氷華麗人という二つ名を持つ伝説の冒険者と、新人冒険者ジェイク
「そして、そのころ、北の隣国の中でも、最北端で二つ名もちの冒険者が活躍していたのです。氷華麗人。16歳にしてつぶした魔窟はその時すでに63。記録のある限り、一人の人間が生涯でつぶした魔窟の数の最高記録が106でしたから、若くしてその半分以上をすでに達成していました」
「え?それって、めちゃすごいことなんじゃない?16歳でって、え?私なんて学園に通っていて、魔法も武器携帯も禁止されてるんだから、こっそり魔窟つぶすしかなかったけど、なんで、16歳で……ずるい、なんか、ずるい」
お母さまがはぁーっと小さくため息をつく。
「いえ、そこ?食いつきどころそこなの?まぁいいわ。学園に通っていない者であれば、15歳が成人年齢ですから。15歳になるとともに冒険者となりあっというまに63の魔窟をつぶしたのです。とにかく、すんげーつよい冒険者が氷華麗人ね」
母にぎりっと睨まれた。
「まだ冒険者になりたてなうえに、さほど功績も上げていないジェイクは、俺が世界一だと愚かにも氷華麗人の元に現れたんです」
ジェイクってお父様の名前ね。
「氷華麗人は、それはもう馬鹿にした目で、虫けらを見るような目で、ジェイクを見ました」
ぬ?
お父様を虫けらを見るような目で見た?
そんなことしたら、お父様……、大喜びなんじゃ……。
「そして、ジェイクはすぐに氷華麗人に結婚してくれとプロポーズをし、今度は、汚物をみるような目で睨まれ、氷柱攻撃を受けました」
やだ、それも、大喜びよね。
「それから、なんだかんだとあって、氷華麗人は、ジェイクと結婚しました」
は?
「ちょっとまって、そのなんだかんだって、何?どうして、そんな二人が結婚できちゃうの?あれ?お父様と結婚したって、氷華麗人って……?」
「ええ?実は私です」
「えええーーーっ!そうなの?お母様が……」
「今まで黙っていましたが」
「ずるい!お母様ずるい!15歳から魔窟に自由に行けたなんて、めっちゃずるい!ずるーーーーい!お父様だって、冒険者になるって自由に動いてたのとかずるい!なんで、私は王家に嫁がせて自由を奪おうとしたの?ひどくない?ねぇ、お母様もお父様もひどくない?」
お母様の両肩をつかんでがくがくと振り回す。
「リザザザザザ、おちつつつつつつききききなさささささ」
お母様が何か言っているけど、声が震えて全然何を言っているのか聞き取れない。
ん?
あれ?
もしかして、私がゆすってるから?
……止めてみた。
「リザ、とにかく、私が結局ジェイクと結婚して冒険者を引退するまでにつぶした魔窟は182です」
この期に及んで自慢なの?
「結婚後、育児の合間にこっそりつぶした魔窟が68。合計すると、えーっと……まぁいいわ。とにかく、それまでの記録を大きく塗りつぶしちゃうほど、私は強いのです」
だから、なんで自慢なの。
「あー、それから、ジェイクのプロポーズをことわり続けたんだけど、どんなにひどい言葉を投げつけようと、全然あきらめてくれなくて」
むしろ、喜んでたでしょうね。
「めんどくさくなって、私より強くなったら結婚してあげるって条件だしちゃって、2年したら、ジェイクの方が本当に強くなっちゃたのよね」
あれ、さっきのなんだかんだとあって結婚したっていう話の、なんだかんだ?
すんごく短く説明できてるじゃん。
「てなわけでジェイクも強い。あんなんだけど、強いことだけは間違いない。というより、むしろ、打たれ強すぎて、私が打ちすぎて、めりめり強くなってしまった……」
打たれ強いんじゃなくて、強く打たれたい人だもんなぁ。
遠い目。