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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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誕生日

 レコーディングが3日続いた。

 必ず中抜け時間にカフェに行って、書き漏れを確認しているので、今のところ問題なく続いている。

 私はうまくダイエットの軌道に乗れたことを実感した。


 体重は今のところ変化はない。

 食事制限していないので当たり前だ。

 今日は4日目にして休みシフトだ。

 そして、私の誕生日でもある。


 おめでとう私!

 ありがとう私!!


 私は一人でカフェに来ていた。

 テラスから眺める庭園は雪化粧がされて綺麗だ。

 これで晴れていたら反射が目に眩しそうだが、今日ははらはらと時より雪の舞う曇天だ。

 落ち着いた雰囲気に和む。


 お洒落な店内は山小屋の様な雰囲気で、こんなところに恋人と来ればとっても素敵な誕生日になること間違いなしだろう。

 一人だけど。

 彼氏いない歴=年齢だけど!


 でも今日私が淋しく誕生日を祝っているのは、べつに彼氏がいないからではない。

 ヤケ一人誕生日会なのだ。


 話は朝に遡る。




 朝の冷たい空気のなか、いつもする二度寝をせずに私はエイヤッと起きだした。


 トイレに行って体重を量る。うん変化なし。

 台所に行くと、母が綿入りのチョッキを着て朝食を作っていた。


 もう27になったわけだし、この年で誕生日なんてそんなめでたくもない...とは思いながらも、やはりそこは親子。祝って欲しい気持ちと、きっと祝ってくれるという、安心した期待がむくむくと沸き上がり、私は母に話しかけた。

「今日は何の日かわかる?」

 すると母はカレンダーを見ながら「ん~~、何の日だっけ?天皇誕生日じゃないし....う~~ん。」と頭をひねった...。




 え、本気でわからないの....?





 否定はしない。

 私は拗ねた。

 全力で拗ねた。

 大人げない?それがどうした。

 これが拗ねずにいられようかっ!


「今日が何日か忘れてただけじゃない~。」

 と母がごまかすのを冷たい目を向けながら、

「....日にち確認してたよね?今日が何日か分かってたのに何の日か分からなかったって事は、私の誕生日が何日かをそもそも覚えてなかったって事だよね。」

 と言って封じる。

 すると母はあろう事か、逆ギレならぬ逆拗ねを発動した。

「瑠璃の誕生日なら覚えてるもん....」

 ....母さん....それは....。


 逆効果だーーーーーーーーーっ!!



 私は怒り心頭でゴハンを掻き込むと家を出た。


 フンッ!フンッ!フーーーーンだっ!

 いいもん、いいもんッ。

 自分だけ美味しいもの食べてやもんねーーーーっだ!



 大人の財力をなめてはいけない。

 安月給とは言え、子供の頃に憧れた大抵の事は、今なら簡単に叶ってしまうのだ。

 ボンレスハムの丸かじり、コーヒー牛乳の一本丸々がぶ飲み、ケーキのホール食い、ボックスアイスの抱え食い、アイスの販売カーで買うアイス、うなぎの蒲焼き一匹丸々、お小遣いがなくて買ったことのない紙芝居オジサンが売っている水飴。

 思うがままだ。

 ただし、実際に大人になってやってみると、意外と残念な結果に終わることが多いのだが。

 例えばボンレスハム。歯の間に筋が挟まって食べにくい。そして、意外と美味しくない。スライスした方が断然美味しい。ハムをスライスするって、意味の有ることだったのだなぁと実感した瞬間だった。

 それからボックスアイスの抱え食い。あれは最初こそは美味しく食べられるが、すぐに舌が冷たさで麻痺して味が分からなくなる。カップサイズが妥当だ。

 水飴は....まあ、大人があえて買ってまでして食べるものじゃないな、と実感した。しかも1パックけっこう量がある....。



 とまあ、そんな失敗談も多々有るが、ちょっとした贅沢なら余裕で叶えられるのだ。

 いや、....むしろ一人の方が叶いやすいってもんだ。

 あれだ。よくテレビで大人女子達が口にする『自分にごほうび』ってヤツだ。

 自分にごほうび。良い響きだ。

 よーし、今日はまずはご褒美買いにいくぞー!




