表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の羽化する日  作者: 月影 咲良
16/61

ベリーダンス教室

休日の朝、私は家で狂喜乱舞していた。


やったーーーー!!

やったやったやったーーーーー!!

やっと体重が動いた!!

125.4キロ!!

たった1キロ、されど1キロ!!


朝の生姜紅茶も....しょっちゅう買い食いしちゃいながらも何とか続いているし、運動もしたからかな。

普通はダイエットし始めはするする体重が落ちて、しばらくしたら停滞気とかで落ちなくなるってパターンのはずなのに、私は今回始めっから増えこそすれ体重が全く減らなかった。

もう何をしても増える一方なんだと絶望しそうだった。

そりゃ、深夜にあれだけ食べてれば太るのは当たり前だとは思う。思うが....、ちょっとくらい減ってくれたって良いじゃない!とも思ってしまう。

乙女心だ。


さて、このまま減る方向で頑張りたいところだが、なぜかいつも1キロ減らすと食べる量が増えてすぐに元通りになる。意識していてもなる。

そんなときに限ってお菓子を貰ったり夕食が揚げ物パラダイスだったりするからだ。

私の体重がどこからかリークされているとしか思えない。もしかしたら部屋に盗聴機があるのかも!?

「やだー、また増えちゃった。ショックー」

私は取り敢えず盗聴を警戒して、偽情報を流しておいた。

これでよし。

ふと振り替えると、不満顔の瑠璃が立っていた。

しまった!




その日の夜、本間さんと私の職場で落ち合うことになっていた。

待ちに待ったベリーダンスの体験日だ。

瑠璃を避けて家を出ていたので、待ち合わせ時間まで中途半端に時間が空いてしまった私は、ついでに軽く夕飯をとることにした。


私の勤めているお店は、地本の食材を取り入れた『めし屋』だ。私は、ウチの社長は絵にかいたようなワンマンだが、味覚に関してだけは信用できると思っている。店内のメニューはどれをとってもすごく旨い。美味しい、ではなく旨い、という言葉がよく似合う味だった。


中でも私のお気に入りはニラ玉だ。

たっぷりのニラ、シャキシャキの太いもやし。そして味付けは塩コショウと、しっかりとった出汁だ。

シンプルだがたまらなく旨い。これは単に私がニラ玉好きというのを置いておいても絶品だと思う。

私が席につくと、かってにニラ玉がたっぷり乗った大きな皿と山盛りご飯が置かれた。私は常連客か!

「店長、私今日は軽ーくでいいんだけど?」

私が頬をひきつらせて 言うと、

「食えるでしょ。」

と返ってきた。

いやいやいや、食えるけど!食えるけどそうじゃなくて!


結局お残しのできない私がニラ玉と山盛りご飯を完食した頃、スマホが鳴った。


「もしもーし、着いたよ。今駐車場。」

本間さんの明るい声が届く。

「はーい、今そっち行きますねー。中で夕飯食べてましたー。」

私が軽い調子で答えると、本間さんはびっくりした声を出した。

「えっ!?夕飯食べちゃったの?ダメダメダメーッ。これから運動するのに、吐いちゃうよ!」

えっ、そんな激しいの?

しかし、食べてしまったものは仕方がない。

それに何だかんだで、モドキとは言え1ヵ月もダンスをし続けていたのだ。案外イケるんではないかと私はこっそり思っていた。

100キロ越えのおデブな私がキレッキレな動きでレッスンに付いていけたら、みんなビックリするだろうなぁ。ふふふ、デブだと思って甘く見るなよ?

げっふぅぅぅ。



ダンスの教室に付くと、講師の先生が出迎えてくれた。先生は本間さんにそっくりの美人さんで、腹部は流石と言うかキュッと引き締まっている。

憧れるわー。私もあんな風になっちゃうのね。いやーっ、楽しみ!


「えっ、夕飯食べちゃったんですか?!」

私が妄想を膨らませながら先生の美しい腹筋を盗み見していると、本間さんに話を聞いた先生がビックリ顔で私を見てきた。


え....?そんなにダメなの?

さすがに何だか少し不安になってきた....。


しかしその後、ぞろぞろとやって来た生徒さん達は、太ってこそいないが そこまで痩せている訳でもなく、私をちょっと安心させた。

皆が皆、腹筋割れのスーパー括れだったらどうしようかと思ったよ。





1時間後。レッスンが終わって、私は先生や生徒さん、本間さんにお礼を言いつつ別れを告げておいとました。

「初心者とは思えないくらい良く動けてましたよ。また是非参加してね。」

先生が私の妄想通りに褒めてくれて、生徒さんや本間さんも「やっぱり若いから~~」とおだててくれたが、私はもう二度とこの地は踏まないと心に誓っていた。

笑顔で確約を避けて家路につく。


躍りに関しては、確かに他の生徒さん達にはついていけないにしても 案外踊れたと思う。

初心者としては上出来だろう。

振り付けを覚えるのも楽しかった。

先生も優しいし、生徒さん達も比較的年配の人が多かったせいか、スゴく優しくしてくれた。


しかし、それでも私はもうここには来れない。

なぜなら、レッスンの教室が一面鏡張りだったからだ。

他の人の3倍はある横幅で醜く蠢く己の醜態を1時間も目の当たりにし続けた私の心は、完全に折れていた。途中で泣き出さなかっただけ、自分を褒めてあげたいくらいだ。

踊るときに、気分を上げるためにか腰に巻く鈴付きの布を着けさせてもらったのだが、これがまた酷さに拍車をかけた。

普通の人には腰の位置を決めてセクシーに見せてくれるはずの このゆったりとした布が、私の場合は布の長さが腹回りギリギリだった為に、ビンと張った細い紐のようになり、太さと醜さを強調する羽目になった。

鏡に写る縦横の幅の比率があからさまに可笑しい、パンパンに膨れた私。

しかも肉が厚いので他の人のように踊っても、関節が動いて見えないらしい。動きを指摘される度に「肉に埋もれてるけど動いてますよー」とは言えず、消え入りたい思いをした。そのくせ、贅肉だけはブルンブルンと激しく波打つ。


車のなかで私は思った。

もう、2度と人前には出たくない。

家から一歩も出たくない。

こんな姿、誰にも....、

誰にもさらしたくない....!!



胸が痛くて痛くてしかたがなかった。

そのくせ、帰りにはいつも通りにお菓子を買った。

そんな自分がやっぱり嫌いだと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