第一章 誕生編 第11話 失ったものと得たもの
戦闘描写って難しいんですね
……………
目を覚ますとベッドに横たわっていた
(知らない天井だ…… まぁどう見ても僕の部屋の天井なんだけどね〜 僕的一回は言ってみたいセリフランキング 第4位のセリフを言いたかっただけだよ)
あれ? 鑑定の儀で街に出かけていたはずだよな?
なんで僕の部屋のベッドに寝ているんだろ?
どことなく記憶が曖昧だ… 記憶をぼーっと辿る
するとはっと気づいた
(そうだ! 魔族の襲撃があったんだ! リリと母さんは無事なのか!?)
そう考えていると部屋のドアが開いて、母さんが入ってきた 母さんが目を見開いて驚く
「あ、アレン……?」
「母さん! 大丈夫だ……」
「目が覚めたのね〜!! よかったわ〜!!」
そう言うと母さんは僕にガバッと抱きついてきておいおい泣き出してしまった
(一体なんなんだ!?)
僕は突然の予想外の行動に目を白黒させてしまう
「グスッ よかった! もう目が覚めないかと思った〜」
“目が覚めないかと”? どういうことだってばよ?
「ねぇ母さん 一体寝てる間に何があったの?」
「それがね…」
母さんの話はこうだ 魔族を討伐した後 僕は昏睡状態になってしまっていたらしい だから村に運んで療養させていたんだけど、全然目が覚める気配がなかったという
魔族が街中で堂々と襲撃を行ったことは、国まで報告が行き大問題になってしまっているらしい
当然、誰がその魔族を討伐したのかという話になり母さんは僕がやったことだと証言したんだけど、五歳児が魔族を、しかも上級を討伐したとなると、とても信じられる話ではなく、ひとまずはその場にいた母さんが討伐したことにされているっぽい
「そうなんだ… 僕はどのくらい寝てたの?」
「三ヶ月よ」
「そんなに!?」
それほど長く昏睡していたとは…… そりゃ目覚めたら母さんも驚くわな〜
そんなことを考えていると、ふと、さっきの話の中にリリの話が抜け落ちていることに気づいた
「そうだ リリは? ちゃんと無事だったんだよね?」
それを聞いた母さんは目を伏せて言い淀む
「もしかして! リリが何か怪我を負ったとか?」
「いいえ 健康体ではあるはずよ…」
と母さんは含みを持たせた言い方をし、まだ何かを言いづらそうにしている
「母さん! じゃあなんでそんなにリリのことを言いたくなさそうなの?」
やがて母さんは決心した顔をする
「アレン 落ち着いて聞いてね」
「え?」
「リリはもうこの村にはいないの」
どういうことだ?意味がわからない
「な、なんで? じゃあリリはどこにいるって言うのさ?」
もしかして、もしかしてと最悪の想定が頭を駆け巡る
「リリは国で保護されることになったわ だから今王都にいるの」
最悪だ… おそらく国は魔族がリリを狙った理由はリリの持つスキルの将来的な可能性を恐れたからだろうと考えたのだ だから魔族から保護すると共に、魔族の脅威となるように教育を施すのだろう
来たる戦争において人族が優位に立つために……
(あの時… 絶対に守るって決めたのに!! 一番大事な時に僕は間抜けに眠りこけていたのか……)
涙がボロボロと溢れ、嗚咽を上げて泣いてしまう
「そうよねアレン 寂しいわよね… でも…いつかきっと会えるわよ…」
そう言って母さんは僕を優しく抱きしめて慰めようとしてくれる
(違うんだよ……母さん 僕は寂しいんじゃない…… 僕は怒っているんだ リリを守るって決めたのに…肝心な時に何もできなかった僕自身に対して止めどない怒りを感じているんだ)
僕は長い間そうやって母さんの腕の中で泣き続け、終いには疲れて眠りについてしまった
……………
ララティーナは疲れて眠ったアレンの髪をそっと撫でて部屋から音を立てずに静かに出る
リビングにはグランが座っていた
「ララ アレンは目が覚めたのか?」
「えぇ やっと起きたわ」
「本当か!? 今は何してる?」
グランが喜びを滲ませた顔でそう言ったが
「今は泣き疲れてまた眠っちゃったわ…」
とララティーナが悲しげに目を伏せる
「… そうか やっぱりリリちゃんがいないってのは悲しいのか 村に唯一の同い年の友達だしな…」
「そうね… シルヴァードさんのとこはどうだって?」
「あぁ 魔族に命を狙われたことに驚いていたが 国が保護下に置いてくれるって聞いて少し安心できたみたいだ」
「そうなの… シルヴァードさんのうちが生活費とかを払うのかしら? 大変じゃない?」
