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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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一人作戦会議

次の日曜日、私は本屋に足を運んだ。

気合いの大きさは選んだ本屋の店舗サイズに比例している。


ダイエットをするにあたって、私はまず資料を集めることにした。今まではやみくもにやっていたが成功していないのだから今回はしっかり計画を練らねばならない。これだけ品数が有れば、目新しい参考書に巡り会えるだろう、とにんまりする。

まあ、ただ本を買う理由が出来たのが嬉しいだけだったりしないこともないが。インドア派なので。読書ばんざい!



健康の本はもちろん、今回は初めて「自己啓発本」というものを見てみることにした。

「自己啓発本」とは、世間で女子力が高いと評されている素敵女子たちが書いた、美魔女になる方法が記されている、ありがたぁ~~い指南書である。

私がその存在を知ったのはつい最近の事で、立ち読みをしたときできれば思春期に巡り会いたかったと落ち込んでしまった。

きっと世の女性たちはこのような本を研究して女子力を高めているのに違いない。

しかし私にはハードルが高い。もっさいオバサンがこういうのを必死に買うのは、痛い....とか思われるんではなかろうか。

わたしは自意識過剰もはなはだしく、やたらと周囲の視線を気にしながら自己啓発本を購入し、やりきった感に足取りも軽くいつものドーナツ屋さんに場所をうつした。。


やった、やった!これで今度こそキレイに痩せるぞ!


春の新作、もっちりドーナツに桜餅味のチョコレートをかけたものと、オールドファッションと中にたっぷりカスタードクリームの入ったものを購入し、紅茶を頼んで窓際の席に陣取る。

買ったばかりの自己啓発本を片手に持ち、もう一方の手でドーナツにかぶりつく。


ダイエットすると言いながらドーナツとかどうなんだとも思うが、頭のなかで「これを読んだらもう食べられなくなるんだから、食べ納めしとかなくちゃ」とか「本当は10個くらいイケるところを3個にしてるんだから、私頑張ってるよ!」という声がこだまするうちに、だんだんとどうでもよく感じられていく。



私が買ったのは『怠け者の私が続ける技術』と『自分史上最強の女になる』と『私の毎日、美人になる生活』だ。

どれもこれもウキウキする内容ではあるが、私にはハードルが高そうだ。とくに『私の毎日、美人になる生活』はおかしい。筆者の食事の内容が載っていたりするのだが、朝、ヨーグルトにフルーツを飾っただけのもの1杯でお昼までもつと思えない。

スムージー1杯とかになると、正気のさたではない。

本当に普通の女子たちはこんな生活をしているのか?


....いや、しているのだ、きっと。

その差が今の体重の差なのではないか。

でも耐えられないよね。


それから、他には....お風呂のなかではマッサージ。上がったらストレッチ。朝起きたら美顔体操。帰ったらウォーキング。食事は1日1200カロリー。それから、それから....


すでにやる気が萎えてきた。できる気がしない。



私は2個目のドーナツにかぶりつきながら、気分を変えるべく「続ける技術」の方を読んでみることにした。

そこには、いかにして続けていくかという考え方や工夫が書いてあった。その中でいちばん私の心をつかんだのは「続かないのは、意志が弱いからではない。ハナから続ける事は難しいものと認識して、それにどう対処していくかを考えないからだ」というところであった。


そうか、私が悪い訳じゃ無かったんだ....良かった。わたし、ダメな子じゃなかったよ。うんうん。


ちょっと泣きそうになった。努力の方向性の問題なのだ。

そう思うと、今度こそダイエットも成功しそうな気がしてきた。計画、大事!



さて、計画を練る媒体はどうしようか。


何度かレコーディングをしたこともあったが、メモ帳はすぐに何処かに忘れたりするし、ノートはすぐに新しいのに浮気した結果、使いかけが沢山あるのだが、使いかけはテンションが上がらない。そんなこんなで今わたしの部屋には使いかけのノートやメモ帳が20冊くらいある。今後も使う気がしない。


ではスマホはどうかというと、....機会オンチで使いこなせていない。

というか、わたしは紙に手で書くのが好きなのだ。それに文房具とか集めるのにトキメキを感じるので、できれば文房具を使える方がいい。そう、けして向上心がないわけではない。



けっきょく、何がいいかなぁと考えた結果、手帳に書くことにした。

毎年買うが、いつも途中で使わなくなるのだ。たまには使いきりたい。

それに、手帳なら毎月新品感が有っていい気がする。月が変わった時にカレンダーをめくると嬉しいあの感覚だ。


さて、媒体が決まったので、次はダイエット法を検討しなければならないだろう。

やはり王道は食事制限と運動か。

実は以前、1度だけこれで標準体重近くまで痩せたことがある。その時はたしか....


