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愛と正義の超火力美少女ファイター見参!

「ようやく解放された……。 まさか、こんな大ごとになるなんて」


「それは仕方ないよミィ。 だって観光なんて発想、この世界の生活や文化レベルを見るかぎり思いつく人は早々いないよ」


「そうかな?」


「そうだよ」


 ミィが思いつきで話した観光を産業にするアイデアは、侯爵によってすぐに地方の街や村で実行された。


 その成果はまだ現れないが、農業以外の方法で収入を得られることを知った住人達がこぞって参加している。ダスティン領に観光ブームが訪れるのはミィがライティスに到着してからとなるが、タイミング的に運が良かったといえるだろう。それは彼女の顔と名前が知れ渡る前だったので、他の貴族達に身柄を拘束されずに済んだからである。


 この世界の貴族の多くは世襲を積み重ねた悪影響で、特権を行使するのが当たり前となっていた。レスターやアレクシスのような、温厚な人の方が珍しい。そのおかげで2人は、ミィのガトリンクガンで撃たれずに済んだ。


 おこづかいという名目でアイデアの報酬を受け取ったミィは、数日ぶりに街の散策に訪れている。前回は同行していたアレクシスに下着姿を見られたりもしたが、今回はミィとクロの2人だけ。遅い時間に帰宅をしなければ、心ゆくまで買い物を楽しむことだってできる。


 足どりも軽やかにヴールルの街を歩き始めてさっそく聞こえてきたのは、賑やかな街の喧騒……ではなく助けを求める女性の甲高い声。


「本来ならアレクシスさんあたりが颯爽と現れるべき場面なんだろうけど、仕方ないから代わりに白馬の王子様役を引き受けよう」


「……もしかして、ミィは『お姉さま』とか呼ばれたい願望でもあるの?」


「そうじゃなくて正義のヒロインとかそういうのに、クロも憧れたりしない?」


 あいにく愛と音楽の女神の他に、人を罰する神とも呼ばれているクロ(バステト)にそんな願望はない。実際、多くの人間に罰を与えてきた。


(罰を与えることのなにが楽しいのだろう?)


 女の子の変身願望に少々うといエジプト神は、ミィの抱くヒロイン像を理解できずにいる。17歳にもなってまだ変身ヒロインに憧れているミィもまた、子どもっぽいといえなくない……。




 とりあえず声のした裏路地に入ると、突き当たりの行き止まりで若い女性が破落戸ごろつき3人に囲まれていた。


「よう、ネェチャン。 そんな風に逃げられると、俺達の脆くて傷つきやすいハートが壊れちまうじゃねぇか」


「これはお詫びとして、俺達と少しデートしてもらうしかねぇな」


「なあに、ちゃんと家に送り届けてやる。 ただし、親の分からない子どもがお腹の中に出来ているかもしれねぇがな!」


 これから男達に何をされるのか理解したのか、娘はカチカチと歯を鳴らしている。ミィは静かに小盾を装着すると、破落戸達に暴徒鎮圧弾を掃射した。


「ガトリンクバックラー、ファイヤー!」


 ドルルルルル…………!


「ぶべっ!」


「げぼっ!?」


「ぷげらっ!?」


 ゴム弾とはいえ背後から突然撃たれ、破落戸共は次々と前のめりに倒れ昏倒する。何が起きているのか分からない女性に、ミィは昔好んで見ていたアニメのヒロインを真似てみた。


「私は愛と正義の超火力美少女ファイター、ミース・ダスティン! 女性を泣かせる悪い人は、このガトリンクガンでお仕置きだぞ♪」


「ミース・ダスティン? ダスティンってあの侯爵家の?」


(あっ、しまった!)


 何も考えずについ名乗ってしまったが、気づいたときにはあとの祭り。ミィは軽く咳払いをすると、わざとらしく演技をしてその場を立ち去る。


「ほほほほ……♪ ミース・ダスティンとは、世を忍ぶ仮の姿。 私の本当の名前は双月の女神、メディナのみが知っている。 では、さらば~!」


 そそくさと逃げ出すミィ。女性は駆けつけた自警団に無事保護されたが、破落戸達を昏倒させた謎の少女のことを聞かれ、結局夜おそくに帰宅する羽目となった……。




「あ~あぶなかった。 あやうく正体がバレるところだったね、クロ」


「正体がバレるもなにも、自分から明かしてたでしょ」


 そう言いつつも手の届く範囲で己の正義を執行する姿勢に、クロは共感する。罰を与える者は、与える相手を傷つけるという矛盾した罪を自ら背負う。執行する者には強い精神と、決して揺るがない信念が必要だ。ミィがその両方を兼ね備えているかは不明だが、度を越した正義を行い始めた場合はクロ自ら彼女に罰を与えることとなるだろう。殺傷せずに昏倒だけで済ませたのは、その意味では及第点といえた。


 その後何事もなかったかのように街を散策して屋敷に戻ったミィ達だったが、翌日にはミース・ダスティンの名が街中に広まっていた。ミィはその日の深夜レスターとアレクシスにそれぞれ書き置きを残すと、ヴールルの街を出て一路光の都ライティスを目指す。


「これ以上居るとアレクシスさん達にも迷惑をかけちゃうから、早いけどライティスを目指して出発しよう」


「そうだね、機会があったらお礼を言いに来れば良いよ」


 翌朝書き置きにきづいたレスターはアレクシスを呼ぶと、ライティスの王立学校に通う娘に宛てた手紙を手渡した。


「アレクシス。 早馬でライティスにいるルシエラに、この手紙を届けてくれ。 都に着いたミィ君が困らないよう、影ながら手助けをしてやりたい」


「そうですね、ルーシェならミィとも仲良くやれるはず。 ただし、お転婆なところが直っていればの話ですが……」


 この手紙がダスティン家を正義の味方の代名詞とするきっかけになるとは、流石のレスターやアレクシスも予想出来ずにいたのである……。

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