「それが逆なんだと なんでも、リリちゃんを預かるからって教育費も生活費も国が出すし、その上アイツん家に毎月金が払われるって言うんだよ まったく国は太っ腹だなぁ!」
そう言ってグランはカラカラと笑うが
「そう…なの…」
とララティーナは何かを考えていた
「ん?どうしたんだララ 何か気になることでもあったのか?」
「う、ううん 何でもないわ ちょっとアレンを撫で続けたら疲れちゃったみたい 少し横になるわね」
「そうか アレンも大人びたことするけどやっぱりまだまだ子供だな」
とグランがへへッと笑うがララティーナはそのまま寝室に向かってボフッとベッドに寝転んだ
(国が教育費も生活費も負担する上に親にお金まで? 何かおかしいわ 私の考えすぎだといいけど…)
……………
朝日で目が覚める くそっ最悪の気分だ
自責の念に囚われた僕は、昨日変な夢を見た
あまり思い出せないが、角の生えたザ・魔族みたいな男と白い鎧を着たイケメンと話す夢だった気がする
なんとも変な夢だ 見るんならリリの出る夢にしてほしいものだ
僕は夢の余韻を引きずりながらムクリと起き上がる
そのままリビングに向かおうと立ち上がると、違和感を覚えた
(ん?なんだ? 体がめちゃ軽だよ)
体が今までと比べ物にならないくらい軽く、調子がいいのだ 三ヶ月も寝ていたのに鈍るどころか良くなるだなんて…
(うーむなんだろう? すっごく寝たから すっごく体が休まったとか? そんな馬鹿なことはないか)
と僕はそんなに気にも止めずに扉を開けた
「おはよ〜」
「おぉ ようやくお目覚めだな! この寝坊助野郎が! 三ヶ月も寝やがって」
と、父さんが豪快に笑いながら頭を撫でてくる
「おはようアレン リリちゃんのことは悲しいけど 学校に進むっていうから永遠に会えないってわけじゃないわ」
「うん…もう大丈夫だよ、母さん」
(そうかその時に会えるかもしれないのか その時までに力をつけておかなくちゃ リリを守れなんかしない)
僕はパチンと頬を叩き気合いを入れ直す
「ど、どうしたんだアレン?」
「ちょっと気合を入れたんだよ あったときにリリに幻滅されないくらい頑張ろうってね」
「そうか!アレン かっこいいぞ〜! うん…そうだな… よし!今日から訓練を再開するとしよう! だが今日だけは特別メニューだ
じゃあ庭で待ってるぞ」
そう言って父さんは庭に出て行った
特別メニューとは何だろな?
「うふふっ その年で女の子のために頑張るなんてアレンはおませさんね〜 ささっ朝ごはん食べちゃいなさい! リリちゃんのために頑張れなくなっちゃうわよ〜!」
僕は急いで朝ごはんをかっこむと、母さんにご馳走さまと言いながら庭に出る
外ではいつものように切り株に座り、剣を地面に刺した父さんが待っていた
「来たかアレン じゃあ早速特別メニューをするとしようか」
おぉ、早速か はてさてその気になる内容は?
「お前が訓練を始めて2日目の時から今までお前に自分のステータスを見ることを禁止していたと思う」
そのことか! たしかにずっと禁止されていたな 理由は一体なんなんだろう
「2日目のお前は何かが変わっていた 覚悟とか、信念とかそんなもんじゃない何かが変わったのを感じたのさ だからその時俺は、お前がそれが何かを自覚するのを怖いと思っちまった つまりお前がそれを見て、揺らいじまう、迷ってしまうと考えたんだ」
なんのことだ?僕の中で何かが変わった?さっぱり検討もつかない
「あの時点での、お前の精神力は大したもんだとは思っていた だがまだ3歳だったお前に、果たしてそれに対して、しっかりと考えて結論を出せるのか疑問だったのさ」
僕の実際の精神年齢はもうアラサーではある、だが父さんにとってはどこまで行っても僕は三歳児だったんだろう
「本当はお前が7歳になって、冒険者を始めようってなったら言おうと思ってたんだがな だが、お前は母さんの話によると魔族から母さんやリリちゃんを守るために戦ったそうじゃないか
今日の朝もそうだ 昨日まで泣きじゃくっていたっていうお前が、リリちゃんに幻滅されない男になるって決めて、すぐに立ち直ったじゃないか
それを見て俺は“あぁ、こいつはもう大丈夫だな”ってそう思えたんだ 」
「自分に鑑定を使え アレン そして向き合うんだ」
正直怖いな あの時サテラに使った不可解な力… そして謎の声… 自分は何かが決定的に違くなったのかもしれない…
(だけど!僕はあの時決めたんだ! どんな力を使ってでもリリを守るって! その力を喰らってでも前に進んでやるさ!)
