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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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運動の種類

 家に帰る途中でホームセンターに寄った私は、大きめのバケツを買って帰った。

 バケツを被って歌うと、防音声かがあると聞いたことがあったからだ。

 使ってみてダメでもまあ、使い道はあるだろうから、無駄にはなるまい。

 家への道のりも、車の中でノリノリで熱唱した。


カラオケという話だったが、カラオケボックスには行かない。

 何故ならカラオケボックスは、私にはとっては敷居が高いからだ。

 ものすごく高い。

 理由はよくわからない。音痴だからかもしれないし、システムに馴染めないからかもしれない。

 たんに友達が少ないから、数えるしかカラオケボックスに出入りしたことがないせいかもしれない....。

ダメだ、考えたら悲しくなる。





 さて、家に帰ってさっそく歌ってみる。

 被ってみると下がガバッと空いているせいか、息苦しいんじゃないかなという心配に反し 意外とそうでもない。

 歌うと音がこもる感じはあるが、ヘッドホンを着けて曲を流しながら歌うのであまり気にならなかった。


これは良い。



 調子にノッて熱唱していると、自然と体も動いてくる。

 結果、歌って踊るぜダイエットになった。

 もしかしたらカラオケダイエットというのは、ついつい調子にノッて踊ってしまうからなのかな?

 そう言えば、職場への行き帰りは合計2時間近く距離あるけど、けっこう歌ってたりするのに痩せたなんて体感したことがないしな。

 ....いや、でも車で歌っている時は ほぼラジオを聞いているから、もしかしたら案外歌っている時間は 短いのかもしれない。ラジオは好きだけどあえて切って、熱唱して運転するというのものも良いかもしれない。



 何はともあれ、カラオケ(?)ダイエットは楽しいので 採用することにした。

 体が踊っちゃっった時は踊っても良いとして、無理に「踊らなければならない!」という縛りは入れない事にする。やる気が削がれない事が第一だ。


 私はバケツに油性マジックで「カラオケボックス」と書いて、1階の床の間に置く。

 私の部屋だと床が抜けたとき死人が出るからね。

 ダンスをしていて、床を踏み抜いて死亡とかニュースになったら....、死んでも死にきれない!




 さて、確かにここなら家族の個室からは離れるので、夜中にヒソヒソ声で歌ったり(流石に全力で歌ったら響くからね)踊ったりしても、あまり家族には干渉されないかもしれない。

 だが残念な事に、それは私にも当てはまってしまう。

 この部屋は私の日々の動線からも遠いのだ。私の干渉からも外れる位置にある。

 つまり、私自身が歌うダイエットその物の存在を忘れてしまう可能性が高い。

 もしくは、「忘れてしまった事にする」可能性も....。


 うーん、どうしようかな?

 私が絶対にこの部屋に入るようにするには...




 しばらく考えて、スマホの充電器をこの部屋に置くことにした。

 これで必ずこの部屋に入る事になる。ちょっと不便だが、仕方がない。急ぎの時は充電器で対応すれば良いだろう。

 やだ、私って頭いい。




 しかし どうせ私のことだ。今は始めたばかりだからやる気があるが、すぐに飽きて面倒臭くなる可能性が高い。

 そういえばバイブルにも、運動方法は何種類か持っていた方がいいと書いてあった。

 今のところの私の手持ちのカードは、


 ・散歩

 ・ダンス

 ・カラオケ


 だ。

 ダンスとカラオケは被ってる部分もあるし、ちょっと選択肢としては、少ない気がする。

 筋トレもやめちゃったしなぁ。....うっ、誠司ッ。



 しかし毎日やることを考えると、あんまり大がかりな運動は現実的じゃない。

 ダンスやカラオケのように、楽しんでチョコチョコっとできる事って、何かないかなぁ。



 ダンスや、カラオケ....



 ふっと、床の間に放置された瑠璃の家庭用ゲームソフトが目に入る。


 何年か前に発売されたもので、リモコンを使って楽器を奏でるとかいう物だったはずだ。


 私も瑠璃も楽器なんて「リコーダーがちょろっと吹けますよー」くらいのものだが、....いやもはやリコーダーすら吹き方忘れました ぐらいかもしれないが、 これは楽器なんて弾けなくても、音痴でも楽しめるのだ。

 適当に楽器っぽくリモコンを振ればいい。あとは勝手にゲームがメロディーを奏でてくれるという優れ物だ。


 これはかなり気分が良かった。二人してゲーム内でCDを作りまくって遊んだ。

 最後の方は瑠璃がパーカッションにハマって、私が綺麗に演奏してる曲に「ヨーッ!ヨーッ!ヨーッ!」と、いちいち合いの手を入れてくるのに喧嘩になったが、それも含めて良い思い出だ。




 これ、運動にならない?



 以前はもちろん運動という感覚は無かったが、今やカラオケが運動枠に入っているのである。楽器演奏だって運動でイケるのではなかろうか。


 いや、イケるでしょう!

 ノリノリになると、滅茶苦茶 無駄に体を揺すりながら演奏してたしね!



 さっそく試してみよう。



 私はゲーム機を久しぶりに起動させようとして、ふと思い留まった。


 でも、これも結局飽きてやめちゃった物なんだよね....。

 たしか中に入っている曲が、ド定番の「きらきら星」などの他に、流行りの曲らしき曲が多く含まれていた。

 流行りの曲は、私も瑠璃もあまり分からない。

 だから実質 演奏できる曲があまりなくて、飽きてしまったのだ。


 一度飽きたゲームを、情熱的に続けられるだろうか?


 ....いいや、絶対に続けられないだろう。



 うーん、どうしようかなぁ。

 演奏事態は良い案だと思うんだけどなぁ。

 このソフト、続編も出てないみたいだしなぁ。

 楽曲さえ種類があれば....


 ネットに接続して、調べた曲で演奏できるようにしてくれれば良いのになぁ。



 ....。



 そうだ....。



 私は ハッとした。

 そうだ、何もゲームじゃなくても良いんだ!


 たしか子供の頃、父親の上司が子供たちに....とくれたクラシックのCDで、瑠璃と二人でエアバイオリンでバイオリニストごっこをしたことがあった。


 目をつぶってひたすらバイオリンを弾く真似事をする。

 ただそれだけなのに、ものすごく楽しかったじゃないか!


 私はゲームを使うのをやめて、スマホで検索した曲でエアバイオリンをすることにした。

 ついでにエア指揮者も楽しかった気がするので、それも追加する。



 手帳を開いて、運動という項目を作って書き込む。



 ・散歩

 ・ダンス

 ・カラオケ

 ・バイオリン

 ・指揮者



 ぱっと見、何の項目だよと突っ込みを入れたくなるようなバリエーションになった。

 しかし、何だか楽しそうなものばかりだ。種類も増えた。



 よしよし、なかなか良いんじゃない?

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