粉砕は任せて
「耳を取ればいいんですか?」
マールレンガンドさんが短剣を手にネズミ―の耳を切り落とした。
「あ、右耳も左耳も切り落としたよ、いいの?」
ルシファーに尋ねる。ウサラビーはおいしい方とくっさい方があった。
「ああ。右も左も問題ない」
耳を切り落とされたネズミーはすでに新しい耳が生えてきている。死んでない。
死んでない。
……すごい技術だ。
「これをどうするんですか?」
手のひらの半分くらいのサイズの耳をもって、マールレンガンドさんがルシファーに詰め寄った。
いや、詰め寄るという表現がしたくなるくらいまた、近づいて顔を寄せてる。
近い、近い!
隙あらば手に取り奪って逃げそうだよ。
……まぁ、知らんけど。
もし逃げたら奪い返すべきか、エックに報告してエックに何とかしてもらうべきか。
だって、奪い返そうとして攻撃くわえてうっかり殺しちゃうの嫌だしなぁ。
「耳の先っぽをちょこっと持って、きゅっと押し出すようにして皮から中身を取り出す、ああ、待て。まずはブヒブヒーの脂を170度……といっても分からないだろうが、そうだな、オレサマがいいぞというまで温めろ。あ、炎を直接当てるのはダメだぞ。火がついて燃える」
ルシファーが私をちらりと見た。……目がないから、そんな気がした。
やだなぁ、火魔法を鍋にとか、考えてませんよ?せっかく作った鍋を破壊しちゃうかもしれないし。
「分かりました」
マールレンガルドさんは、器用に鍋の中に炎が吹き込まないように、石鍋を熱している。
魔法の扱い上手いなぁ。クーちゃんも上手だったけど、マールレンガルドさんも上手。
……わ、私が下手なわけじゃないよ。二人が上手いだけだよ。
「もういいだろう。鍋の、油に入るように、ネズミ―の耳の端をきゅっとつかんで、中身を押し出す。ああ、熱した油が飛び跳ねると危ないからそっとな」
言われるままに、マールレンガルドさんが、ネズミ―の耳をきゅっとすると、皮の中からリング状の白っぽい者が出てきて鍋の中に落ちた。
すぐに、じゅわわっと泡がリングの周りに立ち上る。
もう一つの耳も同じようにきゅっと皮の中から中身を鍋に入れる。
今度は茶色っぽい色だ。
「おい、ボーっとするな。この間に、核を砕いて置け。油から引き揚げたものにまぶすからな」
砕く!それなら私にもきっとできる!
たくさん採った……いや、たくさんマールレンガンドさんが採ってくれたスライムの核をがしっと握り、平らな石の上を綺麗にしてからその上に手を持って行く。
ぐっと、一握りすると、核は砕けてあっという間に粉になった。
……いや、ぐっという表現は間違いだな。そっと握っただけなのに。粉になった。
「表面が割れてきたら、裏返しにして両面いい色になったら鍋から引き上げるんだ。油を切って、スライムの核にまぶす」
マールレンガンドさんが言われるままに作業を続ける。
ネズミ―の耳の中身は、倍くらいの大きさに膨らんでいる。
白い方は小麦色に。茶色い方は濃い茶色に変化した。
それを鍋から短剣で器用に引き上げて油を落としてから、私が砕いて用意しておいた核の粉の上に載せ、両面にしっかりと核をまぶす。
「揚げたては火傷するからな、ちょっと冷めてからだ。今のうちに、どんどん作れ。どうせ、お前らも食うだろ?」
ルシファーの言葉に、目が輝く。
「食べる!もちろん、食べる!」
よだれが、よだれが。




