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親愛なるジキル  作者: 如月ノノノ
6/29

死線を越えた朝へ

展開を変えると言ったな

あれは嘘だ

明るい日の光で目覚めた。

時計を見ると昼前だ、相当疲れていたらしい。

そういえば、寝る時はカーテンを閉めたはずだが今はしっかり開いている。

これだけで少し安心できた。

恐らく'秋さん'だろう。

だいたい'秋さん'じゃなければ私が無事に目覚めている方がおかしい。

見回すと小さい背の低いテーブルの上に水の入ったペットボトルと置手紙があった。

随分と準備がいい人だ。

冬なのに寒くないのはこの部屋が適度に暖房が効かされているだからだろう。

...そう言えば寝顔を見られたのか、恥ずかしいな。

置手紙を手に取った。

”出かけるから少し家をあけるね

家の中に監視カメラはないけど家の外の敷地内には至る所にあるからくれぐれも家の外に出ないでね

シャワーとか家の中は好きに使っていいよ”

家中に監視カメラがあったら監禁される部屋が変わるだけだと心配していたがそんなこともないらしい。

まずお言葉に甘えてシャワーを借りようかな。

部屋を出てみたのはいいがどこがバスルームだろう。

あとお手洗いの場所も知っておかなければ。

私は寝させてもらった部屋が二階だったので二階の部屋を総当たりで開けていった。

お手洗いはすぐ見つかったが、バスルームはなかなか見つからなかった。

だいたい部屋が多すぎるのが悪い。

私が寝ていた部屋の2つ隣のドアを開けた。

中は必要最低限な家具しかない殺風景な部屋だった。

だが、白いベッドの上に白い猫がこの部屋の管理人と言わんばかりに座っていた。

可愛い猫だが、入ってくるなと眼力で訴えてきている気がする。

懐く相手が決まっているらしい。

私はすごすごと猫に追い出され退散した。

今の部屋は誰の部屋なのだろうか。

秋さんには懐かないらしいが...

脳裏によぎった考えが危険だと気づかせた。

もうあの部屋には行かない方がいいだろう。

階段で一階に降りるとあっさりバスルームは見つかった。

バスルームもやけに大きく大理石で出来たお金のかかりようだった。

早速シャワーを借りたがすぐに大変な事を思い出した。

私は着替えがない。

まあ仕方ない、シャワーを浴びれた事に喜ぶべきか。

長めのシャワーを浴びバスルームから出ると着替えが置いてあった。

まさかこれは...


