どうせなら握手から始めましょう。
何を言われているのかさっぱりわからないといった顔のイケメンに向かって手を差し出す。
すると、とたんに顔をほころばせて俺の手を握り返してきた。もうそれは力いっぱい。そしてブンブン上下に振るのは適度なところでやめてください頼むから!
もうこうなったらとりあえず頼まれ事をこなして、一刻も早くここから立ち去るという方法しか思い付かない。
「おっけー、そこで素晴らしい友情が育まれたのはよくわかった。よくわかったから手伝ってくれ。じゃないと俺らが泣く」
「そろそろ仮眠とらないと死にそうだよ、みっちゃん」
「誰のせいだと思ってる」
そんなやり取りをしながらも手を動かし続けるメガネ先輩(ここが生徒会室である以上おそらく全員上級生なのだろう)。
書類の山に埋もれてしまいそうなくらい小柄な先輩は、手元のペンをくるくる回している。つまり、サインははかどっていないようだった。横顔からでも、目が大きいのがよくわかる。体格も相まって、女子に見間違えても仕方ない。
逆に、書類の山に絶対に埋もれないであろう、座っていても高身長なのが分かる、硬派な感じの先輩は、まじめな顔をしているものの、若干船をこいでいる。眠気が限界のようだ。
そして、入り口から一番奥、どう見ても会長用の机の上には、息絶えたかのように人がうつぶせになっている。これがおそらく逢坂先輩言うところの「麗ちゃん」なのだろう。不意を突かれて刺されたかのような、なんていうか、本当に死んでいるかのような姿である。
「ええと、俺は何をしたら」
「とりあえず、空いている場所を探して、座ってくれ。逢坂は早く続きをやれ」
「あのね、みっちゃん。俺思うんだけどさ」
「なんだ逢坂。とりあえず手を動かしたら聞いてやるが」
この会話の最中、メガネ先輩は一度もこちらを見もしない。そんなメガネ先輩の視界に入るように碧仁先輩が覗き込む。身長が高い分すごくかがみこんでいるように見える。うん、普通にむかつくな。
「逢坂、この期に及んで邪魔をするというのなら、流石にキレるぞ」
「否それってもう怒ってるって言ってるようなものじゃんか。じゃなくてさぁ。俺が麗ちゃんのサインするから、さっちゃんに俺のサインしてもらった方がいいと思ったんだけど」
まってくれ、そのさっちゃんというのは俺のことかそうなのか。名前教えて数分しか経っていないこの状況で、あだ名で呼ばれることになろうとはさすがに予想だにしてなかったし、そもそもさっちゃんてなんだ、俺の名前はサチコではないのだが。
「……、それは、そうなのだが」
「みっちゃんだってそっちの方が効率いいのはわかるでしょ」
「……そうだな、そうしてもらおうか」
ここで初めてメガネ先輩(碧仁先輩のいうところのみっちゃん先輩)が俺の方をみた。
あ、この人も顔が整っている人だ。碧仁先輩とは違う種類の美人だ。こういうのなんていうんだっけ、クールビューティーとか、そんな感じ。
眉間のしわは深いままだが、少しだけ柔らかい表情で俺に向かって「巻き込んで申し訳ないが、非常に困っているので手伝ってもらえないだろうか」と言う。
そう、なんていうか、普通にお願いされると俺でよければという気持ちになる。
「自己紹介が遅れたな。俺は小鳥遊帝。一応生徒会副会長だ。ちなみに会長は寝落ちしているあれだ」