1分あったら、モンスターを殲滅させることはできる。うん、
「我々は、民に生かされている。だから、何かあったときに民を守らなければならない。何より大切な命を。だからこそ、強くならなければならない」
ああ。
そうか。
武功でここまでの地位を築き上げてきた我が家。
40年前は、我が家の力をもってしても、42体のドラゴンを前に無力さを感じたのかもしれない。
だけれど……。
お父様を慰めようと思って出た言葉ではなかった。純粋にそう思ったから口からでた言葉だ。
「42体もドラゴンが現れれば、国中の兵を集めても倒せないのは無理もないのでは?我が公爵家が役に立たなかったということもなかったのでしょう?」
お父様が首を横に振った。
「多くの民の命が失われた……それが事実だ」
「だから、倒せなかったんだから、国中の兵が集まっても無理だったんだから、仕方ないってことでしょう?」
お父様がさらに首を力強く横に振る。
「冒険者たちが、倒してくれたんだ。だから、倒す必要はなかった。逃げる時間を稼げればよかったんだ。民たちが安全な場所に逃げる時間を……。ドラゴンたちを引きつけ、逃げる時間を稼ぐ……そんな力さえあれば、あれほどの民が命を落とすことはなかった」
はっと息をのむ。
……倒せなくても。確かに42体もドラゴンが現れたと聞くと、倒せるわけがないとすぐに思ってしまった。だけれど、倒すことが全てじゃなかった。
確かに……そうかもしれない。
「王妃の資質は、強さだ」
お父様の真剣な目。
「もし王城が魔の物に襲われた時、王城で働く者たちを、また王都の民たちを守れるだけの強さ。貴方たちは逃げなさいと言えるだけの強さ。決して、私を守りなさいと言わない、自分が犠牲になることを覚悟できる強さ、それが王妃の資質だと思う」
強さ。
「民を守るために命を懸けられないのなら、守られる立場になりたいのであれば、王妃は無理だ。わが公爵家を継ぐのも……いや、人の上に立つ人間として失格だ。リザ、お前は、イザというときに、逃げないだけの強さはあるか?民を命をかけて守る覚悟はあるか?」
手の中の本がわめく。
「気配が変わった、悪魔の卵をボスが飲み込んだようだぞ」
くっ。
1分だ。
1分。
私が、ラビキャンディーを食べなければ、間に合ったのにっ。
くそっ。絶対にさせない。
あと3つ角を曲がればボス部屋だ!
強い気配を先から感じる。
魔力探知なんてしなくてもびりびりと肌を刺すような強い気だ。
ボス部屋に飛び込んだ時に目に見えたのは、ダンジョンの天井を突き破って飛び出すドラゴンの姿だった。
「待て!私が、お前を倒すっ!炎刃業」
炎の刃を飛ばす。
青空を背景に逆光になってシルエットしかみえ無かったドラゴンが、私の花った炎系魔法の火の明かりで姿を見せる。
「み……緑色……」
放った魔法はまるで効果がなく、ドラゴンに当たった瞬間に霧散してしまった。
くそっ、魔法が効かないタイプ。
慌てて物理攻撃をしようとして、すかっと手が宙を舞う。
そうだ!剣、なかったんだ。
ドラゴンは魔窟に空いた穴から、広い空に出ると、大きな翼を広げてぐんっと空へと上がっていく。