 意気揚々と向かった先は雑貨屋さんだ。

 うっ、可愛いい。食器などのキッチン用品も可愛いが、バス用品もむちゃくちゃ可愛い。

 バスボムとかなにこれキャンディーみたいだ。

 ハンカチとかも可愛いのが多いなぁ。

 ハンカチ欲しいなぁ。

 私は鼻炎だからハンカチ必須なんだよね。


 昔はハンカチなんて持って歩くような素敵女子じゃなかったから、鼻炎が酷いときはずっと吸い上げたりしていた。ボックスティッシュすらすぐに使い果たしてしまう堤防崩壊鼻炎の前に、ポケットティッシュなんて無意味だ。一瞬で無くなる。

 何度かポケットティッシュ切れを体感し、また母が「ポケットティッシュは高い」とこぼしたので子供心に申し訳なくなり、それ以来鼻はトイレットペーパーで噛んでいた。

 テストの時など、逃げられない時にずっと鼻を啜っていたら、周りの子に「うるさい!」と怒鳴られ、それ以来仕方なく袖口でぬぐうという蛮行に及ぶようにもなった。

 そんなある時、智子が「私鼻炎でつらくてー。」と言っているのを聞いた。そこでどうしているのか聞いたところ、ハンカチで押さえている、と教わったのだ。

 始めはハンカチが汚くなることに抵抗があったが、試してみるととても便利なことに気がついた。

 鼻炎はずーーーーーーっと、ずーーーーーーーーっっとチョロチョロと水のような鼻水が出続ける。

 いちいち かんでいられないし、 治まったかと思ったらまたクシャミが飛び出し、またチョロチョロが始まる。

 学生のように下を向いてノートをとったりする時など、本当に困ったものだ。

 しかし、ハンカチさえあればずいぶん改善される。

 ハンカチで押さえてずっと給水し続ければ良いのだ。

 ちょっと蒸れるし、頭がぼうっとなることも有るが、スンスンと鼻を啜らなくていいし、何より汚ならしく見えない。

 むしろハンカチ使いがエレガントに見えるのではないかというくらいだ。

 ただし、鼻水を吸い続けたハンカチは、ある程度すると臭くなる。

 洗濯していても臭くなる。

 なので何枚有っても良い品だ。

 うっかり忘れた時と鼻炎が酷いとき用に、鞄には常に3枚入れてあるしね。


 私はその中でタオル地のハンカチを手に取った。

 縁にワンポイントのカエルの刺繍がしてある。可愛い。

 いつもは智子の真似をして普通のハンカチを使っていたが、タオル地の物もいいかもしれない。

 昔に比べてサイズも小さいからかさばらないだろうし。吸水性も良さそうだし。

 私はハンカチタオルを3枚買うことにした。


 本当はキッチン用品も可愛い物で統一できれば良いのだろうが、そこは母の許可がでないので仕方がない。



 お店の奥の方は自然素材を生かした洋服などなので、スルーする。

 帽子や靴も無視だ。

 実は太ってから頭や足も太ったらしく、帽子や靴ですらもサイズがない。

 残念だ。



 レジにハンカチを持って行き、支払いをしようとするとハーブ石鹸が目に止まった。

 私は石鹸の溶けかけたデロンとしたのが嫌いなので、もっぱらボディーソープ派なのだが、ふわりと香るハーブに引かれて1つ購入する。

 これはタンスの下着入れに入れておこう。

 子供の頃に母が「よい香りの石鹸をタンスに入れると下着に香りが移って良いのよ」と言っていたのを胸をトキメかせながら聞いた。それ以来、よい香りの石鹸に出会うとタンスに入れている。

