スライムの核は雨のように
「おや?珍しい。先客がいるとは……」
人の声に驚いて振り返ると、細身で眼鏡をかけた20代前半の男性の姿があった。
冒険者らしくない、膝までの丈の長い紺色のガウンのようなものを身に着けている。学校の先生というか学者のようないでたちだ。
眼鏡を食いっと上げて、男が私を見た。
「初心者の冒険者ですか?一人で魔窟に入るのは危険ですよ?いくら奥まで行かないとはいえ、いつ魔活性が起きるかわかりませんし」
あ、もしかして、私を初心者冒険者だと思ってアドバイスしてくれるの?
へへ。そうか。私、ちゃんと初心者冒険者に見えるんだ。
それからアドバイスしてくれるなんて親切な人だ。
「あの、お願いがあるんです」
「お願い?何か教えてほしいと言うのであれば、教えてあげますが……」
教えてほしいんじゃなくて……。
「その、スライムの核が……」
欲しいので、取ってくれないかなぁと。
「なるほど。君は本当の本当に初心者なのですね。スライムの核の取り方すら分からないと。よろしい。教えてあげましょう。よく見ていなさい」
学者のようななりの男が、スライムを手でひっつかんでぎゅっと握りつぶした。
「え?えええ?」
待って、なんか私の分身たちがやってたスライムの核の取り方と違うっ!
しゅぽんっと音を立てて核が飛び出した。
地面に落ちる前に慌ててキャッチする。
「分かりましたか?」
学者さんの問いに、慌てて首を横に振る。
分からない、何、今の。
ぎゅって。ぎゅってした。
「仕方がありません、もう一度やってあげましょう。こうです」
スライムをひっつかんでぎゅっと。
核がすぽんと。
で、キャッチ。
「分かりましたか?」
首を横に振る。
「ですから、こうです」
スライムをぎゅっ。
核がすぽん。
キャッチ。
……。
「あの、随分他の人と取り方が違うような……」
男の人が手を止めて、首を傾げた。
「おや?そうですか?何分、独学なもので……他の方はどのような取り方を?」
どのようなと聞かれると、どうやってたかな……。
「んー、そう言えば、色々?」
武器を手にしてた人もいたようだし、手足を使っていた人もいたようだし。
「そうでしょう。特に難しいこともありません、さあ、やってみなさい」
……と、言われても。
「あの、この核もらっていいですか?」
「ん?ああ、先ほど取ってみせた物ですね。かまいませんよ、必要ならいくらでも取れますから。こんな感じで」
学者風の男が両手を体の前に出した。
「風よ、スライムを集め、圧迫、収縮圧」
え?
風魔法?
風でスライムを100匹くらい集めて、集める力をそのままぎゅっと手で握ったときのような圧力をかける力に変えてる?
ぎゅうっと潰されたスライムたちはすぽんすぽんすぽんとどんどんと核を出している。
ぎゃー、スライムの核祭りだ!
雨のように降り注ぐ核をキャッチ!一つも落とすものかと、キャッチ。
キャッチ。キャッチ。
さんにんめー、でてきたよー




