ブヒブヒー汁
マールレンガルドさんが、って、名前長くてめんどくさいな。……人の頭の2周りくらい大きな石を持って来た。
何をするのかと思えば、岩を思いっきりグルグルと回し、指を立てて呪文を唱える。
「硬化。岩をも砕く鋼鉄の刃となれ」
指に硬化魔法をかけた。土属性だろうか。世の中で一番固いとされる鉱石……金属を指にまとったのかな?
グルグル回る岩の中心に指を当てると、岩がどんどんと削れていく。
なんかすげー。
あっという間に、岩の内部が削られ鍋のような形になった。石鍋とでも言えばいいのだろうか。
「これでいいだろうか?ルシファ殿」
「おお。十分十分。じゃ、ブヒブヒーのところへ行って脂を集めよう」
というわけで、ネズミ―とウサラビーのいる部屋は素通り。
次の部屋にブヒブヒーがいる。
4足歩行の豚みたいな緑色の気持ちの悪いモンスターだ。
「いいか、まずはブヒブヒーの背中を焼く。殺さないように、ちょっと熱いくらいに……そうだな、60度もあれば十分だろう。といっても、60度は分からないか。良く晴れた日に、金属製の防具を着込んで炎天下の中を全力疾走した時みたいな感じだ」
うへ。暑そう。
っていうか、殺さないようにってめちゃくちゃ難しい。火魔法使ったら私、絶対焼き尽くしちゃう。
「了解。で、その後どうすれば良いのです?」
あ。なんだあマールレンガルドさんがやる気満々。
「十分焼いたというか温めると、ブヒブヒーの背脂が熱で溶ける。ぶにょんぶにょんとした感じになってきたら、ちょっと背中に刃物を立てればぴゅーっと背脂の溶けたものが飛び出してくるから、それを鍋に集めるんだ」
ぴゅーを、集める。
「分かった。こっちは任せて!」
床に置かれた鍋をひょいっと持ち上げる。
「おや?ギーメ君は、随分力持ちですね」
「馬鹿力じゃないですっ」
「ええ、馬鹿力だとは言っていませんよ。力があるのはいいことですから。そもそも、馬鹿だと言う人が馬鹿なのです」
ですよねー。馬鹿っていう人が馬鹿。
うんうん。
うん?
あれ?私も、エックに、バカとか言ったような、言わなかったような……。
冷や汗たらり。
まぁいいや。
マールレンガンドさんは器用に火加減を調整して、ブヒブヒーの背中を温める。
見る間にブヒブヒーの背中が波打つ状態になった。ぶよんぶよんってあれか。
そして、短剣を取り出すと、ぷすりと背中に穴をあけた。
すぐさま背中からぴゅーっと、液体が噴出した。
おっと、おっと、鍋に回収せねば!
吹き出す液体の落下点に鍋を構える。って、動くなよ、もう。
あっちこっちと動きながら液体を集める。
それを3体分こなすと、石の鍋の中が液体で満たされた。
「もういいだろう。次はネズミ―の耳だ」
ほうっ!
「いったい、これは何なんですか?」
マールレンガンドさんが、ルシファーに顔を近づけて尋ねる。
いや、そんなに接近しなくても会話はできますけど。
ちょ、興味持ちすぎっていうか、っていうか、冷静さ失ってますよね?
「見ての通りブヒブヒーの脂だ。言っても分からないと思うが、いわゆるラードだな。豚の背脂から取ったラードだ。じゃ、次、ネズミ―の耳な」
鍋を持って、魔窟の中を移動する。
ネズミ―の出る部屋に戻る。
はい。ブヒブヒーは豚さんよりの魔の物です。