 古いのは石鹸派の瑠璃が使うだろう。



 そうして意外と安かったご褒美を入手した私は最後の仕上げにカフェに向かったのだった。





 このお洒落なカフェを選んだのには理由があった。

 普段はこの店の系列の、もっとゆっとりとした店舗を利用している。

 そちらはコーヒーを飲みながらゆっくり読書を推奨するような、独りぼっちに優しい仕様なのだ。

 そこのポイントカードを作ったら、誕生月の2月に入ったところでバースデー葉書が届いた。

 葉書には『バースデーフレンチトーストをプレゼント!』と書いてあった。

 ただし、フレンチトーストの取り扱いのある店舗が近場ではここしかなかった。

 私はフレンチトーストはそこまで好きなわけではないが、タダなら行ってみても良いかなぁと思い、どちらかと言えばレストラン色の強いこちらの店を訪れたのだ。




「お待たせいたしました。」

 しばらくして可愛らしい女性店員さんが持ってきたのは、想像していたよりもはるかに豪華なフレンチトーストだった。

 フランスパンのフレンチトーストを二段に重ねてホイップしたクリームで飾り付けている。

 散らされたピスタチオのダイスとイタリアンパセリがお洒落だ。

 ハッピーバースデーのチョコレートプレートと、明かりを灯された蝋燭が誕生日気分を盛り上げた。



 やばい。私一人なのに、店員さんがバースデーソングとか歌い出したらどうしよう。

 などという私の怯えとはよそに「お誕生日おめでとうございます!」というさらりとした一言を残して店員さんは去っていった。良かった。


 私はさっそく写真を撮ると、少し名残惜しく思いながらも蝋燭の火を3本の指でつまみ消す。

 本に仏さんの蝋燭の消しかたが書いてあって、格好いいと思って練習したのだ。

 隣の席のカップルがビックリした目でこちらを見ていた。

 ふっふっふ。事前に指を濡らしておくのがコツです。




 フレンチトーストはふわっふわで美味しかった。

 休みの日だが、カフェに来たのでメモ帳にしッかりと食べたものを記入する。


 帰りにケーキを買って帰ろうかと思っていたが、思いがけず立派なフレンチトーストだったので、何も買わずに帰宅することにした。

 あれだけ『今日は私の誕生日』アピールをしたのだ。母がケーキを買って来ているだろうし、今晩はご馳走か外食になるだろう。

 私はウキウキしながら早めに帰宅した。



 家に帰ると、母がスパゲティーを茹でていた。

 あれ?

 ご馳走どころか、手抜きスパゲティー....?

 まあ、好きだからいいか。

「ただいまー。今晩はスパゲティー?」

 靴下を脱ぎながら声をかける、

「おかえり。」

「どっかに食べにくいかと思ってたよ。」

 理由を見つけては食べに行こうと言う母らしくないなぁ、などと思っていると、まさかの爆弾発言が飛び出した。

「え?....あっ!あぁ~。あんたの誕生日だったね。」

「....え、忘れてたの?朝あんなに話したのに?」

 唖然とする私に、母は慌てて追い討ちをかける。

「それでケーキは?買ってきたの?」

 へ?

 何で私が自分の誕生日にケーキを買ってみんなに振る舞わないといけないの?おかしくない?

「買ってないよ。はぁ....もういいよ。

 昼にフレンチトースト食べたし。」

 私はガッカリしながら諦めた。

 すると母はムッとして文句を言いはじめた。

「あんただけ食べたの!?

 なにそれ~~っ、皆に買ってきなさいよーっ。」

「......。」


 その後激しい親子喧嘩に発展した事は言うまでもない。




 その後丼いっぱいのスパゲティーの麺にインスタントの明太子のスパゲティーソースを掛けてたらふく食べた。

 野菜なしの麺100だ。

 とんだ27歳の滑り出しメニューになってしまった。



 なにはともあれ、レベルUPおめでとう、私!!

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