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親愛なるジキル  作者: 如月ノノノ
5/29

アンティーク好きな誘拐犯

今回はキリがいいとこまでが長かったので少し分量多目です。

私はあの部屋にどれぐらいいたのだろうか。

時計も陽の光も無い部屋に居たせいで時間の感覚が破綻してしまった。

秋さんに付いて行き、地下の部屋から出る事が出来た。

初めて秋さんの家を見た時はとても驚いた。

私の家もかなり大きかったがさらに大きく、綺麗な内装が多い。

家と言うより屋敷といった方がしっくりくる。


案内された部屋はなかなか大きな部屋で陽の光がよく入る部屋だった。

「まだ聞きたいこととかあるだろうけど、飲み物とか持ってくるからちょっと待っててね。」

私は頷き、部屋から出て行く秋さんをぼーっと眺めていた。

私以外誰もいない静かな部屋を見回してみた。

私が腰掛けているのは一人用にしては少し大きいベッドだ。

綺麗な白いシーツが敷かれている。

部屋に埃などもなくよく掃除が行き届いているが、最低限な家具以外何もない殺風景さがいつも使われていないのを示していた。

窓は簡単に開きそうだがあまり逃げるのは得策じゃない気がする。

サイコパスに目をつけられている時点で私はもう逃げられないだろう。

今思うとさっき殺されなかったのも奇跡だ。

あのナイフなら私などは数秒で殺されていただろう。

「...っつ」

手当された頬に触れるとまた鋭い痛みが走った。

「うぅ...」

何でこんな事に...

あの暗い部屋から出れた安心感といつ殺されてもおかしくない異常な状態に涙が溢れた。

こんなに泣いたのは両親が殺された以来だ。

涙は枯れはてないものらしい。


「これ使って」

驚いて声の主を見ると、心配そうな顔をしながら白いハンカチを差し出してきていた。

「あ、ありがとうございます...」

なんで誘拐犯からハンカチ受け取ってんだろ...

「僕のせいでこんな思いさせて...ごめん」

身長が高い秋さんがすごく小さく見えた。

なんて言えばいいかわからない。

秋さんのせいじゃないとも気にしてないとも言えない。

どっちも嘘を言う事になる。

だけどこの人を責める気にもなかなかなれない。

ならせめて明るく

「お茶菓子はありますか?」

責められると思っていたのだろうか、思わぬ言葉に秋さんは目を丸くした。

「もちろんあるよ」

アンティークのティーセットとかわいいお茶菓子を見て意外なチョイスに少し気分が軽くなった。


「あっち!!」

猫舌なのかな?

さっきからずっとこの調子だ。

自分の入れたお茶で何回熱がれば気が済むのだろうか。

緊張感が全然ないがまあいいか。

「ここはどこなんですか?」

「町田市の外れだよー」

間延びした回答だ...

誘拐犯でシリアルキラーなはずなんだけど...

「意外と離れてないんですね」

「うーん...最初にどこで君と会ったかは僕はわからないんだよねー」

頭を掻きながら申し訳なさそうにしている。

「そう言えばそうでしたね」

意識が交代している時の記憶はほとんど残らないらしいから、当然と言っちゃ当然か。

「じゃあ秋さんはここに1人暮らし何ですか?」

「うん」

もう冷めたであろうお茶と格闘しながら答えた。

「同棲してる人とかいないんですか?」

そう聞くと

「うっ...」

間が悪そうな呻き声を上げた。

何だその反応...

「いや、僕もこんな感じだから人様と付き合うみたいなのは避けてるんだよ」

「彼女いた事無いんですか?」

まあ私も無いけど。

「もうちょっとオブラートに...」

図星を突かれて恥ずかしそうに頭を掻いている。

確かに自分の片割れが何をしでかすか分からないサイコパスなんだから、うかうか他人と仲良くなったり交際なんてもってのほかなのか。

このまま一生孤独に'自分'と戦うしかないのか。

神様は私もそうだが気に入らない人間にはかなり厳しいらしい。

「じゃあお仕事は何を?」

「うーん、一応医大生かな?」

学生か。

何で疑問文なんだろう...

ん?医大?

「そんな感じで大丈夫何ですか?」

欠席の日が不定期にあるような不安定な人間に医大生が務まるのだろうか。

「父さんが委員長をしてた大学病院にお世話になってる感じかなー」

「親の七光りでやってるんですね」

「ハルちゃんは随分はっきり物を言うね...」

我ながらかなり肝が座ってると思う。

一応殺人犯だし初対面だし。

まあ根拠は無いが秋さんが怒らないと言う自信はあった。

「まあ病院のサポートもあったけど一応は正規の方法で入ったからズルはしてないよ!」

「本当ですか?」

「本当だって!」

からかい甲斐がある人だ。

「じゃあ頭いいんですか?」

安直だが私の脳内では医大生=頭良いが成り立っている。

「ま、まあ多少は...」

また頭掻いてる。

癖なのかな?

