文字が書けない高校生はなかなかいないと思う。
なんかヤバい。逃げなきゃいけない気がする、と思って後退りしたら腕を捕まれた。しかも、思いの外強いちからで引っ張られた。まじか。プロレスごっこは勘弁してくれ。と、ここで麗しい顔の人が口を開いた。
「ねぇ、文字かける?」
「は?」
挑発的な返事になってしまったけれどこれは不可抗力だ、何言ってるんだこいつ。
あと、声が普通に低かったのでやっぱり男だ、俺の目に狂いはなかった。
「文字。かける?」
「はぁ……、まあ、人並みに」
否良く考えてほしい。ここ、高校。文字が書けない高校生の知り合いはちょっといないのですが。あっ、ちょっとまって、もしかして外国語?
「筆記体は苦手です」
「日本語書ければ十分だよ」
どうやら杞憂だったらしい。ちょっとアホっぽいことを聞いてしまった。
「ちょっと困ってるから助けてほしいんだけど」
「はぁ……、」
困ってるようにはあんまり見えないし、その前にひとつ言わせてくれ。助けを求めてる相手にラリアット食らわせるのがここの常識なのか?
それとも俺は異世界にでもやって来たのか? 喋っているのは本当に日本語なのか?
「よかった~、麗ちゃんが寝ちゃって困ってたんだよね~」
誰だそれ。そして腕を引っ張ったまま歩を進めるのをやめてくれ。
人並み程度の身長だと信じて生きてきたのだが、この頭一つ分背の高い麗しい顔の人に、文字通り引きずられているこの状況。
もしかしなくても、なんか間違えたかもしれない。
「っていうか、俺、職員室! そうだよ! 職員室いかなきゃなんですけど!」
「大丈夫大丈夫~、それくらいなら何とでもできるから~。それよりこっちの方が本当に危機迫ってるから……」
おっと急に声のトーンがマジだぞ……。果たして俺はボストンとローファーを持ったままどこに連れていかれるというだろうか。
というか。
「あんた、何者なんですか」
「逢坂碧仁だよ~」
名前は大事だけど今聞きたいのはそこじゃない。