僕は覚悟を決め唱える
「“鑑定”!」
すると………
アレン(5) レベル82
体力:12000
速さ: 8900
防御: 7580
攻撃: 14500
魔力: 19600
知力: 10200
運 : 65
固有スキル
【剣召喚】 レベル3
{召喚可能剣: 木刀 鉄剣 ミスリルの剣}
スキル
深淵眼 レベル- 魔力支配 レベル3
上剣術 レベル7 火魔法 レベル8
水魔法 レベル7 土魔法 レベル9
風魔法 レベル7 光魔法 レベル7
闇魔法 レベル7 紫電魔法 レベル2
身体超強化 レベル2 隠密 レベル8
高速演算 レベル6 限界突破 レベル3
起死回生 レベル3
称号
【世界を渡るもの】 【研究者】 【世界神ストゥルドの期待】 【好奇心の化け物】 【悪魔殺し】
【ジャイアントキリング】 【ど根性】
【勇者の卵】【魔王の卵】
……………
「え?」
「どうだ?何があった?」
(これは言っていいものか?)
「驚かないで聞いてほしいんだけど」
「なんだ? どんなことがあったんだ?」
「ま、まずステータスが父さんより強くなっちゃった」
「えぇ!? いつのまにそんなレベルが上がってるんだ!?」
「多分だけどレベル1の段階で、上級魔族なんていう実力者を倒したからだと思う…」
「そ、そうか… ってそれは5歳の時のだろ!? ほら何か、スキルとか称号とか」
「うん、それなんだけど…」
「ん、なんだ? 俺の予想だと神からの加護とかなんだが どうだ?当たりか?」
「え〜っと… 多分それよりもちょっと特殊かも…」
「なんだ? 勿体ぶるなよ〜」
「うんとね、称号に 【勇者の卵】と 【魔王の卵】があるんだ…」
「へ? ゆうしゃ? まおう? 」
父さんが口をあんぐりとして動かなくなってしまった
「お、おーい? 大丈夫父さん?」
「だ、大丈夫なわけあるか!!! 俺はてっきり武神の加護とか、そんなことだろうと思ってたんだ! その加護に戸惑いつつも使命を受け入れたお前が俺と共に訓練により一層入れ込むっていう算段だったんだぞ!」
「そ、そんなこと言われても」
「いーか!アレン これから父さんが言うことを絶対守れよ! その称号を他の人に絶対に話すな 勇者も魔王もどっちもとんでもないことになるんだ! ましてや、お前はどっちもだぞ! 」
「う、うんわかったよ 絶対に言わない!」
「よし! それでいい! いいか 母さんにも内緒にしとけよ〜 ただでさえお前が三ヶ月ぶりに起きてるんだ 今言ったら確実にぶっ倒れる」
「もちろん!言わないよ!」
「こほんっ 肝心なことを忘れていた お前に聞きたいことがある 正直に答えろ」
「うん わかった」
「お前は今力を得ようとしている その力を何に使うつもりだ?」
僕はぎゅっと拳を握り、熱の入った目で父さんを見る
「僕は、守りたい人を、僕の大切な人を守るために力を使いたいんだ そのために、何も取りこぼさないように、力が欲しいんだ」
父さんが腕を組み、睨むように僕を見るが、それに負けずに、じっと父さんを見据える
「そうか… お前の信念がわかった だが、肝に銘じておけ 力を持つってことはお前の心に驕りや慢心を生む 俺は、その心に負けて、常に手を抜いた結果、死んでいった奴を何度も見てきた お前は力に呑み込まれるなよ 力は使われるものでなく、使うものだ わかったな」
「はい!!」
「うん!いい返事だ! それでは今日の訓練を始める! どうやらお前のステータスは俺をもう越しているようだ よって今日から実践を主に鍛えていく
」
「はい!」
「これからは手加減なしだ 俺も本気でお前を倒すつもりで掛かっていくとする 寸止めもなしだしっかり受け止めろ じゃあ早速お手並み拝見といこうじゃないか」
そう言って父さんが木刀を構える
今までとは段違いの威圧感だ サテラと同じくらいの圧を感じる これが父さんの本気……
「構えろ!アレン!」
僕はすかさず詠唱を唱える
「顕現せよ 我が心剣 その力を示せ “木刀” 」
現れた木刀をぎゅっと握り正眼に構える
「いくぞアレン!!」
「来い!!父さん!!」
……………
「いててっ 折れてるかもな…」
訓練を、終えた僕は体を引きずるようにして部屋まで戻り、ベッドに横になる
「ヒーリングかけとかなきゃ」
僕は無詠唱でヒーリングをかけ、痛みが引いてくのを感じてホッとため息をつく
「魔族に勝って ステータスも伸びたけど まだまだ父さんは強いな」
今日の模擬戦の結果は見ての通りボコボコだった
本気になった父さんの剣は速く、予想外の動きをする
(やはり、上剣術と剣聖術の差は大きいな)
そう思って悔しさも感じたが、それ以上に新たな目標、超えるべき壁を見つけたのが嬉しかった
(ふふっ 絶対に超えて、もっともっと強くなってみせる 待ってろよ!リリ!)
僕は拳を突き出して、グッと握る
そしてそれを解いて、午後に備えて眠りについたのだった
読んでいただきありがとうございます!
感想や評価が執筆の励みなってます!ありがとうございます!!




