牢屋は幻だってばよ。
本には目がないけれど、なんか、私を見ている気がする。
なんだよぉ。私、何も悪いことしてないよね?
「しかし、何故普通の本のふりを?太陽の光を浴び続けると消滅するのに。消滅したかったのか?」
エックの質問に本が律義に答える。
「めんどくせぇんだよ。色々。本なんてもんは、変色を防ぐために普通は鞄の中にいれ、書斎におかれるだろう?普通の本だって、太陽の下に何時間も放置されるようなことはないと思ってたんだよ。あんな恐ろしい娘がこの世にいるなんて思わないじゃんか。オレサマにかみついたんだぞ?貴重な本なのにいらないって言うんだぞ?オレサマをいらないって……」
たぶん、人類の半分くらいはうるさくておいしくもない本はいらないと思う。間違いない。
「めんどくさいとはどういうことだ?」
エックが会話を続けるようだ。
うーん、私、どうしようかな、これから。
「だって、言うだろ?再び封印するために悪魔を探しに行こうだとか。気配はどちらから感じるのか教えろとかめんどくさいんだよ、あちこち移動させられるの。封印するために必要なものは何かとか、悪魔の弱点はないのかとか質問攻めにされたりするのも嫌いなんだよ」
「悪魔を……再び封印……」
エックがぼそりとつぶやいた。
「その情報を、お前は持ってるってことか!どこにいるのか気配で感じることができる上に、悪魔を封印するために必要なものまで知っている!そういうことだな?そうか、それはよかった。すぐに悪魔を封印しに行くぞ!」
「だから、めんどくさいし、嫌だ」
文句を言う本を、私に差し向けた。
「……ギーメ」
なんだよ、役に立たないからくれるっての?いらないって。何度言えば。
「かじってくれ」
は?
「じょ、冗談じゃない、それ、スゲーまずいんだよ!口のなかうえーってなる、まずさなんだ!」
「かじってくれたら、その後に口直しとして、国一番のシェフの作る極上スイーツを食べさせてやるぞ?」
国一番のシェフの作る極上スイーツ?
だらだら。
「嘘じゃ、ないだろな」
ぼたぼたぼた。
何の音?
「待て待て、やめろ!オレサマ、マズイ。オレサマ、マズイ、今、そのシェフもいないしスイーツもないぞ!騙されるな!口直しなんてすぐに食べられないんだから、直らないぞ」
すぐじゃなくたってかまもんか。
ぽたぽたぽた。
「いやいや、まじ騙されるな、娘!そもそも、お前じゃなくて、自分でかじればいいんだぞ?お前に押し付けようとしてるんだぞ?」
本が絶叫している。
「あ、そうか、自分でかじると言う手が」
ぽんっとエックが手を打った。
「は?いや、あれ?」
私、騙されるところだったの?
「国一番のシェフの極上スイーツは?」
エックがぽんっと私の頭に手を置いた。
「よし、俺の嫁になるって決めたか!」
意味が、分からない。
「俺の嫁になれば、毎日食べ放題だぞ?」
ごくり。
「騙されてるぞ、娘!そんなことで結婚はするもんじゃないし、牢屋に入れられてるのと変わらない窮屈な生活させられるぞ!」
へ?
牢屋?
「なんだ、かじるぞ、黙れ!別に牢屋になんて入れたりしないぞ。これでも俺は好きになった女は大事にするタイプだ」
牢屋……。
自分が幽閉されてるからって、一緒に入ろうとかいうつもりか。
そうに違いない。
「まぁいい。考えといてくれ。今は一刻も早く悪魔を封印しなくちゃならないからな。おい、本、悪魔はどこにいるか教えてくれ」
「……」
「……」
しぃーんとなる。
ご覧いただきありがとう。
本の名前、どうしよう。