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最初の小悪党、その名はカシム

「……あれが男爵のお屋敷かな?」


「そうみたいだね」


「物凄くイヤな予感しかしないのは、私の気のせい?」


「多分気のせいじゃないと思う」


 エリムの街に着いたミィとクロは、早速イドニス男爵の屋敷へと向かった。


 しかしその男爵の屋敷は建物全体が金色に輝いており、プアル村の村長の話に出ていた聡明さは感じられない。2人は屋敷に入るのを一旦諦め、領主に関する情報集めから開始する。


「あ~先代のアイン様の時は良かったが、今のカシム様になってからは酷いもんだよ。 賄賂の要求や突然の新税導入など本当にメチャクチャだよ、アイン様も草葉の陰できっと嘆いているはずだ」


 住人に聞いてみると数年前に先代が他界して、息子のカシムが後を継いだらしい。

しかしこの息子がとんだ厄介者で、先代が出禁にしていた商人から賄賂を受け取って優遇したり、賄賂の要求を拒んだ商人を出禁にしたりとやりたい放題だそうだ。


「クロ、これからどうする?」


「通行許可証を貰わないとライティスには入れないみたいだし、まずは男爵と会ってみるのはどうかな? ダメなら他の領主の所に行けば良いし」


「そうだね、とりあえず行ってみよう」


 ミィとクロはプアル村の村長の紹介状を持って、男爵の屋敷へと向かった。しかし2人が案内されたのは待合室ではなく、地下につくられた暗くカビ臭い牢屋だったのである……。




「お前達、正直に本当のことを話せば悪いようにはしないぞ」


「だから私達は、プアル村から来たって言ってるでしょ! 村長から渡された紹介状を見ても分からないの!?」


「ゴブリンの大群を1人で倒したなんて嘘を、誰が信じると言うのだ! すぐバレる嘘をつくのは、バカのすることだ」


 屋敷の入り口に立っていた男爵の私兵は、紹介状を見るなりミィを嘘つき呼ばわりしたあげく牢屋に叩き込んだ。男爵と直接話がしたいと言っても、今は妾とお楽しみの最中らしく会おうともしない。


 変な匂いのするスープを食事に出されて、ついにミィの堪忍袋の緒もぶち切れた。


「もういいかげん頭にきた。 クロ、ここから出て他の街に行こう!」


「それは別に構わないけど、このまま放っておくわけにもいかないよね?」


「……この屋敷を粉々にしちゃえば、少しは反省するかな?」


 物騒なことを言うミィに、クロは不安を感じる。しかしスープを飲み腹を下し気味になっていたクロは、最終的には彼女の作戦にGOサインを出した。


「それじゃ早速、この牢屋からぶっ壊しますか」


 鉄格子の横の壁に向けて徹甲弾を撃ち込むミィ、すると瞬時に大人1人分が通れる隙間が出来る。


「……頼む、俺もここから出してくれ」


 隣の牢屋から声がするので覗くと、薄汚れた服を着た髭面の男が横たわっていた。




「あなたもいきなり投獄されたのですか?」


「ああ。 ダスティン侯爵の名代として来たのだが、侯爵の忠告が気に入らなかったのか、捕まってこのザマさ」


 ここの領主から通行許可証は、たぶん貰えない。ならばこの男を助けて、侯爵から貰えるよう口添えしてもらった方が早いかも?ミィはそう考える。


「あなたを助けたら侯爵から通行許可証を貰えるよう、口添えしてくれますか?」


「わかった、アレクシスの名にかけて約束しよう」


「ではその扉も壊しますので、少し離れていてくださいね」


 ミィが扉を壊すと、クロが小声で尋ねてきた。


「ねえ、その男の話を信じちゃっても良いの?」


「う~ん、なんとなくだけど信じても良いって思えたの」


(そう、なんとなく……)


 この判断が正しかったかどうかは後に判明するが、助け出した男に手持ちの干し肉と水を分け与えたミィは本格的に屋敷の破壊を開始する。


「こんな趣味の悪い屋敷なんて、全部粉々になっちゃえ!」


「うわぁああああああっ!?」


 通路をふさぐ私兵は暴徒鎮圧弾で撃退し、壁や床は炸裂弾で粉砕していく。カシムが慌てて屋敷から飛び出す頃には、半分近くがガレキの山と化していた。




「な、なんだこれは!?」


「ちゃんと人の話を聞こうとしない領主の屋敷を、更地にしてるだけですが?」


「き、貴様……!」


 激昂したカシムが剣を抜いた、しかしミィの間に割って入った影が振り上げた剣を空へと弾き返す。


「そこまでだ、領主カシム・イドニス。 卿が行ってきた様々な不正は、ダスティン侯爵を通じて王に報告させてもらう。 沙汰が下るまで、大人しくすることだ」


 声の主が振り返る、整った顔立ちの青年でどちらかというとイケメンといえよう。


「どこもケガはしていないな?」


「あの……いったいどちらさまですか?」


 声には聞き覚えがある。しかしこんなイケメンと面識があれば、絶対に忘れるはずがない。顔を忘れられたと思ったのか青年は、肩を落としながら正体を明かした。


「さっき助けた人間の顔を、もう忘れたのか? アレクシスだよ、アレクシス」


「アレクシスって、あの髭面の!?」


「髭面のって……。 牢屋にずっと閉じ込められてたから、ひげを剃ることも出来ずにいたんだよ」


 顔中髭面の男も、変われば変わるものである。しかもちょっとだけ、ミィ好みの顔でもあった。


「とりあえず領主は街の自警団に引き渡そう、あとの処理は王の代理人がしてくれるはずだ」


 捕らえたカシムやその私兵達を自警団に渡したミィ達一行は、通行許可証をもらうためダスティン侯爵領へ向かうことにした。

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