新たな敵は、8つの首
「おい、お前」
逃げて行こうとする男を一人襟首をつかんでエックが捕まえた。
何、エックってば、素直に謝って逃げようとする人を捕まえてぼっこぼこにするつもり?なんて非道な。
「ギルド職員に鐘を鳴らすように行ってこい」
「か、鐘ですか?も、もしかして魔活性が?」
「いや、ことはそれよりも悪い……詳細を話している時間はない。とにかく鐘を鳴らして魔窟内の冒険者に外に出るように伝えろ。その後近隣の村や街にも魔の物が現れた際の備えをするようにと、他の魔窟のある場所の周辺にも伝えて回るようにギルド職員に行ってこい」
男は姿勢を正し、すぐにと、ビューンと飛んで行った。
私たち3人が魔窟に入るころには、鐘が鳴り始め、魔窟の入り口に向かって冒険者たちが逃げて来ていた。
「ルシファー、卵はボス部屋か?」
エックの質問にルシファーはそうだと短く答えた。
「よし、じゃぁ、最速で卵を回収するぞ」
「行ってらっしゃーい。私とニックは、ルシファーとお菓子を食べ……じゃない、ルシファーにお菓子を食べさせてるから」
ニコリと笑って、エックに手を振ると、その手をつかまれた。
「お前も来るんだ」
え?
「最速でと言ったろ?菓子は後だ」
ええ?
えええええ?
「間に合わずボス部屋から進化したボスが出てきたらどうなると思う」
「……倒すのがめんどくさくなる」
ドラゴンのように空飛ぶものだと、逃げて行くから追いかけないといけないし。
「周りには冒険者がいる。もしかしたら、外に出たとたんに冒険者たちを狙って動くかもしれない」
あ!
魔窟に入ったとたんに、私の分身たち……初心者冒険者スタイルの子たちが急いで逃げて行く姿と何度もすれ違っている。
そうだ。
冒険者と言っても、初心者の子たちもたくさんいる。
きっとそれなりの冒険者であれば、ボスを倒すことまではできなくても、身を守ることくらいはできるだろう。
だけど、分身たちは?
ぎゅっと拳を握りしめる。
「分かった。先に卵を回収だな」
犠牲者を出しては公爵令嬢失格だ。
民の命を守れず、何が公爵令嬢だ。
「ルシファー、分かった?後ね」
「あー、オレサマ、もう何も教えてやらないぞ?なんで後回しなんだよ」
ぶーぶーと文句をいうルシファーをにらみつける。
「私も、我慢するのに、ルシファーは我慢できないって、そう言った?」
ぴたりとルシファーが黙った。
「わ、わ、わ、わかった、分かったよ。オレサマ、なんか、こんなに恐怖を感じたことはない……オレサマ、我慢できる」
恐怖?
首をかしげる。
そうだよね。悪魔によって人が死ぬのって怖いよね。
うんうん、分かればいい。
「じゃ、行くよ!クーちゃんはどうする?」
「行くに決まってるよ。僕のギーメをおっさんと二人にするわけないでしょう?」
「おっさん言うな、餓鬼!」
「餓鬼じゃない」
ん?恐怖心は?
なんか、緊張感ないですな。
「ああ、また遅かったようだな」
ボス部屋に入ると、すでにボスが出ていた。まだ魔窟を破って外には出ていなかったけれど、悪魔の卵を飲み込み進化した姿を見せている。
「うわー、8つ首のケルベロスなんてはじめて見た」
そう。通常のケルベロスは首が3つ。
どう考えても進化して首が増えたとしか思えない。
どうも。
ブヒブヒーナツ……調理法を考えたのに!
後回しになっちゃったよー。
一応、架空の食材と架空の料理なんですけど、調べものはしてるの。
すごくない?むだじゃない?なにやってんの?
いや、ほら、ルシファーさんが、「わかんないと思うけど〇〇を××したみたいな」って地球のやつに例えるじゃん。
だからさ、実際にそんなものがあるのか、できるのか、おいしいのか……調べるわけよ。
今回は。ブヒブヒーからとれる、〇〇は、果たしてお菓子に使えたっけ?というところをですね、調べました。
大丈夫でした。
いや、もう、ブヒブヒーからある程度想像つくと思うけどね。
あと、またスライムの核を使います。あ、別にネズミーの核でもいいんだけども。
あああ、せっかく考えたのに、後回し……