やるっきゃないけどくっさー
「私に、できるだろうか……」
殺さないようにする……。
やるしかない。
ウサラビーに近づき、エックにもらった剣を構える。
大丈夫。ちゃんと狙った場所に剣を振り下ろすことくらいできる。
殺さない。風圧でウサラビーを消しとばさないようにちょんっという感覚で剣を振り下ろすんだ。
手に汗握る。使い慣れていない剣。
いや、ミスリル製の剣なら何度か手にしたことはある。かなり切れ味はいい。
ウサラビーごときに使うような剣ではない。んー、でも、素手より剣の方が、殺さないようにできると思うんだ。
えーっと、そーっと、そーっと。
慎重に、いつもの10分の1……いや、30分の1くらいのスピードで。
せいやっ!って感じじゃなくて、よーーーーこぉーーーい、しょーーーーっと。
スパン。
目の前のウサラビーの長い耳を切り落とした。
ウサラビーは何が起こったのか分からずにきょとんとした顔でこちらを振り返り、そして慌てて逃げて行った。
5歩も歩くうちに、ウサラビーには新しい耳が生えていた。
よし。よし。死んでない。
「とったどー!!!!」
ウサラビーの耳、取れました!ねぇ、私にも、ウサラビーの耳が、耳が!
まぁ、方耳だけをという器用なことはできないので。
必要な右耳だけでなく、オイシイ左耳も取れちゃったのはご愛敬。って、どっちが右でどっちが左?
くんくんと持ちあげて匂いを嗅ぐ。
「くっさ……」
うえー。思いっきり匂いを嗅いで、目じりに涙がたまるくらい強烈な匂いが鼻を突く。
こっちが右耳か……。
右耳と、左耳を分けて置く。
それから立て続けに10匹ほどのウサラビーの耳を落とし、右耳と左耳にわける。
「おえー、臭い、臭い、臭いっ!鼻がもげる」
ついでに落としちゃった左耳を食べようかなと思ってたけれど、とてもこの悪臭の中では食欲なんて湧かない。
それに、食べている時間にも、ドラゴンが村を襲うかもしれないと思うと、とてもじゃないけどそんな気分にはならない。
もったいないけれど仕方がない。
30ほどの右耳を回収したところで、ついに匂いに耐え切れなくなってそこでやめる。
ぐっと息を止めて、ウサラビーの右耳を持って魔窟の外に出る。
「ぷはー、くっさ、くっさ、くっさーーーっ!」
止めていた息を吐き出し、魔窟の外の空気を思いっきり吸い込む。
「くっさ、手もとに抱えてるから、くっさ!」
全然新鮮なオイシイ空気じゃなかった。
って、泣いてる場合じゃない。
ウサラビーの右耳を地面に置き、少し距離を取る。
「風、暴斬風!どこまでも吹き荒れろ!」
風魔法発動。
ウサラビーの右耳から立ち上がる悪臭を上に舞い上げ、そしてそれをできるだけ遠くまで、北へと流す。
届くといい。
ドラゴンの鼻がどれほど敏感な物なのか分からない。
そして、悪魔の卵を取り込んだドラゴンが、悪魔と同じようにウサラビーの右耳が好物なのかどうかも分からない。
だけれど、もし、この悪臭がドラゴンの鼻にまで届いて、悪魔と同じように好物であれば……。
私がドラゴンだったら、絶対に匂いをたどってやってくる。
……よだれをたらしながら。
って、よだれはたらさないから、私は!
そろそろ潮時かしらねぇ……




