本が多い部屋
私の部屋は
本が多い
父が読む背中
時代小説
探偵小説
SF小説
毎度見る度、表紙が変わっていた
その華やかな変化と、動かぬ父の姿に
幼心に見惚れていた
今では私が貰い受けた
少し傷んだ本たちを
静かなる、動かぬ時間を
老眼で読めなくなったからと
寂しげに父が私に押し付けた
きっと捨ててしまうには
忍びなかったのだろう
私は本が好きだ
だから、父のあの眉尻の下がる思いは
よくわかる
ただ読むだけが本の価値では無い
表紙の様々な絵柄
紙とインクの独特の香り
頁を指で捲る薄く柔らかな感触
何もかもに
情が湧く
人間なんかよりも饒舌で
正誤混じった知識豊富な本たち
無碍に捨てたりしたら
「俺たちを捨てるのか」
と豊富で流暢な語彙で
責め立てられるだろう
例え本棚の底が抜けようが
足の踏み場が無くなろうが
構わない
私の部屋は
本が多い