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そして制裁は始まった……。

「失礼しま~す」


 ルシエラが教室に入ってきたのは、授業が開始された直後だった。授業で使う教室は学年によって違うので、たとえ寝坊で遅刻したとしても間違えるはずがない。


「ルシエラ・ダスティンさん、もう授業は始まっています。急いで自分の教室に行き担当の教師に、遅刻を謝罪しなさい」


「あっ、お気になさらずに。 すぐに用件は済みますので」


 そう言うと教室の中を進み、新入生をいじめようとしていたリーダー格の上級生の前に立つとニコリと微笑んだ。その直後である……。


「ぷげっ!?」


 上級生の顔面に、ルシエラ渾身の右ストレートが叩き込まれた!スローモーションのように宙を舞ってから、リーダー格は床を転がり意識を失う。


「ルシエラさん! あなたは何をしたのか、分かっているのですか!?」


「はい、これは鉄拳制裁です」


「鉄拳制裁?」


 聞き慣れない言葉に教師はもちろん、他の生徒達も困惑している様子。ルシエラはそんな彼らにも分かるように、鉄拳制裁に至った理由を説明した。


「この方は仲間と組んで、新入生に対するいじめを繰り返してきました。 わたしに邪魔された上に恥をかかされたのを逆恨みして、仲間を集めて復讐する計画も立てていました。 よってこれより彼の仲間と、復讐する計画に加わった方達に対する鉄拳制裁をおこないます」


 ルシエラは手甲をはめた左右の拳を合わせる、やや高い金属音から軽くて高い強度を誇る金属が使われているのが予想出来る。


「わかりました。 ルシエラさん、彼らの根性を叩き直してあげなさい」


「はいっ!」


(いやいやいや! あなたは止めなくちゃダメでしょ!?)


 教師が何事もなかったかのように授業を再開するのに対し、生徒の方は授業どころではない。すると騒ぎを聞きつけてきたのか、隣の教室の教師が苦情を言いにやってきた。


「静かにしろ! うるさくて授業にならないじゃないか!?」


 しかしこの教師もルシエラを見た瞬間、きびすを返して自分の教室に帰ろうとするので、生徒の1人が肩を掴んで助けをもとめる。


「お願いします、彼女を止めてください! 先生も彼女の行いを容認するし、どこか変なんです」


「変?」


 教師の返事を聞いた生徒達は、ようやくこの異常な光景の起きた原因が分かった。


「彼女はメディナ様に見出された熱き心を持つ者、ルシエラ殿はその心を拳に込めて悪しき心を持つ者を正しい道に戻そうとしているのです」




(それって……たんなる暴力というか体罰じゃ?)


 いくら神様公認とはいえ、殴って改心させるのは少々乱暴である。だがさらに皆が驚かされたのは、殴られたリーダー格の目がキラキラ輝いていたことだった。


「お、俺はなんと悪いことをしていたんだ。 あなたの拳で目が覚めました、どうかお許しください」


 あまりの豹変振りにドン引きしていると、少し離れた席に座っていた仲間の1人が教室を飛び出して逃げ出す。


「ひ、ひぃっ!?」


「逃げても無駄です。 喰らえ、ホーミングナックル!!」


 ルシエラが拳を握りながら両腕を真っ直ぐ水平に伸ばすと、手甲が火を噴きながら逃げた生徒に向かって飛んでいく。そして生徒のあごにクリーンヒットすると、また元の場所に戻ってくるのだった。


「……さて、次に改心したい方はどなたですか?」


 獰猛な笑みを浮かべながら、顔の前で拳を構えるルシエラ。その後は逃げる生徒と追いかけるルシエラ、それを何故か黙認する教師。


「げぼっ!?」


「ぐぉっ!?」


「ぶべらっ!?」


 残る仲間達を全員殴り倒したルシエラが自分の教室に戻ると、教室の入り口に担任の先生が立っていた。


「……ルシエラ・ダスティン」


「はい」


「授業をすっぽかしたのは大目に見ますが、他の生徒の勉強を邪魔したことについては赦されておりません。 よって、バケツを持って廊下に立っていなさい」


「え~なんで~!?」


 この日王立学校に通う生徒達は、神に代わって悪しき心をもつ者を改心させる存在が誕生したことを知った。そして罪を赦す神が初めて、お騒がせ行為を働いた代行者に罰を与える瞬間を目撃したのである……。




 一方その頃ライティスを目指していたミィとクロは、ダスティン領を抜け隣の領主ブルーレイク公爵領に入っていた。ここは現国王の異母弟アキレス・ブルーレイクが治めており、豊かな木々と豊富な水を活かした林業と農業が盛んな土地柄である。


「うわぁっ、綺麗な湖! ねえクロ、あそこで少し泳いでも大丈夫かな?」


「大丈夫かもしれないけど、水着は持っているの?」


「うっ!? 大事なことを忘れていた……」


 残念そうに湖畔を見つめていると、クロが余計な一言を言い放つ。


「たしかに水の抵抗も少ないだろうし、泳ぎも上手そうだね」


 ドルルルルル…………!

 ミィは無言でクロの周囲をガトリンクガンで撃ち始めた。


「うわっ、あぶないじゃないか!?」


「ごめ~ん、ついうっかり引き金に指が……」


 どちらが悪いのか口論をしていると、少し先の林の中で黒い煙が上り始める。不審に思った2人が向かってみると、1台の馬車が破壊され執事らしき人が倒れていた。


「大丈夫ですか!?」


 駆け寄ると執事はミィの腕を掴み、助けをもとめる。


「……お願いします。 コバルト様を、コバルト様を救ってください」


「コバルト様と言われても、こちらの国のこと私よく知らないので」


 執事は苦しそうな顔をしながら、コバルトがどんな人物か説明した。


「コバルト様はブルーレイク公爵家の第三公女であらせられます。 幼少からお身体が弱く長く療養されておりましたが、最近体調も回復されてきたので久々に公爵様と会食をされるため、屋敷に向かっているところでした」


 この説明でだいたいの状況が理解出来た、つまり何者かに襲撃されたのである。




「そのコバルトって公女をさらった人に、心当たりはある?」


「いいえ。 公爵様に恨みを持つ者なんて居るはずが……」


「とりあえず捕まえてみれば分かるわ、どちらに向かって逃げたのか教えて」


 執事の指差した方角に向け、ミィは走り出した。しかしクロは周囲を見回しながら執事に小声で話しかける。


「ねえ、執事さん。 公女様のご帰宅にしては誰1人、護衛の姿が見えないのだけど一体どうしてかな?」


「そ、それは……」


 答えを返せない執事に、クロは微笑みながら断罪者の顔をのぞかせた。


「ミィはうまく誤魔化せたかもしれないけど、ボクには通じない。 洗いざらい全部吐いてもらうよ、そして……その罪に応じて君には罰を与えよう」


「……う、うわぁああああ!!」


 執事の叫び声が林の中に響き渡る、しかしその声はミィの耳まで届かなかった。

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