38話 ついに再会!
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「フッフッフッフッフッフッのフゥーーーー!」
「はぁ…………」
「フゥーーーフッフッフッFUUUUUUUU!」
「……ハイハイ、何かいいことあったの?」
「よくぞ聞いてくれましたぁ!」
ベッドに腰かけている私の目の前で仁王立ちで、聞いて欲しいことがあるオーラを振りまきながらウザったい程意味深な笑いをする幼馴染。
問いかけなければ変な笑いをし続けたに違いない。情報源は過去の私。
1度いつまで続けるのかと思って放置してたら30分経っても止めず、煩いし疲れてきた様子なので止めた。
私に促されてようやく本題に入る幼馴染。
「ついに私の熱意が届いて、シロネちゃんとオフコラボすることにぃぃぃいいい NA・RI・MA・SHI・TA!」
「うん、ツイート見てたから知ってる」
「ノンッノンッノンッ。そこは、わーーーすごーーーいっていうところだよ!」
「ワースゴイー」
ささえに言われた通りのセリフを口にするも、全く気持ちが籠っていない。全くもって心にもない言葉を吐き出している。
まったく……私の気も知らないで。
デビュー初日から目にかけて、何かにかけてコラボに誘ってはフラれる。それでもお得意の直感でいつかはオフコラボまで出来ると信じて、本当にオフコラボまで漕ぎつけた。
まあ、かかえのリスナーとシロネちゃんのリスナーは、てぇてぇって思うでしょうね。
「もぉーそんなムクれないの。1番はもちろん、なるせちゃんだよっと」
「わっ」
私の膝の上に、ボフッと背を預けて座って来た。
僅かに乱れ舞う髪の毛から、嗅ぎなれた匂いが鼻孔をつく。それだけで嬉しさと安心を覚えてしまうのだから、我ながら呆れてしまう。
私は欲求に従い、抱きしめながら目の前のうなじに顔を埋めた。
「あはははっ擽ったいよぁー」
ジタバタと体をよじるささえを逃がさないように、更に力を籠める。この温もりが何処か遠くへ行ってしまわないように。
「きっと楽しくなるよ……これからも」
「んっ…………そうね」
「にしし♪」
私は唸るような返事をして、支えられる様にしがみ付いた。
hayase side
「なんでこうなった……」
今の心を表すなら『OTL』。
目の前にそびえる建物は、どこからどう見ても一軒家です対戦ありがとうございました。降参するので帰っていいですか?
かかえ先輩とのオフコラボ当日。
前日までVワールドの事務所で行うものだと思っていたら、指定された住所は事務所ではない意外とご近所。
もしかしてと思いつつやって来たら、そこには住宅街に並ぶお家が1軒。もしかしなくても、ここはかかえ先輩のお家では?
1度行ったことある事務所ならいざ知らず、初対面である人の家にごめんくださいと声を上げながら訪問するとか難易度ハイレベルなんですが?
こんな時はどうすれば良いのか分からない。そもそも他人の家にお邪魔することなんて初めての経験。とりあえず、かかえ先輩遊びましょって言えばいいのかな。でもそれって友達同士がするやつだよね、こういう時は普通に、ごめんくださいでいいのかな?
どうしたらいいのか頭を悩ませていると、目的の家から女性が出て来た。見た目は高校生より上な感じで、年齢的に僕と同じぐらいかな。
女性を眺めているとこちらへ―――走ってきたぁ!?
「ミャ!?」
触れ合える距離まで一気に詰めて来た女性は、笑顔で僕の手を取った。
「貴女がシロネちゃんね!」
「ちっちちちちがいましゅッッッ!」
「えええええッ!?」
見知らずの人に一発で身バレしたぁ!? ナンデナンデどうして僕何かやらかしたかな!
唐突な身バレでパニくる僕と咄嗟に否定されて驚く女性。お互いにアワアワしていると、もう1人の女性が目的の家から出てきて声を掛けて来た。
「貴女たち、とりあえず家に入りましょう」
そう促されて、手を握られたままの僕は引っ張られて家に入ることになった。
あれよあれよと、2階の自室っぽい所ナウ。
今はようやく手を放して貰い、床に敷いてあるクッションに座りテーブルを挟んで2人と向かい合っている。
何時までもこのままという訳にもいかず、いささか思考能力が戻ってきた僕は、とある事に気が付き質問をすることにした。
「ぁっぁのう……もっもしかして、かかえ先輩ですか?」
よく考えると、彼女の声はすごく聞き覚えがある。それに指定した場所からして、かかえ先輩本人の可能性が高い。
「今更気が付いたの!?」
「みゃ!?」
僕の質問に驚いてかかえ先輩が前のめりになる。
ちょっ、顔が近い近い近い!
