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そして……公女のターンとなる。

「離しなさい! あなた達、自分が何をしているのか分かっているのですか!?」


「へへへ……お嬢さんにゃ悪いが、俺達も依頼主には逆らえないんでね」


「依頼主?」


「ああ、ある御方があんたに一目惚れしちまったみたいでね。 今の身分では結婚の申し込みすら出来ない、ならば攫って監禁しちまおうって考えらしい」


 オンボロ小屋のすみで1人の娘が両手を縛られ、チンピラ風の男達に監視をされている。娘の名はコバルト・ブルーレイク、父アキレスとの久々の食事をするため屋敷に向かっているところを襲われたのだ。


 一緒にいた執事は殴り倒されただけで、命を奪われてはいない。恐らくはアリバイ作りのために、同行していた被害者を演じているのだろう。


 療養先を出立する前から、怪しげな予兆は感じていた。護衛の騎士の巡回ルートが突然変更されており、当直の騎士が交代するタイミングを狙って護衛を付けずに馬車を出している。


 そして案の定、出立してすぐに屋敷への最短コースを外れた林の中で、この男達に囲まれこの小屋まで連れてこられた。


「……なあ。 あの御方に渡す前に、少しだけ味見しておくってのはどうだ?」


 チンピラの1人が、定番のセリフを口にする。


「バカ! そんなことをしたら、俺達全員あの世いきだ。 身体に傷ひとつ付けるなと命令されている、我慢するんだ」


(頭の悪い男達、私を引き渡したら口封じで消されることも分からないなんて)


 コバルトは先の読めない男達に、現在の状況を分かりやすく教えようとした。


「あなた達、今の状況が理解出来ているの? 依頼主に引き渡しても、口封じで全員消されるのが関の山よ。 それに護衛で当直している騎士も馬鹿ではないわ、今ごろは執事も芝居しているのがバレて尋問されているはず。 ここの場所が判明するのも時間の問題よ」


(すごい! 誘拐されたのに冷静に状況を把握してる、私だったらパニック起こして泣いていたかも……)


 ミィは誘拐された公女の聡明さに感心する。驚くべきことに彼女は状況を把握するだけでなく、周囲の観察も怠っていないらしく……。




「……ねえ、外から中をのぞき込んでる子猫ちゃん。 この方達の仲間でないのならそろそろ中に入ってこない? それとも、そういう趣味?」


(うそ、気づかれてる!?)


 助けようとしている相手にバラされてしまったので、ミィはあきらめて小屋の中に入ることにした。


「て、てめえ、この隠れ家をどうやって見つけた!?」


「どうやってって、倒れていた執事さんが指差した方向に走ってきただけ……」


「……ぷっ♪」


 なにかツボに嵌まったのか、コバルトは思わず吹いてしまう。


「あははは……! いいわ、この娘。 本当におもしろいわ。 あの執事の言うことを、馬鹿正直に信じてここまで来てしまうのだから」


「えっ……もしかしてあの執事さんも、この人達の仲間だったんですか!?」


 今さらながら驚くミィ、半分呆れ顔でコバルトがやさしく教えてくれる。


「あのねぇ……仮にも公爵の娘である私の移動に、護衛が誰1人付いていなかったらそれだけで変だと思わない? おまけに顔を見られた執事を普通は生かしておく理由もない、口封じで消すのが当たり前よ」


「……はぁ、おっしゃる通りです」


「執事がこの場所を教えたのは、おそらく私が襲われた直後だったから。 あなたがすぐに駆けつけたおかげで、気を失っていたので分からないという嘘がつけなくなり正直に話すしかなかったということね。 間違った方角なんて教えたら、怪しまれてしまうもの」


 どれだけ頭が良いんだ、この人。ミィが舌を巻いていると、チンピラの1人が短剣を取り出してコバルトの顔の前でちらつかせた。




「戯れ言はそこまでだ。 そ、それ以上近づいたら、この娘さんの顔に一生物のキズが付いちまうぞ!」


 その言葉を聞いた瞬間、ミィの顔から感情が消える。小盾を背後の壁に向けると、無言でガトリンクガンを放っていた。


 ドルルルルル…………!

 壁は木っ端微塵となり、大きな穴をあける。腰を抜かしそうになるチンピラにミィは、最後通牒を言い渡す。


「そんなことをすれば、どうなるか。 見てのとおりです、かんたんに楽になれると思わないでくださいね。 女の顔はどんなものにも勝る武器だと、ママから教わってます。 その武器を傷つけようとする人に、容赦なんてしません。 今すぐに彼女を解放して、おとなしく罪をつぐなってください」


(罪をつぐなうと言っても、公爵令嬢を誘拐したのだから死罪しかないって気づいているのかしら、あの娘……)


 コバルトはこの国の世情に疎いミィを不思議に感じる。それでもこの男達の命まで奪いたくない気持ちは理解したので、この場は自分で収めることにした。


「しかたない。 この娘のやさしさに免じて、命ばかりは取らないであげる。 でも多少は痛い目にあうのは、我慢しなさい」


 そう言いながらコバルトは、縛られていた両手の縄を自ら引き千切ってしまう!


(えっ!?)


 目が点になるミィとチンピラ達をよそに、コバルトの目が怪しく光った。


「さてと悪いことをしたおバカさん達に、躾けをほどこさないとね♪」


 ほんの数分前から状況は一変、ここからはコバルトのターンとなるらしい……。

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