変かもしれないが少しずつこの人に興味が湧いてきた。

色々聞いてみよう。

「お酒とかタバコは吸うんですか?」

「いやあんまり得意じゃないなー」

初めてこの人を見たときはタバコ吸ってたから多分'秋さん'は吸わないんだろう。

知らぬ間に肺を酷使させられているのか...

「趣味とかはないんですか?」

「趣味かー、読書かな」

この屋敷でアンティークセットで紅茶を飲みながら読書とはさぞ映えるだろう。


秋さんは心を開き質問する私にご満悦のようだ。

質問されるたびニコニコしている。

そして、聞き上手だ。

私が話しやすいようにしているらしい。

「じゃあ好きな食べ物とかある?」

会話中に場違いな質問をされた。

「シチューとかですかね...何でですか?」

「いや作ろうかと思って」

はぁ...この人料理も出来るのか。

この容姿と性格とスペックを行使すればさぞかしモテるだろう。


少し浮かれて明るい話題しか触れなかったが、あまり話したくない話題でも聞かないわけにはいかない。

「じゃあ式について教えてください」

秋さんは明らかに話したくないような顔だが、私の命がかかっている問題だ。

出来るだけ多くの事を知っておきたい。

「じゃあ特徴的な事を端折りながら教えるね」

秋さんもこの質問の重要性は理解しているらしい。

「頭は明らかに僕よりいい、特に狡猾さは並外れていると思う」

6人も殺してのうのうと過ごしている時点で相当なものだ。

「あと明らかに刃物の扱いとか人を殺める技術が高い」

それもさっき身を以て体験している。

明らかに素人ではないだろうし、狡猾さと相まってより酷さを増している。

「あと猫好き」

は?その情報いりますか?

てか、殺人鬼なのに猫好きなのか。

動物を愛でて人を殺すとはよく分からないな。

「多分これは僕との共通事項かも」

あっ秋さんも猫好きなんだね。

「知らない間に猫飼ってるんだよ!起きたらベッドに猫がいてびっくりしたよ!」

「でも秋さんも猫好きなんでしょ?」

「うっ...まあ...」

思わぬタイミングで図星を突かれたからか頭を掻いている。

わかりやすい人だ。

「猫は好き?」

「好きですよ、動物は何でも好きです」

会話しなくていいし、裏表もないから人間より全然いい。

「じゃあ今度連れて行くね。

真っ白で綺麗だから雪って言うんだけど、あんま僕に懐かなくてすぐどっか行っちゃうんだよね...」

式が飼い始めたらしいから猫には人格を見抜く力があるらしい。


部屋に掛けてある時計を見る限り話している間に夕方は通り過ぎてしまったらしい。

私は緊張が解けたせいか一気に疲れに襲われた。

食欲は無かったので、このままこの部屋のベッドで寝かせてもらった。

私も私でかなり不用心だが、あの殺人鬼の前では用心もあまり意味をなさないだろう。

私が寝させて欲しいと言うと秋さんは快諾してくれた。

「明日は大丈夫だろうけど式が君があの部屋から出てるのを見たら間違いなく君を殺すと思う」

私もそう思う。

どんな些細なことでも人を殺すトリガーになりそうだ。

私も面と向かう時は相当警戒しなければならない。

「まあ一応その事は覚えといてね」

私を脅かしたいわけじゃないだろうがこれを伝えるのは真っ当な判断だと思う。

まあ寝てる間に悪魔が放たれたら抵抗の余地などないが。

「今日は色々あったし、ゆっくり寝てね」

去り際にこう言いながら頭を撫でられた。

この人は私とは違う理由で他人とのコミュニケーションを避けてきた人だ。

こうゆう普通の人なら照れたり出来ない事を平然とやってしまうのは考えものだ。

秋さんが部屋から出て行き、電気を消すと静寂に包まれた。

さっきまでの殺人鬼と過ごしてる時間が孤独と比べるとマシに思えた。

感覚が麻痺し、正常な判断ができなくなってしまっているらしい。

ベッドに入ったが疲れによる倦怠感があるにも関わらずなかなか眠れなかった。

胸の鼓動がうるさい。

やっと危機感を感じ始めたのだと頭で必死に言い聞かせた。

多分そうだ、そうに違いない。

そうじゃなきゃおかしい。

信じたくない現実と葛藤してながら私は眠りについた。

日常パートと言いましょうか、緊張感0です。

次話では少し進展したいと思ってます。

書きたい事は決まっているのですぐ投稿できると思います。

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