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 茉凛は首をかしげた。

座敷童子(ざしきわらし)ってあれでしょ? 東北の古い家に住んでいる妖怪で、住んでる家は繁栄するとかいう……座敷童子が出る宿ってのテレビで見た事あるよ」

「茉凛ったら、私と同じようなこと言うのね」

 泰子は結をちらりと見た。

「あー、もしかして、あたしが前に仕入れてきたネタのやつ?」

「それぇ」

「前に話した時、二人とも反応薄かったからすぐに流したんだけどさ、座敷童子の童子部分を笑う子どもって書くやつね。座敷笑子(ざしきわらし)。あんときは茉凛が太もものおまじないの方にツボっちゃって、あんまり詳しく話せなかったんだよね。じゃあ泰子。改めて続きプリーズ!」

「あーうん……ちょっと待ってぇ」

 泰子は急に声をひそめた。おもむろに立ち上がり、美術室へとつながるドアの手前までスッと移動した。息をひそめながらドアに耳をあて、しばらくしてから急にドアを開ける。美術室を確認したあと少しだけホッとした表情になった泰子は、ドアを丁寧に閉めた。

「なに泰子、このタイミングで。なんか怖い」

「えっとねぇ。あまり人に聞かれたくない話なのね。というのも私ねぇ、多賀さんが言っていたおまじないの方の座敷笑子、あれがあの事件に関わっているような気がしてならないの」

 結と茉凛は顔を見合わせたあと、真剣なまなざしで泰子を見つめた。

「実はね、多賀さんが私にたずねてきたのって、結が座敷笑子の話をした何日か後くらいでねぇ。なんか気になっちゃって自分でも調べてみたんだぁ。検索キーワード工夫したら、すぐ見つかったし。茉凛は知らないだろうから説明するねぇ。結は、間違っていたら補足お願い」

「わかった」

「妖怪の座敷童子は家に憑くけれど、おまじないの座敷笑子はね、人に憑くらしいの。憑いた人のお願いをいろいろ聞いてくれるのねぇ。でもルールがあって、座敷笑子がお願いを聞いてくれたら、それが自分の思った通りの結果にならなくとも、ほめてあげなきゃいけないんだってぇ。そのルールが守れないと、座敷笑子は座敷悪子(ざしきわろし)に変わって、憑いている人を襲うんだって」

「ざしき……わろし?」

 茉凛は二人の顔を交互に見る。

「そう。笑う子どもじゃなくて、悪い子どもって書いて座敷悪子って読むの」

 泰子の代わりに結が答える。

「座敷悪子になっちゃうともう手に負えなくって、憑いている人のこの辺を裂くらしいのよっ」

 結は茉凛の下腹部のあたりをぎゅっとつねった。

「ちょ、ちょっと」

 茉凛は逃げようと身をよじらせるが、結は盛り上がった勢いのまま茉凛の下腹部付近を執拗に触ろうとする……うちに、結の腰が後ろの石膏像にぶつかった。

「あー、石膏っ!」

 ぐらついた石膏像を、まず泰子が両手で支えようと飛びついた。結と茉凛も慌ててそれをサポートする。それから三人同時にため息をつく。

「結ったらエキサイトし過ぎだってぇ。壊しでもしたら準備室使用禁止になっちゃうんだからぁ」

「ごめんね。ちょっとスイッチ入っちゃって」

 茉凛は倒れてしまったパイプ椅子を指さしてから結の下腹部をペンと叩いた。

「はーい。直しまーす」

 三人は椅子に座り直し、それから深呼吸をする。

「ね、泰子。死んだ五人のうちの一人が、そんな死に方してたってことだよね?」

 結が切り出すと、泰子は口をきゅっと結んだまま静かに頷く。

「二日目の方の事件の現場ね、事件被害者のうち二人が住んでいたマンションなんだけど、他にもうちの高校の生徒が住んでいるみたいでねぇ、SNSで投稿しちゃった人がいたの。廊下で女子が二人倒れてるって。髪の長い子は見た事あるとか、もう一人はお腹から血を流しているとか。もう消えちゃったんだけどねぇ、その投稿が消される前に保存してた別の人が、うちらの学校の掲示板にそれ転載したみたいなの。もちろん個人特定できちゃうからかなぁ、そこからもすぐに消されちゃったんだけれど……私はそれ見ちゃってたんだ。その時はわからなかったんだけどねぇ、警察に話を聞かれて、それでつながっちゃったんだぁ。ああ、あの子かって」

「……ってことはさ」

 結が泰子に続く。

「その子は集めたってことだよね」

「集めた?」

 茉凛が尋ねると、結は怖そうな表情を作る。

「結、その変顔、怖い」

 茉凛の指摘で結は表情を元に戻しはしたものの、語り始めたその声は低く重く、さっきまでの明るさなど微塵もないものだった。

「だってガチで怖い話だもん。座敷笑子ってね、召喚するのに小さな子の魂が必要なんだって。死んだ子が生前大切にしていたものを、死んでから四十九日の間に入手しないと呼び出すことができないっていう決まりらしいんだ。死んでから時間が短ければ短いほど願いを叶える力が強いとかでさ。ほら、ちょっと前にあそこの小学校のさ、登校中の列に車が突っ込んで何人も亡くなった事件あったじゃない。あの時さ、警察が事件現場に駆け付けた時にはもう、死んだ子の靴とか、ランドセルの中身とか、いくつか無くなっていたらしいよ。座敷笑子のために持って行った人が居るってことだよね。でも、実際にそんなことできる? 目の前の事故でだよ? なんで持っていけるの? ひくわー。あたし、ルールを破った時の座敷悪子より、目の前で死んじゃった子どもの持ち物を盗んでいくってそっちが怖くて手を出さないって決めたんだ」

 言い終わると同時に、結は机をダンと叩いた。

 泰子も茉凛も無言のまま結の握りしめたその拳を見守っている……何秒だったのか、何分だったのか、その静寂を破ったのは始業ベルの音だった。

「ヤバいって! 午後の授業!」

 三人は慌てて立ち上がった。


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