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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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クリスマスツリーとご褒美

 十一月も後半に入り、街はクリスマスカラーに染まって輝いている。

 私の職場も後れ馳せながらクリスマスツリーを設置することにした。

 どうせ出すなら長く飾りたいが、あまり長く出していると飽きてくる。

 一ヶ月少しくらいが丁度いいと思うのだ。

 そう店長に力説して、他店はとっくに出していたがウチの店舗だけは未だに倉庫に放置していた。

 店長はと言うと、そういうものに特に興味が無いようで、好きにしろとの事だった。大事だと思うんだけどなぁ。

 ちなみに社長は洋物のディスプレイはあまり良い顔をしないが、クリスマスツリーを飾るのはオッケーらしい。馴染みが深いからだろう。


 私は冥王がいない日を狙って中抜けの時間にクリスマスツリーの飾りつけを行った。

 休憩時間に働くなんて冗談じゃないが、こういうイベント事は別だ。楽しくて全く苦にならない。

 鼻唄混じりでツリーを組み立てていく。

 せっせ せっせと180センチのツリーの枝を拡げ、全ての枝先を少しだけ上向かせる。

 そして、ちゃんと枝が重ならないように配置。

 生木は光合成できるように枝を伸ばすと思うんだよねー。

 そして次に電飾を巻く。

 ここには私の最大のこだわりがある。

 それは、電飾の配線が目につかないようにするということだ。

 どんなに立派なツリーでも、この配線が見えたとたんに台無しになる。

 私は枝の一本一本に沿わせるように電飾を巻いていった。そんな巻き方なので、かなり長い配線であるにも関わらず長さが足りず、手前半分にしか巻けなかった。しかし試しに点灯してみると、まるで生木が蛍を纏ったかのような幻想的な仕上がりになった。

 店に昔からあった飾りつけを均等に配置し、全体のバランスを見てから秘密兵器を投入する。

 秘密兵器……それはmy飾りだ。

 クリスマス飾りには当り年とハズレ年がある。

 この飾り達は私が当り年に百均で少しずつ買い足した選りすぐりの精鋭部隊だ。

 百均と侮るなかれ。キラキラと輝く繊細な飾りもあれば、カントリー調のブリキの物や木製のものもある。

 お店に飾ると心ない人に盗まれたりもするのだが、私が溜め込んでいても日の目を見る場が無いので、思いきって飾ってしまう。

 ああ、なんって可愛いんだろう!

 ちょっと離れて再確認をして、私はウットリする。

 しかし……何か違う気がする。何だろう?

 180センチもあるのに、迫力がないと言うか……


 あっ!


 上から下へと何度も見返していた私は何度目かでピンときた。


 足下に鉢が無いからだ!


 地面にいきなり木が生えているからおかしいのだ。

 こう、レンガ調の鉢が欲しい。

 思い立った私はすぐさま店を飛び出して近くの百均に走った。




 レンガ調の粘着シートを購入した私は、店の裏に捨てられていた発疱スチロールの中から比較的綺麗で手頃なサイズの物を選び出し、正方形になるようにカットする。

 周りをくるりとレンガ調シートで整え、上にツリーを乗せると、発疱の重さが心もとなく、グラグラとして危険だ。仕方がないので中にみっちり缶詰の予備等を食品庫から持ち込んで安定させる。

 うん、良い感じ。

 仕上げに雪の代わりの綿を飾ったら出来上がりだ。



「うわっ、すっげ良い感じだね!」

 私が満足してツリーを眺めていると、湯呑み片手に浄水器に水を取りに来た長谷川が驚きの声を上げた。

 そうだろう、そうだろう。

「窓には何かしないの?」

「うーん、サンタとかトナカイとかの絵をスプレーで吹き付けるアレでしょう?」

「そうそう。せっかく綺麗にできたんだから、もっと本格的にやりたくない?」

「うーん……」

 やりたいかって言われるとイエスなんだけど、あれはちょっと問題があるんだよねー。

「あれはね、お客さんがかまって、すぐに汚くなるんだよねー。しかも、直そうにも型が一回使ったらすぐクルクル巻いてダメになっちゃうから、なおせないんだよね」

「そうなんだ。でとやってるトコもあるでしょう?

 そういう所はどうしてるのかな?」

「そういう所は、お客さんの手に触れない所はにやっていたり、子供が来ないからあんまりイタズラされなかったりするんだよ」

「なるほどー。じゃあ、しょうがないか」

「うーん……、いや……、じゃあ、こういうのはどう?」

 私はディスプレイ用のスノウスプレーをカシャカシャと振ると、窓全体にシュッシュッと水玉を描いていく。

「お!すげぇ、すげぇよ佐川さん!

 雪降ってるみたいだよ!」

 ただ不規則に転々と吹き付けただけのスプレーは窓に幻想的な雪景色を表現していた。

 予想外に綺麗になったので、私も我ながらビックリだ。

「やるねぇ!」

「まあな。」

「謙遜しろや」

 ケンソン?何それ、美味しいの?




