突然のアクシデントがありました
「神父さまー!」
「どうした、アレン?」
「ダンゴムシひろった!」
「元の場所に返してきなさい」
アレンは元気に成長していった。綺麗な金髪に彫りのある顔付き。どこからどう見ても美少年だ。
最近では村の子ども達と一緒に走り回っているようだ。魔法も、3歳を過ぎたあたりから使わなくなり、今では普通の子どもと同じように過ごしている。コントロールできるようになったのか、使えなくなったのかは分からないが、生活に支障がないなら問題ないだろう。
「神父さま、きょうのばんごはんなに?」
「ビーフシチューだ」
「やった!じゃ、あそんでくるね!」
「気をつけろよ」
外で遊ぶようになり、ようやく自分の時間ができた気がする。最近では森の見巡りもよく行くようになってきていた。少し心配なのは、この時期は魔物の繁殖期で、気が立った魔物が村におりてきやすいことだが、幸いにもまだその話は聞かない。しばらくは皆安心して暮らせるだろう。
そう、思っていた。
*
「神父様!!魔物が!!」
「!…すぐに行く」
場所を聞き、走る。そこは村の中心だった。
「!…なっ…」
到着したとき、既に魔物の姿は無かった。しかし…
「ぁ…あああ…!」
全壊した建物の中心で、真っ赤に染まった両目から血を流しているアレンの姿があった。
「アレン!!」
アレンの周囲には、既に息絶えている魔物の無残な死体が転がっていた。
「いやだ…くるな…!みんなに…ちかづくな!!」
アレンはこちらに手をかざし、強大な魔法陣を描く。俺がかつて見てきた魔道士たちのスピードを遥かに上回っていた。
「っく…!」
鋭い氷の塊が無数に飛んでくる。避けきれなかったいくつかの氷が腕の肉を切り裂き、足を傷つける。
「アレン…っ!」
後ろに回り込み、目をふさぐ。しかし、アレンはもうそれだけでは止まらなかった。
「…う、あぁ…くるなぁぁぁ!」
アレンの足元に陣が浮かび上がる。自分ごと発動する気か…!
「うあっ!」
アレンをかつぎ上げ、陣から逃げ出す。カソックの一部が凍りつき、バラバラに崩れた。
「アレン、魔物はもういない。落ち着け」
目を閉じさせ、抱き寄せて頭を撫でる。安心させるよう、優しく声をかけながら。
「よく皆を護ってくれた。いい子だ」
「あ、…神…父…さま…?け、けが…!おれ…?」
「いい。今はいいんだ。深呼吸してみろ。ゆっくり、な」
「ん…ふっ……はぁ…っ」
何度か深呼吸を繰り返し、落ち着いた様子のアレンは、そのまま意識を失った。
*
「ん…うぅ…っは、はぁ…!」
帰ってしばらく寝かせていると、アレンが突然苦しみだした。熱が出たようだ。魔法をいきなり使い過ぎた代償のようだ。
急いで医者に診せ、解熱剤を飲ませる。
「神父さ…ごめ、なさい…ごめっ…」
「気にするな、アレン。今はゆっくり休め」
「ふぇっ…ごめ…なさいっ…」
「大丈夫だ。痛くない」
アレンは一晩中泣きながら謝り続け、俺はその都度返事を返した。
翌日盛大に目が腫れたアレンに俺が脅かされたのは今ではもう笑い話だ。