異能開花 その1
この世界はまだまだ学歴社会です。といいますか、ダンジョンに関わること以外は現実とそんなに変わりません。一般人だと電気が核になって、日本の経済成長が著しいくらいですかね?だからサラリーマンもいっぱいいますし、専業主婦だってパートだってニートだって現実と変わらずいます。なんというんでしょう、今世界で戦争が起こっているじゃないですか?戦争の存在も知っているし、現地の動画も見るし、長い目で見るといやぁ、世の中も変わったなぁなんて思いますけど、自分が参加したり、身内が関わっていない限り、あまり関係ないなぁなんて思いがちじゃないですか、その感覚です。日常にその余波が来ているし、存在も認識しているけれど実感がないのです。魔孔とか探索というのはそれくらい一般人にはハードルがある存在なのです。
社会の探索者の認識はわかりやすく例えるなら命のかかったユーチューバーです。一攫千金で年収1兆超えるトップ探索者やアイドル系探索者やカリスマ探索者もいますがそういうのはたった一握りで多くはすぐに死んでしまったり、必死に魔孔に潜っても体力不足や弱い異能で月の稼ぎが10万いかないこともあり、さらにアイテムバック的な異能もちでもない限り、十分な荷物も持っていけず、それのせいで行動が制限され、由来不明の生物と自分の体液でドロドロ、保存食と寝袋で疲労困憊というメリットとデメリットがどちらも大きい仕事です。死んだ瞬間にアイテムになるなんてないです。ほしい素材があるなら、自分で捌かなきゃ。また、面接などがなく、アウトレイジ的な人がまあまあいて犯罪も起こりやすいです。
なので安定安心安全を求めて普通に進学し就職する人が大半で特に女性はその傾向があります。
まあ、どうしても魔孔内ではもともとの人体能力的に女性は不利ですし、当たり前にトイレとかないので不衛生になりますし、美容なんて言ってられないのでお手入れがおざなりになりますし、合コンや婚活パーティーで受けが悪いですからね。
また異能なしでももともとの身体能力が高く、魔孔内での活躍が大きい人や異能があっても活躍が小さい人がいるため、日本内基準で活躍別にA,B,C,D,Eとレベルが分けられていて、異能に関わらず、Eから始まります。
2018年4月 おかげ横丁にて
おはらい町通りを四人並列で歩くはた迷惑な女子高校生。
4人はそれぞれ異なる魅力的な容姿をしている。
一人は星を宿したようなつぶらな垂れ目に白桃色の丸顔という愛嬌のある小動物のような少女。
一人は雪のように白肌、血を落としたような唇にそして濡れ羽色の髪という童話の白雪姫のような少女。
一人はいたずらっ子のようなヘーゼルアイの釣り目にツンととがった鼻先、太陽の下で輝くライトブラウンのポニーテールの妖精のような少女。
一人は蕩けたはちみつのような猫目に熟れた杏のような肉厚のぽってりとした唇、女性らしい曲線という女神のような少女。
制服の水色のワイシャツの淡い色合いが彼女らの青春を象徴しているようで、胸元の紺のリボンは純粋な心を表していそうで、風でなびくひざ下のスカートが夢と未来にはばたく翅のようで…。
そんな見た男すべてを魅了しそうな暴力的な魅力をそれぞれ有した少女たち…
が全員揃って両手にコロッケを持っていた。
「「「「いただきまーす」」」」
サクッ
「ん~!おいしい!わたしこのコロッケ好きやわ」
小動物、もとい清代鞠子がくりくりな目を細ませながらおいしさに悶絶する。
「な!食べてよかったやろ?ワタシが何度調べてもおかげ横丁のお勧め一位はこの骨捨のコロッケやったもん。」
白雪姫、もとい近嵐恋実が鼻筋がとおった小鼻を膨らませ、自慢げに胸を張る。
