北の国では、話始めるまえに動物の鳴きまねをするという独特のマナーがあるようだ
普通の人間って何?
ねぇ、お母様、普通の人間って、何?
首をかしげる。
普通の人間って、何?弱すぎるよ?
っていうか、お父様お母様レベルでやっと普通じゃないっていうなら、世の中弱い人ばかりじゃない?おかしくない?
さすがに、おかしくない?
ちらりと横を見ると、青ざめた侍女さんが。
なんで青ざめてるの?あまりの普通の人間の弱さに驚いた?
いや、違うかな。もしかして、馬車に酔った?
よし、軽く回復魔法をかけときましょう。こっそりね。
ん?あれ?まだ顔が青いぞ?
馬車良いじゃない?あれ?もしかして……。
あー、そうか!
盗賊に襲われた恐怖で!
わ、私ってば、うっかりさん。
こんな時は、そう、会話しましょう。気をそらしてあげましょう。
「普通の人って、どんな人のことだと思います?」
手紙はいつもの癖で声を出して読み上げていたので、話を聞いていただろう侍女さんに尋ねてみた。
だって、お母様の手紙には普通の人について詳細は書いてないんだものっ。
「え、えっと、私は普通です」
びくぅっと、侍女さんが身を固くした。
うん、普通だよね。きっと。
私の前に座る3人の侍女さんたちが立て続けに口を開いた。
「私も普通です」
「私もすごく普通です」
「むしろ私は普通以下です」
……はぁ。
「えーっと、じゃぁ、普通じゃない人って、どういう人なのかな?」
今度は4人とも口を閉じたまま開かない。
んー、難しい問題なのか?
シーンと静まり帰っている。
「あー、私は普通じゃない?」
難しいのなら質問形式にしてみよう。これならこらえやすいだろう。
答えやすいと思ったのに、4人とも黙ったままだ。
前に座っている侍女を見る。
なんだかすんごい青ざめてますけど。
隣の侍女を見る。やっぱり青ざめてますけど。
大丈夫かな?
「ぼ、ぼっぼっ、」
ん?
じーっと見続けていたら隣に座っているなんか鳴き声を上げた。
気分が悪いのに動物の物まね?
「冒険者は普通じゃないかもしれないです」
隣の侍女が、鳴き声を上げたあとに口を開いた。
「なるほど、確かに、冒険者は普通じゃない!」
お母様も冒険者だったし、お父様も冒険者として修業をした。
私も、これから、普通じゃない冒険者になる……んじゃなくて、すでに国を出る前に冒険者登録してあるから、もう、普通じゃない人になってました!
「ま、ま、ま、まっ」
前に座っている侍女の一人が別の動物の鳴きまねを始めた。
うん?
なんの生き物だろう?
「待ってください、私の弟は15歳になって冒険者になりましがた、普通です!」
うん、そりゃそうだろう。
昨日までは普通だったのに、今日から普通じゃないなんてあるわけない。
って、じゃぁ私も、登録したからと言って、いきなり普通じゃなくなるなんてありえないってことじゃない?
「どれくらいで普通じゃなくなるのかしら?」
この場合、きっと、普通じゃないイコール、冒険者として立派になったって話よね?
「1年くらいは必要かしら?」
お母様は、16歳でお父様と出会った時にはすでに二つ名持ちだったそうだから、普通じゃないわよね?私、できればもう少し早く普通じゃなくなりたいなぁ。
「い、い、い、い、い、」
あ、これは分かる。いーいっいっいっって、鳴く猿がいましたね。
猿の鳴きまねですね。
「一年?いえ、リザ様、冒険者の中でも、その、何年活動してもランクが上がれない者もおりますし、その、一生を普通のまま終える冒険者の方がむしろ多いと……」
「え?あれ?そうなの?じゃぁ、普通じゃないって基準はどう判断すればいいの?」
侍女さんたちが顔を見合わせた。
あら、意外と仲がよろしいようで。お互いに競い合うみたいな感じじゃないのね?
おっと、空気椅子、空気椅子。ガタンと大きく揺れた拍子に椅子に座っちゃうところでしたわ。