もふもふが、もふもふが、もふもふが……もふもふしない
「わーっ」
ぎゃっ!
突然少女が大きな声を出したからびっくりして尻もちついちゃった。
「ほら、耳をひっつかんで耳の中に思いっきり大声を出してやると、気絶するの」
「あ、本当だ」
ひくついた格好であおむけに倒れているウサラビー。
「それから、思いっきりしっぽを握ると、ほら」
少女がウサギの丸いしっぽをぎゅーっと握ったら、鼻から薄紫色の核がすぽんっと出てきてウサラビーが消えた。
「あれ?確か、鼻から核が飛び出したと思うんだけど……どこに行ったんだろう?」
少女がキョロキョロしています。
……。
……。
土下座した方がいいだろうか。
「ご、ごめんなさい、つい、その、体が勝手に……動いて……」
ぺろりと舌を出し、その上に乗っているウサラビーの核を見せる。
「え?ああ、あれ?動いたの見えなかったけど、そっちに飛んで行ったの?ごめんなさい、ぶつかって痛くなかった?」
いえ、動きました。
見えない速さで動きました。
飛んでこなかったので、私が飛んでいき、口をぱかーっと。
む、無意識だったんです。
無意識だったんです。
ごめんなさい。
痛くもかゆくお無くて、美味しいです。
めっちゃ、おいしーーーーーです!キリリ。
ということを首を横に振るだけで表現する。
■
「そう、痛くないならいいわ。どう?とれたては美味しいわよね」
はい。今度は、春の花畑にいるような香りが鼻を抜けます。蜂蜜のような甘さが口いっぱいに広がり、美味しいです。
きっと、今度こそ私にもできる気がします。
だって、耳をひっつかんで、大声わーでしょ?
声は普通よ?
で、気絶させたところで、尻尾をぎゅっ。
……ぎゅ?
あ、なんか無理みたいな気がしてきた。
ぎゅっとする代わりに、親指と小指の先でつまんでみようかしら?
そうよ、髪の毛をつまみ上げる感じ……力加減ですれば!
「きゃぁーーーっ!」
「うわぁ!逃げろ!」
何ですの。
きゃーきゃー、びーびー。
「はっ。大変だわ。すぐに逃げましょう」
少女が騒ぎの起こった方向に視線を向けて、焦ったように声をあげた。
「みんな、すぐに逃げるのよっ!魔活性だわ!」
魔活性?
「え?まだ鐘は鳴っていないのに?」
「そう、日が落ちたはずはないのに、昼なのに信じられないけれど、魔活性よ!」
魔活性すると、えーっと、魔物が外に出て来るって言ってた。
大変なこと?
少女が私の手をつかんだ。
「あなたも早く逃げましょう。魔活性すると、普段は出ないような強い魔物が現れるのよっ!数年に一度昼間にも起きることがあるの!」
普段よりも強い魔物?
きょとんと首をかしげる。
「きゃーいやぁー!」
「こっち来るな、こっち来るな」
私の分身たちが、悲鳴を上げて逃げまどっている。その中の何人かは恐怖で思うように動けないのか、しりもちをついてしまっている。
「危ないっ!」
少女が剣を構えて飛び出した。
その足取りは決して優雅とは言えない。
「えーっと、あれが、強い魔物?」
確かに、そのあたりにウロウロしてるウサラビーとはっきりと違うことは分かる。
……なんか、でかい。
通常のウサラビーは、膝の半分までの高さくらいまでしかないし、耳を片手でひっつかんで持ち上げられる大きさだ。
突然現れたのは、その何十倍もある巨体。
巨大ウサラビー。
背中に乗っかれるサイズ。
耳は両腕を回さないとつかめないようなサイズ。
ビョン、ドシン、ビョン、ドシンと、鈍い動きでへたり込んでいる私の分身たちに近づいていく。
その子たちをかばうように、少女が前に出て、剣を振り回した。
剣は、巨大ウサラビーをかすめるけれど、全く傷をつけることはできないようだ。
うん、たぶん毛も分厚いよねー。でかい分、なんか堅そうだし。もふもふ感なさそう。




