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小さな英雄

 ミィとクロが村はずれに設けられた柵まで辿りついた時、ゴブリンの大群はすぐ傍まで迫っていた。ガトリンクガンを構えながら、ミィはすきくわ等を構えている村人に向けて大声で叫ぶ。


「みんな、今すぐ伏せて!」


 言っている意味が分からないのか村人達が伏せようとしないので、そのまま柵の外に飛び出すと炸裂弾の引き金を引いた。


 ドルルルルル…………!

 最前列にいたゴブリンが一瞬で、木っ端微塵となった。腕を左右に振り、接近するゴブリンを次々と仕留めていくミィ。


「ギャギャギャッ(一旦退け)!」


 最後尾にいた一回り大きなゴブリンが叫んだ、あれが多分群れのリーダーだとミィは目星をつけた。わずか1分足らずで半数近い手駒が失われたのだから、当然の判断だと思われる。だがリーダーをこのまま放置しておくと、また新たな群れを作り襲撃するかもしれないので、今度は徹甲弾の引き金を引く。


 発射された弾はゴブリンの身体を貫き、後ろにいた仲間にも襲いかかる。最後尾で控えていたリーダーも、逃げる暇も与えられずに全身を蜂の巣にされた。ミィの参戦からわずか数分で、村の危機は完全に消え去ったのである。


 ガトリンクガンを収納して戻ると、村人達は固まっていた。迫り来る脅威に対して死を覚悟していた筈なのに、それを圧倒的に上回る力が突然加わったのだから無理もない。


 ミィは半ば放心状態のロバートに、笑顔でこう言った。


「これでもう村が襲われる心配はありません、泊めてもらった恩を返すことが出来て本当に良かったです♪」




「君は……一体何者なんだ!?」


「何者って言われても……どこにでも居る普通の女の子ですよ?」


(いや、どこにも居ないから!?)


 ミィの答えに村人達が総ツッコミを入れたが、生憎と少女の耳には届かなかった。村を救った小さな英雄に少しでも報いようと、村長が宴会を開いて彼女をもてなす。


「このたびは我が村を救っていただいて、本当にありがとうございます。 あなたのことを女神メディナ様の命を受けて地上に送られてきた、神の使いではないかと言う者までおります」


「私はそんな大層な者じゃありません。 ロバートさんの家で一晩泊めていただいたので、その恩を少し返しただけです」


 あくまでも一晩の宿を借りた礼だとミィは答える、村長は小さな皮の袋と羊皮紙で書かれた手紙を彼女に手渡した。


些少さしょうではございますが、お礼を用意しました。 どうぞ路銀の足しにでもしてください。 またこの紹介状を領主様に見せれば、光の都ライティスまでの通行許可証を発行してもらえるはず……」


「ライティス?」


「この国の王都です、この地を治める領主のイドニス男爵様も聡明な御方。 きっと力を貸してくださるでしょう」


「ありがとうございます! さっそく行ってみます」


 ミィとクロが領主のもとへ向かおうとすると、ロバートが荷物を抱えて2人の前に駆けてくる。


「そういえば水と食料を持っていなかったよな? 俺からの礼だ、これも持って行くといい」


 袋の中には水の入った水筒と干し肉、さらには小さな寝袋まで入っていた。


「イドニス男爵様のお屋敷は、エリムという街にある。 街道を少し戻る形になってしまうが、ライティスもエリムから先だ。 メディナ様の加護があらんことを……」


「ロバートさん、何から何まで本当にありがとうございます。 この村に来る機会がまたありましたら、私によく似ているっていう妹さんにぜひ会わせてくださいね」


 ミィとクロは手を振りながら、プアル村をあとにする。村人達に見送られながら、2人は街道をゆっくりと戻り始めた。




「うぅ~、荷物が重い~!」


「そりゃ水と食料合わせて20kg近い重さだからね、死亡時17才の現代っ娘には少し厳しかったかな?」


 村が見えなくなった途端に、ミィはその場で座り込んでしまう。折角頂いたものを断るわけにもゆかず、気合いと根性で何とか背負ってみたがさすがに重い。


「仕方ない、荷物はボクが代わりに運んであげるとしよう」


 そう言いながらクロは大口を開けて、荷物を丸呑みしてしまった!


「クロ、あんた一体何を!?」


「けぷっ、これで荷物を背負わなくても良くなったでしょ? 荷物運びの礼として、ボクは肩に乗せて歩くってのはどう?」


 クロを両手で持ち上げながら、ミィは真剣な顔で呟く。


「もしかして胃の中に、※次元ポケットが!?」


「ボクをどうしてもネコ型ロボットにしたいみたいだね、君は……」


 クロが呆れていると、ミィが無茶なお願いを言い始めた。


「ねえクロ、○ケコプターか○こでもドア……」


「だから違うと言ってんだろうがゴルァ!」


 スパーン!

 ふところからスリッパを取り出して、クロはミィの頭を思いきり叩く。この2人のドツキ漫才が日常の光景となるのに、そう時間はかからなかった。


 そしてプアル村を出てからおよそ3日後、2人はイドニス男爵の屋敷があるというエリムの街に到着する。到着して最初にミィが口にしたのは、クロを呆れさせるのに十分すぎる言葉だった……。


「もしかしてクロの言った通りに進んでおけば、とっくの昔にこの街に着いてた?」


「着いていたかもしれないけど、その場合プアル村はゴブリンの襲撃を受けて酷い目に遭っていたと思うよ……」

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