母からの手紙には、注意事項が書いてありましたが、それ、もっと早くに教えてくれてもよくない?
これってあれよね。冒険者になったら、武器必要よねと。矢は何本あっても困らないでしょうからと、プレゼントしてくれているのよね?
うふふ、でも、私、あんまり弓は使わないつもりだったんだけれど。
だって、遠距離攻撃なら、弓よりも、魔法のほうが楽なんだもの。
……。
……。ええ、遠距離攻撃、弓より、魔法の方が、楽、なんですよ?
パラパラとつかみとった矢を馬車の屋根の上に落とす。
いくつか屋根から落ちてしまったみたい。
だけれど、かまいませんわ。
だって、クラスメイトからの大切なプレゼントでは……なかったみたいですから。
「円豪の岩弾……」
両手を前に出し、呪文を唱える。
ああ、いえ、別に泣いてませんよ。泣いてませんとも。
ぐずっ。
「堕ちろーーーーーーっ!」
盗賊たちの真上に出現させた、巨大な魔法の岩を、落とす。
泣いてませんって。
えーん。
盗賊だと?
なんで、ぴったり37人なんだよぉぉぉ!
うわーーーん。
ドスーン。
押しつぶされる盗賊たち。
さすがに学園のクラスメイトレベルに魔力がある人達なので、それなりに防御だとかなんだとかしてるはずだから死ぬの様な事はない。
私、虐殺者じゃないですからね。
「うぐぐ、た、助けてくれ」
「潰れる」
巨大な岩に押しつぶされる盗賊たち。
「す、すげぇ、魔法1発で全滅かよ」
「あれが、氷華麗人の娘……」
ざわざわと北の国の人たちがざわめく。
おっと、しまった。
慌てて馬車の中に戻る。
あんまり手の内を見せちゃうと、逃亡中に見つかる危険が増えるってものよ。
だって、同じ魔法使うと、「この魔法って、あの子の魔法よね?」ってバレバレじゃない?
なんか、私の魔法って、他の人があんまり使わないみたいだし。
すとんと椅子に座る。
おっと、空気椅子しなくちゃ。
「あの、リズ様、こちらを……」
突然隣に座っている侍女が紙を差し出した。
「え?」
「あの、リズ様のお母様が、リズ様が国境を越えた時か、魔法を使った時にお渡しするようにと……」
何だそりゃ。
「えーっと、手紙?手紙よね。ぺらりと。なになに、愛しの武す女リズへ」
って、斜線が入っていて「娘」って書き直してる!
お母様、誤字がおかしい!ねぇ、1行目からの、誤字が、おかしい!
「人に魔法を使ってはいけません」
え?
■
「力加減を間違えると、死にます」
なによ。ちゃんと力加減したわよ?
「お父様にいつもぶつけているような岩を乗せると、即死です。魔力が高い人間も5分で息絶えます」
え?
まじ?
「やばいぞ、このままじゃ。生け捕りにできない」
冷や汗がたらりと垂れてきた。
生け捕りにできないって、盗賊たちが逃げちゃうっていう、そういう、話では……な……。
指をぱちんと鳴らす。
岩よ、消えなさい。
「あ、消えた」
「全員意識を失っている。縄で拘束の後、命に係わる者には回復魔法を」
……。
あー、外から聞こえる声。大丈夫、私は惨殺者じゃないもの……。
……手紙の続き。
「力加減が分からないでしょうから、人間相手に攻撃魔法を使うのを禁止します」
あー。うん。
「あなたなら大丈夫。魔法が無くても十分強いでしょうから」
そうかな。
「人間相手に物理攻撃するときには、頭と胴体は攻撃してはいけませんよ」
え?
「手や足は吹っ飛んでももげても千切れても死にませんが、頭と内臓はダメです」
……。
知ってるよ。
あとね、お母様、のどもダメよ。喉潰されると死んじゃうのよ、人間。
「あなたの力では素手で殴るだけで普通の人間は頭も内臓もアウトです」
へ?
お父様なんて、私が素手で殴っても、歯の一つもおれないのに?
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