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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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図書館

 1 0月も終わりに近づいた頃、私は図書館へ行くべく、古い家の建ち並ぶ小路を歩いていた。

 最近では さすがに ガクンと気温も落ちて、街も、行き交う人も 落ち葉色に染まっている。


 私はこの季節が好きだ。

 吹く風に混ざる冷えた空気が、じきに訪れる冬を想わせる。



 赤や黄色に色づいた桜の木の下を歩くと、自分が映画の主人公になったような気になってきて楽しい。

 しかしすぐに、けっして主人公にはなり得ない自分に思い至り、先のことを思って、過去のことを思って、物悲しくなる。


 秋は人を感傷的にさせる。けれど私は、その切なさに逆らおうなどと野暮な事は考えないことにしている。

 思い浮かぶままに哀愁に浸る。すると感性が、時おり吹き抜ける秋風に洗われるかの様に、ひやりと澄んでくるのだ。




 私は感傷に浸りながら30分ほど歩いて、私が小学生の頃に建て変えられて、今はもうすっかり古くさくなってしまった「近代的なデザイン」の市立図書館にたどり着く。


 どうせ古くなってもなかなか建て替えられないのだから、年月が経てば経つほど味のでる建物にすれば良いのに、とは思うが、どうせ上の方の人とやらと 公共事業のデザイナーが懇意だった、とかの理由だろう。

 でなければよほどセンスが悪いかだ。


 私はそんな「新」館の隣に建つ旧館の方に入る。

 建て替えの話が何度も出ているのであろう旧館は、所々老朽化のため立ち入り禁止になっている部分がある。

 しかし階段を上がった先の閲覧室は、今だ現役で稼働していた。

 創立以来保管し続けている新聞や 地元の歴史などの、普段人があまり用がない、しかし大切に保管すべき資料が所狭しと並んでいる。

 その閲覧の為に机がズラリと並んではいるが、そもそも利用者がほとんどいないこの館は、知る人ぞ知る自習室だ。

 鞄の持ち込みこそ厳しく規制されているが、むき出しのノートや本を持ち込むことには特別注意を受けない。

 利用者がほとんどいないせいだろう。



 その埃っぽくもある古い書物の匂いを嗅ぎながら、閲覧室の隅の方の席を陣取る。

 いつも通りに手帳を広げると、一人会議を始めた。



 まずは運動について。

『バケツカラオケ』や『エアバイオリン』などは、私にとって相性が良かったらしく、細々とだが続いている。

 そして、嬉しいことに少しだが体重が落ちた。


 125キロ。


 しかし、やはりと言うべきか、よくあるダイエット本の様に1ヶ月で五キロ減りました!とかにはならない。

 こんなに太っているのだから、一月に7~8キロくらい落ちたって別段不思議でも何でもないと思うのだが。


 なぜか?



 ....やっぱり、夜の買い食いを何とかしないと痩せられないよねぇ。


 私はがっくりとした。

 分かっていたことだ。しかし、できれば避けたかった事だ。

 何とかする。つまり、食べないようにするという事。

 私の癒し。私の憩い。


 でも止めないと、運動じゃあそんなには落ちないんだよね。

 運動はあくまで代謝UPのための手段だ。

 以前の経験から、運動は食事制限ダイエットをするときのブーストだと思った方が良い事がわかっている。

 辛い食事制限を出来る限り速く終わらせるために、運動をして筋肉量を上げて、燃費を増やす。


 まあ、痩せたら終わりの食事制限をしたせいで、痩せたら元の生活に戻って、すっかり元通りどころか

 爆裂太ったわけだけれど。



 じゃあ、バイブルにあるみたいに、おやつを食べる量を少なくする?

 和菓子を1個だけよ、とか?



 ....いや、これは危険だ。

 まず、少しが少しで終わらないからだ。

 少し食べたら、スイッチが入ってガツガツと食い漁らないと気が済まなくなる。

  しかも本人は少しの時間でも我慢しているから、「こんなに我慢しているのに!」とよけいにストレスになって嫌気がさすのだ。


 全く食べないのが良いとは思うのだが、ずっと食べないと食べないで「この我慢はいつまでしなければならないのか?このまま一生我慢しなければならないのではないか。いやだ、我慢ならない!」となって、ガツガツ食べてしまう。




「ふう。」

 私は手帳から顔をあげると、眉間を揉みほぐした。

 この件に関しては考えが常に堂々巡りだ。

 まあ、そう簡単に解決したら今ごろ ほっそりスリムになってるか。


 考えが深みにはまったので、気分転換に古い資料の間を背表紙を眺めながらゆっくりと歩く。


 お、家紋集だって。

 へー、私の家の家紋って載ってるのかな?

 たしか、こう....大きな葉っぱが真ん中に....


「あ、くるみん来てたんだ。」

 私が家紋の本を捲っていると、後ろから潜めた声がかかった。

 懐かしくも少し恥ずかしい、中学生時代のあだ名に振り返ると、そこには秋らしい色合いのチェックのシャツに紺のカーデガンを羽織り、関係者証を首からぶら下げた旧友の姿があった。


「あれ 、智子(さとこ) 今日はこっちの館?」

 私は図書館司書をしている中学時代の友人にひそひそ声で返す。

「うん、そう。こっち暇だからね、できることしちゃおうと思って、新館に仕事取りに行ってたの。もう、筋肉つきそう!」


 智子は手元の大量の書類を軽く持ち上げて見せた。

 私たちが小さくクスクスと笑いあっていると、カウンターの中から渋い顔をした ひっつめ髪の女性司書がわざとらしい咳払いをする音がした。

 今どき、注意をするのに咳払いをする人っているんだな、と私はへんに感心してしまう。


 智子は女性司書に背を向けているのをいいことに、しかめっ面をして見せると、

「じゃあ、ゆっくりしていってね。またメールするね。」

 と小さく手を振ってカウンターに戻っていった。



 この閲覧室の事を教えてくれたのは智子だった。

 私が図書館に行ったことで再会した智子が、旧館の方が空調も効いているし、静かでいいよ、と教えてくれなければ、私がこの旧館の閲覧室に入ることは無かったと思う。

 一見使われているように見えないからだ。


 いや、よく見ても使われているようには見えないか....。


 資料を守るために常にブラインドを下ろしていて光は漏れてこないし、そもそも節電とか言って2階に続く階段の電気が一つもついていない。

 まるで廃校舎だ。

 使われていると聞き知っていた私も、最初に入る時は緊張した。



 何やらお小言を言われている智子に、私は応援メールをそっと送った。



『ロッテンマイヤーなんか気にすんなー!』



 するとカウンターのなかで智子が大きくむせていた。ツボだったようだ。ロッテンマイヤーがスゴい目で智子を睨んでいた。ごめんなさい。




 その夜、智子からメールが来た。

「庭に柚子が鈴なりの予感!黄色くなったらいる?」


 私は智子と卒業以来で初めて、ゆっくり会う約束をした。

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