う変な名前で呼んでしまったもんだから もう歯止めが効かなかったわ
でも、あの時、なぜか自分の家名を誇り高いと言ったことには自分でも驚いたわ もう捨てたはずなのにね…
私は今に見てろって思った、すぐに音を上げて冒険者を諦めるって思ったのよ
でも違った、アレンはゴブリンジェネラルとかいうすごい魔物を一人で倒しちゃったらしく、たった1日で私の努力してあげたランクまで上がっちゃったのよ
正直、とっても悔しかった、ランクは私を認めてもらった証、努力の証だったのに、ぽっと出の男の子、しかも私より小さい子に追いつかれるのは我慢ならなかった
そこで私は考えたのよ、アレンよりすごい魔物、ゴブリンキングを倒したら今度は私が認めてもらえるって
次の日に調査依頼がでてから私は誰よりも先に街の外に出た、絶対に最初に見つけて討伐してやるって思ってたの
そんな日々を繰り返していると、あのアレンがなんと、手がかりを見つけたらしいのだ
私は焦ったけど肝心の魔物はまだ発見できていないらしく、場所の情報だけだってことだったから、ほっとしたわ
そしたらまさかのゴブリンキング以上の化物が出てくるかもってことで、依頼のランクが上がっちゃって受けられなくなっちゃったのよ
私は怒ったわ、絶対に覆らないことだって分かってたけど、今までの努力は何だったのかって思ってつい頭に血が上ったのよ
宿に戻った私は考えたわ どうやったらバレないで調査にいけるかってね
そこで考えた作戦はこうよ、みんながまだ活動してない夜明けに出かけて調査をし、バレないうちに帰ってくるというものよ
一応バレないように他の依頼を受けてから出かけていたし、誰にもバレなかったわ
そして今日も私は夜明け前に出かけていく
街の裏口まで行くと後ろからすごい速さでこちらに来る馬が見えたわ
びっくりしたけど、それ以上にびっくりしたのはその馬に乗ってるのは、あのアレンだったことよ
一瞬、アレンは私と同じ作戦で手柄を狙ってるんだわって思ったけど 彼は私を一瞥すると、違う方向に駆けて行ったわ ほんと、肝が冷えるとはこのことよ
私はあの、報告のあった場所に向かう
結構奥にあるので少し大変だが、割と慣れてきていたのでスイスイと進める
ふぅ、やっと着いたわ 今のところ異常はなしね
化物、早く出てきなさい!私が退治してあげるわ
そんなことを思っていたら周りの雰囲気が突然、ガラッと変わった
周りの大気の温度が下がったように、冷たくなり、周りの鳥が一斉に飛び立つ
そして目の前の空間がグニャリと曲がったかと思うと、突然光に包まれた
思わず目を瞑ると
「ウゴォォォォォオアア!!!」
と、大きな声が辺りに響いた
咄嗟に耳を塞いでしゃがみ込み、目の前を見ると
そこには、まさに厄災が立っていた
体長は建物の二階くらい大きく、手には禍々しいオーラを放つ剣を持っていた その刃は怪しく紫に光っている その化物はこちらに気づいたらしく、こちらに視線を合わせてくる
「オレノナハ!! ゴブリンディザスター!! キサマラニ、ワザワイヲモタラスモノ!! グォォオオオ!!」
(嘘!魔物なのに話せるなんて! くっ! なんて音圧なの! 声だけで体が飛ばされちゃいそう )
私は耳を押さえながら、杖を構え、こう叫ぶ
「私の名は! クリスティーナ・ハシュッド!!
お前を倒す者の名よ!! 覚えときなさい!」
すると化物は、口を大きく歪め、凄惨な笑みを浮かべた
「ガァッハッハッハ!! コノオレヲ、タオストイッタカ? ムリナハナシダ! キサマラハ、ジシンヤ、カザン、アラシヲトメラレルノカ? オレハ、ヤクサイ! ダレニモトメラレナイソンザイナノダ!!」
化け物はそう言って剣を構える
「先手必勝よ!! 根源たる炎よ 今その大いなる輝きを示し 我らの道を照らしたまえ ファイア!!」
私の渾身の魔法をそいつに放つと、すごい音がして辺りが煙に包まれる
「やった! 当たったわ!!」
私が喜んでいると、段々と煙が晴れていく
「なっ! 嘘でしょ… 命中したはずなのに…」
そこからは完全に無傷の化け物が姿を表す
「ガァッハッハッハ!! コムスメヨ、イマノハアタッタノデハナイ! アタリニイッタノダ!!
オマエラノマホウガ、ドンナモノカタメシタダケヨ!! マァ、カユクモナカッタガナ!」
う、うそよ… こいつは痩せ我慢してるんだわ! そうに決まってるのよ!
「出鱈目を言わないで!! 根源たる炎よ 今その大いなる輝きを示し 我らの道を照らしたまえ ファイア!! くらいなさい!」
私が放った魔法がそいつに当たる瞬間、その姿が消えた
「え?」
すると、すぐ側に奴が立っていた
「オソイ!!」
やばい!と思った瞬間すごい衝撃で横に吹っ飛ばされて、木にぶち当たって止まる
見ると化物は足を蹴り上げた体制で止まっている
(う、うそ… 蹴られたって…いうの? まったく…… 見えなかった…わ )
すぐ反撃に移ろうとするが、体が動かない
(え? からだが……動かな…い? な…んで?)
私は蹴られた衝撃で体のあらゆる骨が折れ、満足に体が動かせる状況ではなかったのだ
そうしてる間にも化物が、こちらに歩いてくる
(うそっ! やつが…くる… 動いて! 私の体…動いてよ!)
体に力を入れようとするが、全くと言っていいほどに入らない
(やだっやだよぅ こんなとこで死にたくないよ!
た、たすけて… だれか… たすけてよ!)
声も出せずにもがきながら距離を取ろうとするが、ずりずりとなるだけで進めない
すると化物が私の目の前で止まった
「ニンゲンノコムスメヨ!! コウエイニオモウガヨイ!! コノ、ゴブリンディザスターサマニ、サイショニコロサレル、キネンスベキシタイニナレルノダカラナ!! 」
そう言ってゆっくりと剣を振りかぶる
(私、死んじゃうんだ… まだやりたいことあったのになぁ… もっと魔法を学びたい、もっと美味しいものが食べたい、もっと着たい服もあるし、もっと行きたい場所もあるし、もっと色んなものを見てみたい そして何より…恋がしたい…
死にたくない… 死にたくないよ… 助けて! 誰か… 助けてよ!)
「アノヨデオレノギャクサツヲ、トクトウセキデミルガイイ!! シネ!!!」
来たる衝撃に備えてぎゅっと目を瞑る…………
だが、いつまで経っても衝撃が来ない
まさか気が付かないうちに殺されたのかと思い、目を開けると、衝撃的な光景が広がっていた
「グッギギ! キ、キサマナニモノダ!!」
「よかった〜 なんとか間に合った〜! はぁ… なんでこんな厄介ごと招き寄せちゃうんだろう…」
そこには尻餅をついた化物と剣を構えた男の子がいたのだ
私が驚いて目を見開いていると、その男の子がゆっくりと振り返った
「さてと お転婆なお嬢様、お怪我はございませんか?」
その子はなんとあのアレンだったのだ
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