その時の考えた事は
駅。夜は暗い。
ホームには待ち人はそれほど多くなく、閑散としていた。
しかし、その閑散は突如うち破られる。
待ち人は、皆、俺を見る。
俺を注目する。
見てほしくない。だから人が少ないのかもしれない。
ただただ、世界はスローモーションに動いている。
切れかけている蛍光灯が、ついたり消えたりと、何か信号でも送っているかのように、点滅している。
ヒヤッと冷たく、無味無臭のいつも吸っている空気が、勢いよく頬に当たる。喉の奥に当たる。
口の中の水分が乾いた気がした。
そして、その風に返事をするかのように、木々がザワザワとざわめいた。
何か、何かを伝えようとしているのかもしれない。
残念ながら、木々が何を伝えようとしているのかも、蛍光灯が何の信号を発しているのかも、わからない。
何も考えられなかった。
ぼーっと頭が留守になっている。はたしてどこに出掛けてしまったのだろうか。
頭はぼんやりと留守にしているのに、なぜか映像だけが急速に流れる。それは、俺の過去だろう。
それは、それほど良いものじゃなかった。
もし良いものだとしたら、きっと頭は留守になんかなっていないだろう。
待ち人は俺に注目なんてしていなかっただろう。
することなんてなかっただろう。
開いた口も目もを閉じると、ギュット噛みしめ息を止めた。頭の中で流れる映像。聞こえる音。
全てに一つの思いを伝えると、スローモーションの世界は終わった。
電車の警笛と人々の悲鳴と共に俺は目を閉じたまま……
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翌日、朝のニュースで一人の男が電車に跳ねられ死亡したと報じられた。