「Oh,ヤバいななこれ、え、マジでヤバイマチカあと10こくらいかってこよかな」
妖精、もとい聞間真千佳がコロッケを桜色の口に一心不乱に詰め込む。
「えぇ、まちか他にもおいしそうなんあったでぇ。私他のもたべたいわぁ」
女神、もとい坂蓋巴月が雲雀のような声で抗議する。
女性が3人集まれば姦しいというがさらに姦しい彼女たちは加護学園の高等部所属だ。
加護学園とは滋賀県にある一応私立の幼稚舎から大学まで内部進学可能なカトリック系の学校で地元の子供たちが多く通っている。一応私立というのは他の私学の下位互換のような校舎のことで生徒が他の私立に試合などで訪問した際、「うちの学校って・・・」となることがよくあるからである。
肝心の高校は偏差値は42~61と広く、習熟度別でクラスが分けられており、1組から9組に上がるにつれ、習熟度も上がる。彼女たちは9組、つまり「親御さん安心してください、私(先生)たちがお子さんたちを死ぬ気で勉強させ、必ずや志望校に入れて見せます!!」というクラスである。そのため彼女たちはどのクラスよりも早く登校し、どのクラスよりも遅く下校するという勉強勉強の日々をすごしている。もちろん休みなどほぼない。
そんな彼女たちの学校公認の余暇である。
「集合まであとどのくらいなんやろぉ?」
巴月がぽってりとした唇にコロッケを含みながら首をかしげた。
真千佳がとっくの昔に暇になった華奢な手で手首をさすりながら、
「マチカもともととけいつけてないからわからんわ」
「待ってな~、今しおり見てみるわ」
鞠子が栞を白魚のような手でめくる。
「今丁度十二時やで。」
恋実が最後の一口を放り込み、腕時計で確認する。
「なら集合まであと2時間くらいで今ちょうど4組が終わったところやわ~」
「あぁ、緊張するぅ、異能でるかなぁ」
巴月は長い睫毛で震わせながら不安そうに言った。
「鉄でも十人に一人の割合なんやろ?つまり学年で三十人位。難しんとちゃう?なくてもワタシら困らんし。」
「マチカでるならシュウショクとかでやくにたつやつがいいなぁ」
「それってどんなん~?」
「チョチョツモウサンみたいなやつ?」
「ちょちょつもうさんってもしかして猪突猛進のことぉ?」
「そうそうそれ。マチカはもくひょうにまっすぐですっていえるやん、ガクチカやん」
「真千佳はとりあえず国語勉強しろ、そして1人称を直せ。」
恋実が呆れた顔で真千佳の頭を軽くはたき、巴月と鞠子が笑う。
「でもソレ就職に役立つか?性格が異能が影響するなんて聞いたことないで。それにそうやったら真千佳は天真爛漫や。」
「ほんとそうやな~」
「でもぉなんかぁアイドル探索者に能力が切磋琢磨のひといたよなぁパーティ名は確かBoarぁ」
「いたいた~あの人たちも開花地ここやったよな~」
「あのひとたちもイセジングウやったん?」
「そうやで~」
「というかうちカトリック系なのに開花地教会以外を選べるとか流石日本やな。」
「ほんまそれなぁ延暦寺も選択肢にあったしなぁ」
「でもほとんどのヒトがここやんな」
「日本人は元々無神論者が多いしな。」
「神道はぁほかの宗教よりゆるいしなぁ」
世界大地震以前、日本人の多くは特定の宗教を信仰していなかった。
クリスマスを盛大に祝い、寺で除夜の鐘を鳴らし、正月、神社に詣る。他国では不誠実極まりない行いに思われるがこれが日本の国民性である。
しかし異能開花は宗教施設でのみ可能であったため、多くの人々が所属する宗教を早急に決める必要性に迫られた。
その中で一番神道が日本人の国民性にあっていた。
つまり、特に一般人は世界大地震以前と変わらずイベントごとを楽しく過ごしているということだ。
「あ」
恋実がいきなり立ち止まった。
