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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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イヤリング

 カロリー制限を始めてから三ヶ月たった。


「う~ん、また止まったなぁ」

 私は体重計に乗って体重をはかると、冷静にその重さを眺める。

 体重は順調に減っており、なんと109キロを記録した。

 やった!十の位がやっと0になった!

 ここまで来ると100キロ切るのも秒読みのようで物凄く嬉しい。

 急激に減らした体重は簡単に戻ってしまうと瑠璃が言っていたが、元が129まで増えた巨体だ。減るときの速さはある程度までは仕方がないと思う。

 そして、減るときも流が有ることに気がついた。

 1キロから1.5キロ減ると、しばらく体重が動かなくなる。

 そして、減らないな、ちゃんとカロリー制限してるかな、と気にかけつつしばらくすると、また減り始める。

 この流が毎度毎度繰り返すのだ。

 これが世に言う停滞期?

 え、でもスパン短すぎじゃない??

 もしかして今後ドカーンとビッグ停滞期ウェーブが来たりするのかな?

 よく分からない...。

 まあ、停滞期に関しては来たときに備えてモチベーションアップ方法を増やしていくって事でいいか。

 私は手帳に今朝の体重を記録した。




 今日は六月にふさわしく朝から雨が降り続いていた。ただし、ザアザアと。

 おかしいな、梅雨っていったらシトシトと降るもんじゃないのか、なんて雨に文句を言っても仕方がない。

 それに私は雨は嫌いじゃなかったりする。

 この時期の雑貨やさんに売り出されている雨具は、女子力養成中の私のハートすらトキメかせるほどの破壊力を持っているからだ。

 可愛い傘に、色とりどりのレインブーツ、ポンチョ形の雨ガッパ。

 はあ...、たまらない。

 実は太ると足も太るせいで、私は長靴が履けない。

 ポンチョも寸足らずになる。

 なので痩せた暁には是非とも素敵な雨具を揃えたいと思っている。

 ちなみに傘はデブ関係なくさせるからと、何度かステキ傘を購入したことがあるが、何故かお気に入りの傘ほど速攻で壊れる。なぜ....

 強風が吹いたり何かに挟めたり、と必ず危険に見舞われるのだ。

 そして仕方なく繋ぎで昔から使っている傘をさすはめになる。

 この繋ぎの傘は実は小学校の時に祖母が何故か公民館で貰ってきたらしいのだが、目の痛くなるような蛍光ピンクに大豆サイズのまっ黒なドット柄がついている。

 見ているとチカチカするような一品だ。

 ウチは昔から貧乏だったので、傘だってそうそう買っては貰えなかった。さすがに高校時代は恥ずかしくてたまらず、強風の日にあえてさしてみたり、逆さ傘にしてみたりと壊そうと必死だった。

 しかし、こいつはいっさい壊れる事なく今に至っている。もはや妖怪のような傘だ。

 必ずやこいつとおさらばして、大人可愛い傘をさしてみせる!と息巻いていた私も、最近ではこのハデハデ傘がどこまで粘るのか逆に楽しみになっている。




 私は股の擦れて継ぎはぎだらけになったデニムのパンツを履くと、太ももまで丈のある白地に赤と青のボーダーのTシャツを着て、上から紺野デニムのコート風の上着を羽織った。

 腰回り完全防御でシルエットをぼかし、肌はなるべく出さない。完璧だ。


 いつものパンパンの鞄を肩にかけると、蛍光ピンクの傘をひっつかみ、私は意気揚々と車に乗り込んだ。

 向かう先はいつぞやのカフェ併設の本屋だ。

 しかし、今日の私の目的はいつもとは違う。

 なんと今日は、『初ご褒美』を買いに行くのだ!!

 110キロになったら、揺れるイヤリングを買う。

 そう決めていた。

 ああ、どんなのがあるかなぁ。

 楽しみだ。




 カフェ内の雑貨置き場に行くと、私の心拍数は急激に上昇した。

 みんなが私を見ている気がする!

 小心者が顔をだして、平静を装うのが難しい。

 私みたいなオッサン風味のオバハンがこんな小さくて可愛らしい物を買い求めるなんて!場違い感半端ない!?

 ドクドクと心臓が高鳴り、無駄にキョロキョロしてしまう。

 いかん。今わたし、完全に不審者だ。下手したら万引き犯だと思われかねない。

 女は度胸だ!


 私はなに食わぬ顔を装いつつ手を伸ばし、イヤリング......の横の棚に展示してある、ティーバッグの詰め合わせセットを手にとった。


 わー、可愛いなぁー。


 ってちがーう!

 おいおい、どんだけもっさり女子拗らせてんだ。

 自意識過剰だろ。

 だいたい、アクセサリーだって友達へのプレゼント用ならサクッと買ってるだろ。気にしすぎなんだよ!


 心の中で、色んな私が大暴れしている。

 私は珈琲の詰め合わせセットを手にしたまま、意を決してイヤリングの棚を眺める。

 どれもこれも可愛い!

 星や花や蝶々がキラキラと輝き、中にはレースのリボンが付いていたりする。

 と、その中の一つに目が止まった。

 そのイヤリングは、モチーフが二つに別れていた。

 耳につけると、耳のたぶにちょこんと蝶が止まり、耳たぶの裏側からは金色の華奢な鎖の先に小さな小花が揺れる作りだ。

 かわいい。

 ....かわいいっ!!

 私はそれをそっと手に取った。

 胸が先程までと違い、ぽわんと温かくなる。

 これにしよう。


 私はレジに行くと、そのイヤリングとティーバッグの詰め合わせセットを持っていった。

 ちょうど紅茶を買いたいと思っていたのだ。

 別に、エロ本を買うときに他の本を一緒に買って誤魔化すみたいなマネをしているわけではない。けしてない。


「ご自宅用ですかー?」

 小柄な店員さんがマニュアル通りの質問をしてくる。

「プレゼント用で」



 私はどこまでもチキン野郎だった。





 帰りに雨の降りしきる公園に赴いた。

 ち駐車場でさっそくイヤリングをつけてみる。

 耳たぶまで太っていて、イヤリング入らなかったらどうしようと少し思ったが、幸薄い私のペラッペラの耳たぶは特に問題なくイヤリングを飾ることができた。ちょっと内心複雑だ。

 気を取り直して、車のバックミラーに顔を映す。

 あれ、うそっ。

 私ちょっと可愛くない?

 耳元でサヤサヤと小さな音を立てて揺れるイヤリングは想像以上に可愛く、そして自分でも意外なことに私によく似合っていた。


 嬉しい。

 私でも、こんな可愛いイヤリング似合うんだ....。


 私はなんだか「もっとお洒落したっていいんだよ」と言って貰えたような、許された気持ちになったのだった。








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