「お気遣いどうもありがとうございます」

明らかに棘が困った言い方をしてやった。

「いや気持ち悪いと思われるとは覚悟してたけど...ご、ごめん」

小さくなっている秋さんに対してじっと私は睨みつけている。

確かに着替えがあるのは嬉しい。

しかし、それ以上に恥ずかしさが優っている。

男の人に着替えを用意してもらうなんて恥ずかしくない女子はいないだろう。

恐らく秋さんも非難されるのは承知の上で行ったんだろう。

そう思うと私が怒るのはお門違いな気がしてきた。

「も、もういいですよ

別にそんなに気にしてません」

「そ、そう?よかった...」

本心は少しからかいたいと思っていたとこもあるからこんなに反省の色を見せられると悪意があった私がタジタジだ。

話題を変えよう。

「置手紙があって安心しました」

「あれがないと不安だと思ってね」

準備の良さには感心するばかりだ。

今はバスルームで話すわけにも行かないので一応リビングにあたる部屋にきている。

リビングというより大広間みたいな場所だ。

私は用意してもらった着替えをきて秋さんはおしゃれなセーターを着ている。

秋さんは服選びのセンスはいいが私のために女性服を買い漁ったらしいので何とも言えない。

まあこの話題はあまりしない方がいいか。

これ以上いじめると泣きそうだ。

昼食は作りたかったらしいが時間がなかったらしく買ってきたもらったハンバーガーを食べている。

私は祖父母が食にうるさく外食はなかなかさせてもらえなかったので久しぶりで嬉しかった。

祖父母には申し訳ないがせっかくだから楽しもう。


食事が終わると秋さんは言いづらそうに聞き始めた。

「僕の事はあらかた話したけどハルちゃんの事はあんまり聞けてないよね」

昨日は私の質問攻めで終わったので私自身のことはほとんど話せてない。

しかし、私は過去についてはほとんど自分からは語ってこなかった。

哀れみの目で見られるのが嫌だったのと思い出すのもあまり好まないからだ。

私は明らかに嫌そうな顔をしていたらしい。

「あまり言いたくなさそうだね、無理にとは言わないよ」

表情から感じ取ってくれたらしいが時間彼が想像している上を行く悲劇が私の過去には横たわっている。

しかし、秋さんには話した方がいい気がした。

何となくそんな気がする。

私は私の過去について話した。


「辛かっただろうね...」

何も知らない他人にこう言われれば少しは腹がたつだろう。

しかし、秋さんに言われると悪い気はしなかった。

私達は二人とも悲劇の主人公だ。

神様に仕組まれて悲劇を無理矢理演じさせられている。

「僕なんかそんなに強くなれないよ...」

それに関してはなかなか難しい。

悲劇で壊れてしまった秋さんは明らかに私より酷い人生を歩んできている。

しかし、秋さんからしたら私の方がそう見えるのだろう。

似た者同士だ。

「それにしても僕にはよく話してくれるね」

「私もよくわかんないです」

あの出来事以来男の人とこんなに話したのは初めてだ。

理由はよくわからない。

そして、突然思い出した。

私は完全に今秋さんを信じてしまっている。

最初は殺人鬼が面白半分に一人二役を演じているだけだと思ったが話していけばいくほどそうは思えなくなってきた。

人間らしさに溢れている人間と人間味が何1つない人間。

かけ離れすぎていて演技とはどうしても思えない。


私は日課らしい家の掃除をしている秋さんをさっきと同じテーブルに頬杖をしながら眺めている。

秋さんは鼻歌を歌いながら掃除機で隅から隅まで掃除に励んでいる。

こんな感じでいいのだろうか。

なんかよくわからないがこれじゃあ家に招かれた友達じゃないか。

友達...?友達じゃなくて...

いやこの事はもう考えるのはやめよう。


夜になり秋さんが夕食を作ってくれた。

本当によくわからない関係になってしまっているが、誘拐犯と被害者よりはいいか。

シチューにしようと思ったらしいが食材を買い忘れていたらしい。

得意のパスタ、1人暮らしのお供らしい。

そう言えば気になっていた事を聞いてみよう。

「秋さんと式の趣味とは似てたりするんですか?」

「うーん、まあ好きな食べ物とか同じだったしするし似てると思うよ」

「じゃあ式が私を選んだのも似てたりするんですかね?」

言った後でかなり恥ずかしくなってきた。

私は目が合わないようにテーブルを見ている。

「ど、どうかなー、そこまでは僕もわからないなーははは」

ちらっと秋さんを見ると顔を赤くしていつも通り頭を掻いている。

嘘をつかない人は悲しいな...

数秒二人がうつむきながら沈黙していた。

自分の地雷を他人に踏んでもらったみたいだった。

俯いている私の脳内はまたも葛藤していた。

何かおかしい事になっている。

絶対こんなのおかしい。

よく聞く誘拐犯と人質の間で同情などが湧いてしまうアレだろう。

きっとそうだ。


今晩はあの監禁部屋で寝ないといけないらしい。

あの部屋に戻るのは怖いが死ぬのはもっと嫌だ。

秋さんもかなりもしわけなさそうにしている。

「もし朝起きて僕だったらすぐ迎えに行くから」

「もし秋さんじゃなかったら...?」

「...」

これは意地が悪い質問だった。

彼にはどうしようもなく、この質問に無責任に答える事も難しいだろう。

しかし

「僕は君を守りたい、それだけは言っておく」

私は何も言わずに頷いた。

あの部屋にはお粗末なベッドが用意されていた。

あの部屋とは酷い差だ。

このベッドへの不満はあるが朝起きた時の不安は少し和らいだ。

きっと守ってくれるはず。

なんか書いてて面白くなっちゃって緊張感皆無な話になり変わりました。

このまま幸せに暮らしてエンドでいいような気がしないでもないですけど、悲劇の方が面白いんで次こそがんばります。

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