「どうしたん~?」
「あれうちの三組ちゃう?」
恋実が線香専門の店の前に屯している派手で残念な感じの3人組の女子高生を指さした。
「あぁほんまやぁ。あの子たちって寒川涼華とその取り巻きやんなぁ。でもあれぇ?」
「巻き巻きの髪の毛に色付きリップ、スマホに膝上一〇cmのスカートって校外学習やからって校則破り過ぎちゃう?担任誰や。」
恋実と巴月の二人があきれたような声色で言う。
自称進学校のあるあるだが、加護学園は校則がとても厳しい。ピアスや染髪、メイクはもちろんスマートフォンや漫画、派手な髪型、お菓子等も禁止。制服はもちろん鞄や靴下も規定の物のみ着用可という徹底っぷりである。
昔、2ブロックにしてきた男子がその日のうちに丸刈りにされたとかされなかったとかいう話もあるくらいだ。
そのため彼女たちの行動は4人には自殺行為にしか見えなかった。
「現代社会の横田大樹先生やで~。あのせんせいめちゃくちゃゆるいからなぁ」
「さんくみのカンガワスズカってたんさくしゃきぼうのコちゃう?」
「たんさくしゃぁ?!就職じゃないんん?」
「あんな危険な仕事の何処がいいんかわからん。」
「それもアイドルけいしぼうらしいで」
「え~!ほんま~?」
「あの子能力開花したんかなぁ?」
「まだ分からんかったのちゃうかった~?8月とかに家に郵送でしらされるんやろ~?」
「そうやぁ、そうやったぁ、じゃあ異能なくてもめざすんかなぁ」
「異能なくても探索者になるんは可能やけど目立つには銅以上は確実に必要やろ。」
就職や受験まで1年を切った今、4人それぞれの将来が現実味を帯びてきた。
そのため彼女の探索者志望は世迷い事を言っているようにしか感じなかった。
例えば、実力のない者が東京大学に試験前日のみ勉強して「合格したい」と言っているような。どこかの天才や何かの小説家の主人公なら合格するかもしれないが、現実は甘くない。死ぬ気で努力しても合格できない人がいるのだ。努力も実力もない者がなぜ成功する?
「でもわたしたちも就職とか受験とかちかづいてきたな~」
「とうとう三年生やでぇ。どうするぅ?」
巴月と鞠子が現実逃避するために遠くを見つめた。
「もうとうぶんあそべへんやん」
「ワタシ中学受験も高校受験もしくじったからな、大学受験まで失敗したら親に殺されるかそれこそ魔孔に放り込まれるな。」
真千佳と恋実も暗い顔をする。
「そろそろ本気で勉強せんとな~」
「私もぉもうセンターのこと考えると泣きそうやわぁ」
「なぁなぁなぁなぁ」
暗い空気を打ち消すように真千佳が明るい声を出す。
「みんなさナニかなりたいとかある?マチカなぁパパとおなじフランス人とけっこんしてカワイイカワイイふたごのアカチャンうんで、さいごはこうきゅうろうじんホームにはいるねん」
真千佳は自身満々に言う。
「私はぁ、看護師になってぇ開業医と結婚してぇ玉の輿に乗るぅ」
巴月が夢見るように手を組み、空を見る。
「わたしは地元の職業について平穏に過ごしたいな~」
鞠子が朗らかに語る。
「ワタシは国立大学にいって、国家公務員になって余裕のある日々を送りたい。」
恋実は仏頂面で言う。
「叶うかなぁ」
「叶えたいな~」
「取り敢えず志望の大学いかんとやけどな。」
「Oui oui! ほんとそれな」
4人それぞれこれからの人生を思って黙り、しめった空気になった。
「なぁ」
巴月がポツリとつぶやく。
「大人になってもぉ1年に1回は集まろなぁ」
巴月が哀しそうなさみしそうな声を出す。
3人はそれを察し、
「Je suis d'accord!」
「1年に1回やったら世界中どこでも集まれるしな~」
「死ぬまでずっと仲良くしよな。」
笑顔で巴月の手を握り、笑いかけた。