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ゴブリンの襲撃

「もう疲れた~! クロ~、タクシー呼んで」


「そんなもの有るか! 仮に有ったとしても、無一文の君はどのみち乗れないよ」


 ミィとクロはどこまでも続く一本道を、延々と歩いていた。最初に降りた場所が、地平線の見える平原のど真ん中だったことも要因である。


「こっちの方が近い!」


「いいや、コッチだね」


 お互いが逆方向を推すのでジャンケンをした結果、ミィが勝利した。クロがグーとパーしか出せないのに対して、パーを出し続けたミィの反則勝ちともいえる。しかし平原を抜ける頃には日も暮れて、月明かりだけが頼りとなっていた。


「クロ~、ごはん~」


「ミィ。 ボクを未来からきた、ネコ型ロボットか何かと勘違いしていないかい?」


「ねえ、クロ……」


 ミィが急に真剣な表情になったので、クロは思わず息を呑む。


「クロって……結局化け猫なの?」


 スパーン!

 クロはふところからスリッパを取り出すと、ミィの頭を思いきり叩いた!


「痛~い、何するのよ!?」


「ボクは神様だって何度も言っているだろ、猫の妖怪と一緒にするな!」


 余計に腹が減ってきた2人は、その場に座り込んでしまう。


「う~、スカートが汚れちゃう。 どうしてこんな目に……」


「だからボクが言ったとおり、反対方向に行けば良かったんだ」


 ミィは反論することも出来ず、思わず空を見上げた。大小2つの月が隣同士に並び輝いており、日本に居た頃よりも数段明るい。


「……本当に違う世界に来ちゃったんだね」


 しみじみと眺めていると、どこか遠くから馬の蹄の音らしきものが聞こえてきた。


「ねえ、馬の足音が聞こえない?」


「お腹が空きすぎて、幻聴でも聞こえてるのかな?」


 諦めかけていた2人だったが、1台の馬車が視界に入ると大きな声で助けを呼ぶ。


「お~い、助けて~!」


「早く来ておくれよ~!」


 手を振っていると、馬車は1人と1匹の前で止まった。


「どうかされましたか? こんな所に1人で居ると危険ですよ」


「お願いします! 私達を近くの村まで乗せていってください」




「……そうですか。 花を摘みに行っている間に、仲間に置いて行かれたと」


「はい……情けないかぎりですが」


「いや、最近この辺りでは流行っているみたいですよ。 同乗者の荷物を狙った悪質な置き引きが……」


 行商人のロバートはミィに何故あの場所に居たのか理由を聞いて、適当に言った嘘を信じてくれたようである。


「まあ、命を奪われなかっただけ良しとしましょう。 酷い連中だと、若い女性などは彼らの慰み者にされてしまうケースもあるそうですよ」


 彼の話を聞いたミィは思わずゾッとした、このロバートが説明された連中と同類であればいつ彼女に襲いかかるか分からない。そんな不安に気付いたのか、ロバートは彼女を助けた理由を説明した。


「あなたをこうして助けたのは、村にいる妹によく似ているからですよ。 あいつもあなたとよく似て、結構騙されやすいタイプなので……。 村に着いたら当面の旅費稼ぎに、何か簡単な仕事でも探しましょう」


「ありがとうございます、ロバートさん!」


「これもきっと、双月の女神メディナのお導きでしょう」


 どうやらこちらの世界では、メディナという女神が崇拝されているらしい。ミィは疑われないように、この女神に対して感謝の言葉を口にする。


「はい、メディナ様には感謝しないと」


 ミィの言葉に機嫌を良くしたのか、ロバートはミィとクロに所持していた干し肉を分けあたえる。2人はこの干し肉のお陰で、空腹を何とか満たすことが出来た。




「着きました、ここがわたしの住んでいるプアル村です。 今夜はとりあえずわたしの家に泊まってください」


「本当に良いのですか?」


「はい。 困っている人に温情を与えるのは、メディナ信徒にとって当然のこと。 これで我が家にも、メディナの加護がもたらされるでしょう」


 ロバートの家に着いた時、既に彼の家族は床についていた。空いている部屋に案内されたミィとクロは、歩きつづけた疲れからかすぐに眠りについてしまう。


 翌早朝、村中に響き渡るけたたましい鐘の音で、ミィは起こされた。部屋を出るとロバートが慌てた様子で、彼女に駆け寄ってくる。


「良かった! 急いで逃げる準備を、この村は危険です!」


「何か近づいているのですか?」


「ゴブリンです、ゴブリンの大群がこの村に迫っているのです!」


 ゴブリンとはこちらの世界に住む魔物の一種で、体長は1m程だが素早く狡賢い。普段は5~10匹で群れをなすのだが、リーダーと呼ばれる亜種が産まれると一気に100匹近い大群を作り出す。作物を荒らし人間にも襲いかかり、女性を連れ去ってなぶり者にしたあげく種まで仕込む。


 ゴブリンの巣穴は人里から離れた見つけづらい場所にあり、連れ去られると生きて帰ることは出来ない。そのゴブリンの大群が、この村のすぐ傍まで押し寄せているというではないか。


「せめて村の女達には、逃げれるだけ逃げてもらう。 半数は捕まるかもしれないがこのまま居て、全員連れて行かれるよりはマシだ」


 悲壮な決意を秘めるロバートを見て、ミィも覚悟を決める。今が助けてもらった恩を返す時だと……。




「ロバートさん、私も一緒に戦います」


「無茶だ! 君みたいな女の子に、一体何が出来る!?」


「私には……これがありますから」


 そう言ってミィは、背中に背負っていた小盾を左手に嵌めた。


「そんな盾1枚で、何をする気だ!?」


「それは……」


 ロバートに説明しようとした時、村の北の方角から男の叫び声があがる。


「来たぞ~! ゴブリンはまっすぐこの村を目指している、女達を早く村の南から外へ逃がすんだ」


 ミィはロバートの手を掴むと、北の入り口に案内させた。


「説明はあとで、早く私を村の北まで連れて行ってください!」


「わ、わかった、こっちだ!」


 走りながらロバートの顔を見ると何故か顔を赤くしている、その理由は後日わかるのだが今はそれを気にしている場合ではない。ミィは肩に乗っているクロに、こちらの世界に来て早々に小盾を使用することをわびる。


「ごめんね、クロ。 早速だけど、この小盾を使わせてもらうわ」


「うん、それで良いよ。 受けた恩は返さないとね」


 そして10分後、プアル村の住人はガトリンクガンの威力を見て腰を抜かすこととなった……。

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