・断菓子、禁油

・毎日走る


だった。1年近くかけて70キロを58キロにしたのだ。今思い返しても、なぜ続けられたのか謎だ。その後どんなに望んでも続けられなかった。

その後、

食事制限、レコーディング、黒豆、MEC食、生姜、ジム通いなどなど試し、だいたい5キロくらい痩せてはリバウンドを繰り返して今に至る。


さっそく手帳のフリー欄に今まで失敗したダイエットを書き出し、一人会議だ。なぜ辞めたのかも、生るべく客観的になるように書く。


「ん?あれ?」

すると、今まで食の誘惑に負けたからだとしか思っていなかったがそれだけではなかった事に気づいた。


それは「油断」だった。


5キロ減ると、成功した気になってしまうのだ。

100キロ以上あるくせにだ。

そして食事会やら何やらのドカぐいや、おデブ習慣で身に付いた買い食いやらでスイッチが入ってガツガツ食べ、減らなくなって嫌になって辞めるのだ。


「あれ?でも私1回成功してるよね?あの時は何で続いたのかな。」

よくよく思い出してみる。あの頃は、今より無計画だったはずだ。

当時はまだカロリー早見表になれておらず、カロリーはだいたい卵1個サイズを80キロカロリーだと考えてザックリ計算していた。ただし、油ものは食べなかったし貰ったお菓子は食べたふりして持って帰って家族にあげていた。

貧乏学生気分が抜けていなかったので、自分でお菓子を買うという発想が無かったのも大きい。

そもそも財布を持ち歩いていなかった気もする。


しかも段々なれてくるとエスカレートして、当初


・80キロカロリー=1ポイントとする。

成人女性が1日必要なカロリーは1200カロリー


1200 カロリー ÷ 80 カロリー = 15ポイント


としていたのを、40キロカロリー=0.5ポイント、と小さい単位で考えるようになり、そのうち元々計算が苦手だったこともあり、40キロカロリーを謝って1ポイントと計算してしまったりしていた。

まあ、1日の接種カロリーの下限は900と聞いたことがあるので、もしかしたらリバウンドしたのはやり過ぎもあったのかもしれない。



....そういえば体重も、もっとザックリ考えていた。今みたいにグラフなど書かず(といっても、今も散々怠けて書けていないが)体重計もアナログの物を使っていた。

その頃は重い服の時と軽い服の時を考えて、軽い服の時はメモリをちょっと増やしたりしていた。そして直すのは面倒なのでそのままにし、次重い服で量った時は増えたと思って頑張って食事コントロールをした。ウォーキングもだ。


あれ、もしかして体重計を変えた辺りから太り始めた?


そ、そうか....分かった。

何故痩せられたか。

「正確にしなかった」からだ。

てきとうに体重をはかって、自分はまだまだだと勘違いしていたので、ずっと危機感を持っていられた。

ずいぶん減った辺りでドカンと正確にすることによって快感を味わえ、やる気もでた。


そして重要なのは、体重計がアナログであったので、増減が「見える化」されていたことではないだろうか。

針をあのメモリに合わせるぞ!と思うと、やたら燃えたのを覚えている。


人には向き不向きがあると言うが、正確にするというのは、私には向かなかったのだ。

まさに努力の方向が間違っていた。



よし、体重計だ。

手帳に思い付いたことを書き込んだ。


・アナログの体重計

・ウォーキング


毎日マインドコントロールだ!!



しかし、ウォーキングか....

何気に書いたが、やはり運動は必須だろうか。

私は運動が嫌いなわけではない。むしろスポーツは好きだ。ただ、しんどいのが苦手なだけで....。

以前走っていたときはコースがお気に入りだったのもあるが、それでも続けるにはかなりの精神力を使った記憶がある。

なかなかの難問だ。


ふう、今日は頭を使いすぎた。よし!今日はこの辺にしてウォーキングはまた考えよう。


わたしは冷めた紅茶を飲み干すと、ドーナツ屋さんを後にした。


....今度はせめて、オシャレカフェを選択しよう。

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