おいでませ、生徒会室。
歩いてきた道を尻目に、さらにさらに、校舎の奥へと入り込んでいく。あんた一体どこから出てきたんだ。
「あの、俺自分で歩けるんで引きずるのやめてもらって良いっすか……」
「え~」
そしてこの状況を楽しむのをやめてはくれまいか。
「逢坂先輩?は何してるんですか、恐らく時間的には授業中なんじゃないかと思うんですけど」
「……授業はもう三日くらい出てないかな」
急にトーンを落としてくるのやめてください……、聞いちゃいけないことを聞いた気分になるので……。
しかも、そう、なんか悲しげに言われると、それ以上聞いちゃいけない気もしてくる。
一体この人の身に何があったっていうんだ。
そのままずるずる引きずられ、担ぎ上げられながら階段を運ばれ(これにはかなりへこんだ。一般的な体型の自負があったのに、軽々と持ち上げられたのは精神的にきつい)、さらに引きずられて、やっと目的地に着いたようだ。
その間に気になったことを聞いてみると、学年は俺より一つ上らしい。そして、苗字で呼ばれるのはあまり好きではないらしい(何回か逢坂先輩と呼んだら、明らかに機嫌を損ねたが、どう考えても下の名前を呼ぶほど親密な仲ではない)。あと「なんでそんなに身長が高いんですか」という質問に対しては、かなりまじめな顔で、毎日頑張って牛乳を飲んだからという回答をいただいた。
あほなのかもしれなかった。
まぁ、なんやかんやで到着した部屋の扉は、明らかに教室の扉ではなくて、洋館の一室を彷彿とさせるかのような作りだった。思わず目を見張ってしまう。
うわ、とか思う暇もなく、逢坂先輩は全力で扉を開きやがった。マジか。こんな重そうな扉をこんな力いっぱい開ける人初めて見た。
そこに広がっていたのは、扉の作りに負けないほど、やはり豪奢な部屋だった。
床には毛足の長い絨毯が引かれており、天井にはシャンデリア一歩手前の豪華なランプシェードがつるされている。そして、並ぶローテーブルもソファも、どう見ても高そうな繊細な彫刻が施されている。
……。
……。
…………、のだが。
その素敵なテーブルの上には書類が人が隠れるくらいのレベルで積まれており、何なら床にも散乱していて、これじゃどれが必要な書類なのかが全く分からない。そして、ソファに深く沈み込むようにして青白い顔をした人たちが黙々と書類に何かを書き込んでいる。何かの宗教なのか。
あんなに豪快な音を立てて扉が開いたというのに、誰一人としてこちらを見ようともしない。ネガティブ・ゾーンにでも取り込まれているのか、この人たちは。
うわ、という気持ちを全く隠さない表情をしている俺に向かって、逢坂先輩は(この死屍累々と比べたらまだ)朗らかに声をかけた。
「ようこそ、生徒会室へ」
「……は?」
反抗的な声が思わず出たのは許してほしい。