能力開花 その4
ミスりました。ごめんなさい。
プラスでいろいろ書きました。祝詞と唱え言葉は適当になってます。
坂蓋巴月は名家の生まれだ。
母方の実家が地元1番のお金持ちである長宗我部一族であり、親戚には滋賀大学学長や教授、県議員、滋賀教育委員会委員長に医者に地元企業「CHOSOGABE」の社長と勢ぞろい。草津や大津などの地元で大きな土地を所有し、滋賀で権力者といわれる人たちとは何かしらのつながりがある。つまり華麗なる一族滋賀バージョンである。
生憎というか幸いというか彼女の両親は会社員と専業主婦で収入も生活もいたって一般的であるが。
巴月の祖父である長宗我部総一郎(68)は本家の現当主で一族の全決定権を有している。彼には子供が5人、そして孫が17人いる。その中で一番のお気に入りは何といっても巴月である。容姿端麗なこともだが現実的で頭の回転がいいことが気に入られている1番の理由に挙げられる。
そんな彼女の趣味は貯金。
彼女は母方一族をみる中でお金は人生の潤滑油だと知っている。
だからお金は大事だ。
そんな彼女は待合室で感動で打ち震えていた。この神楽殿に入った時から彼女の頭の中でチャリンチャリンとお金が落ちる音が止まらない。彼女の見開いたチョコレートのような瞳が輝き、声を出さないように口をきつく閉じながら紅唇の口角を上げる。これは大金の匂いを感じた時の巴月の癖である。
さっき見た松や鶴が鮮やかに生き生きと描かれていた杉戸は年代ものだが今も立派に使われていた。ひょろっと使われているが価値は計り知れない物なのではと彼女は思う。中庭らしき場所に置かれていた手水鉢も石灯篭も歴史あるものなのではと感じられた。今床の間には何も置かれていないが普段は掛け軸やつぼや茶わんが置かれているかもしれない。そんなものが長宗我部の本家よりも大きい境内で一定間隔で置かれているなら合計金額はどうなるのだろう。値段がつけられない。もしかして開業医よりここの神主に嫁ぐほうが玉の輿?と思っていたが個人の所有物ではないことを思い出し、悲しみの吐息を漏らす。
隣の坂下祐樹が巴月の吐息に肩を揺らし彼女を見る。思春期ならではの行動であるが追い打ちのように巴月と目が合った。そのまま巴月は微笑む。頬を染めた彼はこの校外学習が終わったら、彼女に告白するだろう。好意のにおいを感じ取った巴月ははたと坂下祐樹の志望校と学力を記憶から呼び起こし、玉の輿にならないなと思い、また吐息を漏らす。
(やっぱり、彼氏は大学で作るほうがええかなぁ)
「坂蓋巴月様こちらへ」
能面巫女に名前を呼ばれ彼女は思考の海に漂うのをやめた。
(とりあえずぅ、)
中堅私立大学入学希望の今の彼氏と別れねば。
*****
近嵐恋実は真っ白な頬を引きつらせながら、御饌を見ていた。
名前を呼ばれ、つれてこられた場所はまるで日本舞踊をするような舞台であった。その舞台から一段下がった板張りの上にまたもや紫の座布団が1つぽつんとあり、座るように誘導される。舞台の真ん中には垂瓔冠をかぶって束帯を着たまるで平安貴族のような男性が恋実に背中を向け座っており、舞台の案内人の巫女と全く同じに見える巫女が座っていた。
(なんか圧と視線をめちゃくちゃ感じる)
細くきれいな眉を顰め、石榴色の唇を軽くかむ。さらりと耳にかけてあった鏡のように反射する髪が顔にかかる。
待合室でも感じた圧。担任は話すなと言っていたがそんなこと言われなくても話す気にもならなかっただろう。話そうとする奴は狂っているか馬鹿だ(その馬鹿に真千佳が含まれているとは知らない)。そう彼女は思っていたがここは特にすごいと彼女は思った。いる。大きな存在が近くにそして複数。視られてる。そう感じた。
恋実は霊感がある。オカルテックだが事実だ。
彼女の家は地元で有名な神社であり、家内安全の神である経津主神と稲・穀物・食物や商売繁盛の神である宇迦之御魂神を祭神としている。そのため小さいころから境内で遊んでいた。そんな彼女が普通と異なると親が気付いたのは彼女が2歳の時だった。賽銭箱に凭れながら一人で勝手に話している恋実にからかい半分で「誰とおしゃべりしてるん?」と親が聞くと
「みえへんの?ふつぬしさまと、うかたのみまたさまやで。」
「つぎのかみありづきにだれとだれをあべっくにするかってなはなしててん。」
幸い成長に伴いそういうのはなくなったし、中学に入学するときには本殿になにかの気配を感じることもなくなっていた。
それなのに今、感じるのである。まだ肌寒いのに背中に汗が伝うのを彼女は感じた。
貴族コスの神主らしき男性が何かを朗々と唱え始めた。
「高天原の坐し坐して 天と地の御働きを現し給う龍王は 大宇宙根源の御祖の神にして一切を産み一切を育て 萬物を御支配あらせ給う王神なれば 一二三四五六七八九十の十種の御賽を己がすがたと變じ給いて 自在自由に天界地界人界を治め給う 龍王神なるを尊み敬いて眞の六根一筋に御仕え申すことの由を受引き給いて愚かなる心の数々を戒め給いて一切衆生の罪穢れの衣を脱ぎ去らしも給いて萬物の病災をも立所に祓い清め給い 萬世界も御祖のもとに治めせしめ給へと 祈願奉ることの由をきこしめして 六根の内に念じ申す大願を成就なさしめ給へと 恐み恐み白す」
読み終えたその瞬間恋実の体の中で何かがはじけたような気がした。炭酸の泡のようなポップコーンのような何とも言えない感じ。
彼女は黒曜石のような目を瞬いた。
(異能開花ってこんな感じなんや)
まぁあったとしても鉄か青銅だろうと恋実は思う。祖母が「石拾い:鉄」だったからだ。
「これで終わりとなります。出口までご案内致します。」
今日何人目かわからない能面巫女がまた現れ、導かれる。
(取り敢えず)
恋実はふっと息を強く短く吐き、気を取り直す。
緊張が抜け、この校外学習の終わりを感じる。
つまりこれから先は勉強のみだ。
受験勉強頑張ろ。