 次の日、私は休みを利用して髪を切りに行くことにした。95キロのご褒美だ。

 私の今の髪の長さは腰近くまである。

 長すぎだろう、とよく突っ込まれるし、私もたいがい邪魔だとは思っているのだが、髪を切りに行けなかったのだからしかたがない。

 なぜ行けなかったのか?

 答えは簡単だ。

 美容室の椅子を体重で壊したからだ。

 美容師さんがどんなに踏んでも上がらなかった。

 シャンプー用のリクライニングシートの背もたれが私の重みに耐えきれず、スー……パタンと倒れきって二度と上がらなくなった時は恥ずかしさで泣きそうだった。

 壊れた椅子を修理しなければいけない店長さんも悲しそうだった。

 その時私は誓ったのだ。

 椅子が持ち上がっていた最後の記憶、95キロになるまでは髪を切りに行かない、と。

 理容室をもう二度とあんな悲しい空間にはしたくない。

 それから三年。減るどころか増える一方の体重のせいで髪を切りに行くことができず、たまに瑠璃やははにザクザク切ってもらっていたのだが、ハサミに髪の毛が噛んだ状態で引っ張られたりと散々な目に遭った。

 結局放置することになり、今に至る。




 カランカランと軽快なベルを鳴らして店内に入ると、丁度空いており久しぶりの店長さんが出迎えてくれる。

 私は一瞬店長さんが「あっ」という顔をしたのを見逃さなかった。

 ヤバい、私ブラックリスト入りしている……?

「今日はどうされますか?」

 しかし流石というか、すぐにプロ意識で内心を隠すと笑顔で何事も無かったかのように接客してくれた。

 私も何食わぬ顔でカットをお願いする。

 どうしようかな?

 せっかくだから思いきってショートにして、明日皆をビックリさせたいけど、寒いかなぁ。


 悩んだ末、意外性を取ってショートにしてもらうことにした。

 カタログを見せられると、「これ、ショート?ボブじゃね?」と思うような長さのものが多い。

 ショートのハードルが低いのは良いが、私がすると残念オカッパになりそうでちょっと恐い。

 そもそも27年生きてきて、私がしたことのある髪形はオカッパと後ろで一つ結びだけだ。

 私の髪は剛毛で直毛、髪の量も多くて三つ編みにすると「なにそれ、しめ縄?」とか言われてしまう。

 お洒落な髪形の作り方の本を見ても「まず茶髪にして髪にパーマをかける」から入らねばならず、髪の色を染めるの禁止なわが社にいる限りは叶いそうもない。

 それにパーマをかけると顔でかの私の顔が1.5倍になりそうで恐ろしくてできないというのもある。


「お決まりですか?」

 店長さんに声をかけられ、私はカタログから顔を上げる。

「うーん、せっかくだから思いっきってショートにしたいと思うんですが、ぶきっちょなのであまり髪を構えないんですよ。剛毛で朝爆発しやすいですし……。

 私みたいな髪で、お奨めの髪形ってありますか?」

 私は情けなく思いながらも思いきって相談してみる。

「そうですね、これなんか良いかもしれませんよ?

 あまり短く切ってしまうと、髪が持ち上がっていた横に広がったり上に持ち上がったりしがちなので……」

「じゃあこれでお願いします」

 餅は餅屋だ。私は店長さんのイエスマンと化した。



 椅子に座ると店長さんがいつもの癖で椅子を上げようとして、止めた。

 やはり椅子を壊したことを記憶しているようだ。

 だからと言って私から「上げてください!」と言えるわけもなく、居心地悪く思いながらもそのまま髪を切られるに任せる。

 途中「ショートでも簡単にできる可愛い髪形」の話をそうだんしながら、ばさりばさり と面白いように長い髪が切り落とされていく。

 三つ編みが上手くできないという私の悩みに、店長さんが毛束二つで捻る方法を教えてくれていたその時、ふいに椅子がぐっぐっと持ち上がった。

 どうやら話に花が咲いていたせいで、椅子が上がらないということを ウッカリ失念してしまった店長さんが、いつもの癖で椅子を上げるペダルを踏んでしまったらしい。

 鏡越しに店長さんを盗み見ると、店長さんは「あっ!」とやってしまったような顔をしたあと、「お?」という顔をして、もう一回ペダルを踏んだ。

 また私の乗った椅子がぐっと上がった。

 私は心のなかでサンバのリズムでカーニバルを踊った。

 ヒャッハー!

 上がった!上がったよーーーーーーぅ!!!

 私、公共物が使えるサイズになったみたーーーい!

 ヤバい、喜びすぎて涙が出そうだ。



 その後、シャンプー台の椅子の背が壊れることもなく髪を洗い終え、店長さんにワックス?で形を軽く整えて貰った私は、軽くなった頭と心で軽やかに理容室を後にした。

 椅子を壊されなかった店長さんも晴れやかな顔で「またお越し下さいませー」とお見送りしてくれたのだった。







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