「あっあっあっぁう…………」
柑橘系の香りがふんわりと漂ってきて、かかえ先輩を余計に意識して顔が熱くなってきた。
「コーーーラ、かかえ。シロネちゃんが困ってるでしょ」
「だってぇーーー、気が付いてくれていると思ってたんだもん」
「そうなの。ちなみにかかえ、どうやってここに呼び出したの?」
「えっとね、明日ここに来てねって住所書いて送っただけ」
「だけ……つまり、ここがかかえの家だってことも、出迎えることも伝えてないのね?」
「そうだよ!」
「アンタが悪いじゃない」
「あるぇ?」
何やら唐突にかかえ先輩と、多分あきり先輩(ほぼ確定)が漫才の様なやり取りを始めた。
これがリアルかかあきてぇてぇ……!
「……かかあきてぇてぇ」
今日はここに来てよかった、もう思い残すことはない。……もう帰っていいかな?
「かかえが悪かったという事が分かった所で、今更だけど自己紹介しましょう。私は塔道あきり。でこっちが―――」
「九阪かかえだよ!」
答え合わせの様に自己紹介を行う2人。
あれ、言い終わったら終了じゃないのかな? かかえ先輩が、早く早くと続きを促す様なワクワクした顔を向けてくる。
「ぇっと……そのぉ……振上シロネって言います…………本日は、よろしくお願いしましゅ……」
噛まずに言えたと思ったら最後にやらかした……。
「よろしくねシロネちゃん♪」
「よろしく」
「それで、聞きたかったことがあるんだけどさ。シロネちゃんは乙倉湍ちゃんだよね?」
「…………えっ」
かかえ先輩のその言葉を聞いて、僕はポカンと呆けてしまった。
あれ、僕、本名言った?
言った覚えはない。もしかしたら知っている誰かが伝えたのかもしれないけど、だとしたら、こんな問いかけることはしないはず。
「否定しないってことはやっぱり! ほとんど昔のままですぐ分かったよ」
「えっ、えっ、えぇっ?」
「もう相変わらず可愛いなぁ! 湍ちゃんの同期がメロメロになるのも分かるよウンウン」
「あっ、うぇっ、はわっ」
「中学校卒業してからもう会えないって思ってたけど、こうして同じVTuberとして、尚且つ同僚として会えるなんてまさに運命だよね!」
「えっ、あっ、あっ、えっ」
「コラっ、湍ちゃんが驚いて反応出来てないじゃない。少しは落ち着きなさい、ささえ」
「だってだってだってだって、こんな奇跡そうそうないよなるせちゃん! 運命の再会を果たしたんだから落ち着けないよ!」
「ささっえ……なるっせ……」
ささえ、なるせ。
それは小学校の時、初めてオシャレして行った際に話しかけてくれた同級生の女の子たちの名前。その後も何度も突撃してきた片方を、もう片方が引っ張って行く姿が印象強くて今でもあの時を思い出すことができる。
「もっもし、もしかして……小学校中学校一緒だった……」
「覚えていてくれたんだね! ヤッホーーーイ!」
「むしろこんなキャラの濃いヤツは忘れられないわよ」
速報、元クラスメイトが同所属のVTuberで先輩だった。
くぉれは喜べば良いんですかねぇ?
一応、こんな僕にも声を掛けてくれた娘たちだし、嬉しいのかな?
あまりの出来事に頭がショート寸前で、2人が何か話しているとしか理解できない。何か問いかけられているみたいだから答えなきゃ。
「えっあっ、うっ嬉しい……かな?」
さっき頭で考えていた事がそのまま口に出た。
「ほら! 湍ちゃんもお泊りしたいって言ってるよ!」
「おと……まり……?」
ワッツハプン。一体何が起きているの。
「ささえ、これは完全に話が分かってなくてソレっぽい事を言っているだけよ」
「そんなことないよ! 湍ちゃん、折角だからお泊り会したいよね。きっと楽しいよ」
「お泊り会……」
お泊り会。
それは友達同士でしかされない、僕には縁遠い憧れのモノの1つ。
夜通し遊んだり雑談に花を咲かせたりワイワイと楽しいイベント、だと思う。
同期3人がウチに泊まりに来たけれど、配信終わって直ぐ寝てしまったからお泊り会っぽい事は何もなかった……かな?
まだ恥ずかしかったりするけど、出来るならもう1度―――
「してみたい……かな」
あっ、また考えていることが緩々なお口から出てしまった。
「はい決定。本日この3人でお泊り会をします!」
「ミ゛ャ゛ア゛!?」
今の話ってそういう事だったの!?
頭の中がトリップしてたから分かってなかった。
「はぁ……この子、絶対に今の話も心あらずで聞いてたわよ」
「でもでもでも、湍ちゃんは私たちともお泊り会したいよね?」
「あぅ……して、みたい……かな…………」
したいに決まっている。
でも恥ずかしいし、僕が居ていいのかなって思う部分もあるけれど、折角のお誘いなので漢は度胸! 湍、逝きます!!!
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