表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の羽化する日  作者: 月影 咲良
54/61

周知

 さすがにここまで痩せると周りも気がつくらしい。

 私は会う人会う人に「痩せたね!」と言われるようになった。

 冥王はそんな私に

「ディスプレイなんか任されて忙しすぎたからストレスで体重が落ちたんでしょ!不健康に痩せるのはダメ!」

 と言って、何かとお菓子やお握りを差し入れて来るようになった。

 昼に逃亡するのも、ご飯を食べてからにしろ!と厳しくチェックを入れてくる。

 痩せろ痩せろ、あなたの為に言っているのよ、とあれほど言っていたのが嘘のようだ。

 私は職場で出されたものは、無理のない範囲で口にしているが、基本「後で食べる」で通している。

 しかし けっこう食べてしまったと思っても、次の日カフェでカロリー計算をしてみると不思議なことにだいたい1600キロカロリーくらいに収まっていた。

 どうも栄養指導を受けてから、一日に接種するノルマを果たさなきゃと考えるあまり、野菜を取ろうとしていつの間にか他でカロリー調整がされているようだ。

 我が家の食卓事情が少し変わったのも影響しているのかもしれない。

 母は相変わらず一品料理なのだが、タンパク質と野菜のバランスで私が食べる量が変わるので、少しずつ私が食べらる物が出る確率が高くなった。

 その代わりに、あんなに頻発していたジャガイモ料理や揚げ物はすっかり頻度が下がった。

 私がせっせと野菜を買い込むせいで、野菜室がいつでもパンパンなせいもあるかもしれない。

 さらに野菜の安い店を見つけて、休日にせっせと買いに行くようになってから、コンビニに行きたい病が少し収まった。

 習慣が、コンビニからスーパーに代わったようだ。

 ポテチやケーキなどお菓子類は回数を決めているため、いざ「食べたい!」と思った時に思いっきり食べられるように、常に食べずに「食べられる回数」を温存するようになった。

 貧乏性がこんな所で効いてくるとは。



 そんなこんなで、もはや冥王には私が痩せていくのを止める事ができなくなっていた。

まあ、今の私を本気で太らせようと思ったら、少なくともポテチ三袋を毎日欠かさず持ってくるくらいはしないとなのだが、常にスリムだったという冥王にはピンと来ないのだろう。

 冥王はデブキャラとして下に見ていた私が痩せていくのが面白くないらしく、仕事中些細な事でも「あんたは本当に駄目な人間なんだから」と噛んで含めるように暗示をかけてくる様になった。

 あまりにも精神攻撃が酷いので、私はまた道化になることにした。「痩せてはきたけど、女子力が低い」というポイントで押しておいたら、「確かにね!」とあっさりと自尊心を復活させて あれこれ語るようになった。

 ……あ、でもこないだの「女子力低いアピール」は ちょっと やり過ぎだったかもしれない。

 トイレ待ちしている冥王に聞こえるように、トイレの中で腕に口を当てて鳴らす「偽・捻りっ屁」の音を盛大に響かせてやったのだ。

 トイレから出た時の冥王のえも言われぬ顔が忘れられない。




 おおむね順調に進んでいたが、忙しかったことと、私の要領が悪いせいでご褒美がずっと滞ったままになっていた。

 普通の店て洋服を買う、旅行に行く、がまだだ。

 普通の店と言っても、買うのはその中の大きいサイズのコーナーだが、久しぶりに普通の店に行けるという事が私には嬉しくてたまらない。

 これはもう、服を買ってその新しい服を着て旅行に行くしかないのではなかろうか?





 私はさっそく休みの日に 旅行雑誌を買って検討することにした。

 久しぶりの旅行雑誌コーナーにはカラフルな情報紙がずらりと並んでいる。


 ああ~、どこにいこうかなぁ!

 旅行なんて本当に久しぶりだ。

 最後の旅行はいつだったっけ?

 確か、東京に行ったのが最後だ。

 某アニメの美術館への道がわからなくて、必殺・タクシーに乗って連れていって貰う!を決行したのだったな。

 そしたら何故か運転手さんが両国国技館の話ばかりを振ってきたんだっけ。

 一言も両国国技館に行くとは言っていないのに、壊れた機械みたいにずっと……



 はっ。

 いかんいかん!


 私は暗くなりかけた思考を追いやる。

 せっかく久々に旅行するのだ。楽しいことを考えよう!

 それに、今はもうあの頃みたいに巨デブではない。

 ポッチャリ……いや、ボッチャリくらいだ。

 このくらいの太さの頃は、あまり体型のことを突っ込まれないと記憶している。

 普通にただのデブだからだろう。

 もう少し細いと、「体格がいい」とか言われたりするし、巨デブになると何故か「もうネタにして良い

 」と判断されるらしく通りすがりの全く知らないオッサンにまで「あんたもう少し痩せなきゃぁ!」とか言って肩を叩かれる。

 くっ!あのオッサン、マジぶっ殺……



 はっ。

 いかんいかん!



 私はまたまた思考を断ち切った。

 こんな暗い考えになるのは、最後の方の記憶がロクでもない物ばかりだからだろう。

 この怨念みたいな思考を断ち切る為にも、今回の旅行は良いものにしなければ。


 固く決意をし、つらつらと雑誌を眺めた結果、私は行き先を決定した。





 そうだ、京都へ行こう!






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