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私の羽化する日  作者: 月影 咲良
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長谷川くんの生態。

 次の日の朝、足がつって目が覚めた。

 朝の4時。

 早っ!

 もう最悪!まだ人間の起きるじ時間じゃないでしょう!もうもぅあいぃいたたたたたた!


 私は家族を起こさないように、静かに、且つ激しくもんどりをうちながら定期的に襲い来るふくらはぎの痛みと戦った。


 ふくらはぎの攻撃!

 ダメージ 250!

 胡桃のターン!

 痛みで動けない!

 ふくらはぎの攻撃!

 ダメージ 120!

 胡桃のターン!

 台所へ移動した!

 ふくらはぎの攻撃!

 会心の一撃!!

 ダメージ 1200!

 胡桃のターン!

 スポーツドリンク →使う!

 ふくらはぎは逃げ出した!


 ....いや、ふくらはぎは敵じゃないし。

 いかん、ちょっと痛みで錯乱した。いやー、痛すぎて発狂するかと思ったわー。



 最近気づいた事がある。

 ポテチを食べた日の夜は足がつる確率が上がる。

 ....ような気がする。

 何か、ミネラル?だかを補給すると良いらしく、スポーツドリンクを飲むとおさまる。

 この辺は瑠璃のうけうりなので詳しくはWebで。


 しかし、すっかり目が覚めてしまった。

 まあ今日は休日だから、昼寝すればいいか。


 私はとりあえず、慣れた手つきで生姜紅茶を淹れる。昨日の衝撃的な真実によってダメージを受けた私の毛むくじゃらなハートも、一晩寝れば少し冷静になってくる。

 そう、私は冷静だ。

 だからこうしていつも通り生姜紅茶を淹れている。

 問題点は夜の買い食いなんだから、朝の生姜紅茶をすることに意味なんて無い!とか言って止めてしまわないくらい冷静だ。

 べつに、もうこれにすがって無いと発狂しそうとかいう訳ではない。無いったら無い。

 ホントだからね!


 紅茶を蒸らす間、母さんも瑠璃も居ない静かな台所のテーブルで、今まで書いてきた手帳を眺める。


 汚ったな....。


 思い付いたことを、試行錯誤しながら書いているので、要領をえない。


 はぁ、落ち込む....。


 振り返ってみると、思い立ってから1月半が過ぎようとしていた。季節は変わったのに体重は減るどころか増える一方だ。

 うっ、心がいたたた。



 今日は強制早起きのお陰で時間にゆとりがあるので、生の生姜を擦って使うことにした。

 セラミックのおろし器でおろすと、カスが細かくて飲みやすい。

 おろしたての生姜を使った生姜紅茶を一口飲むと、生姜特有の爽やかな香りとピリリと引き締まる刺激が広がる。

 ほう、と知らずため息をもらす。

最近、冷凍生姜ばっかりだったからなぁ。

やっぱりおろしたては ひと味違う。

 至福だ。


 ひとごこちついて手帳を眺めていると『長谷川くんにプロデュースを頼む?』という文字に目が止まった。

 私の中の痩せ代表、長谷川。

 朝の生姜紅茶も長谷川の生態を元に決定した。

 ....これは、悪くないんじゃないだろうか。何も、プロデュースまで頼まなくてもいいのだ。なにかしら、痩せるヒントがあるかもしれない。


 よし、そうと決まれば長谷川に会いに行こう!

閃いたアイデアに、少し心が明るくなる。


 あくまでさりげなく聞き出したいので、長谷川の勤務している店舗に差し入れ持って顔を出すことにした。

 居ないかもしれないが、その時はその時だ。

 差し入れは、....クッキーでも作ろうかな。いや、久しぶりだしちょっと頑張ってビスコッティにするか。そうた、庭に植えたローズマリーが大きくなってきているから、刻んで入れよう。ハーブ入りのお菓子とか、すごく女子っぽくていい。


 あそこの店舗には、私のお菓子作り仲間のパートさんがいる。私があそこの店舗にいたのは2年間程だったが、よく互いに作りあって持っていっていたので、常にお菓子のある職場になっていた。

 また、アルバイトの高校生が多く、多少失敗しても「美味しい美味しい」と言ってバリバリ食べてくれるので作りがいがある。



 私はウキウキしながら朝日のさしこんだ庭に出た。清々しい空気の中、去年飢えたローズマリーは腰ほどの高さになっていた。

私はローズマリーを枝ごと数本摘み取ろうとし、

......絶叫した。


 イヤーーーーーーーーーー!!!

 毛虫!毛虫!!毛虫ーーーーーーーー!!!



 慌ててハサミを放り投げ、勝手口から台所に戻ると起きてきた母に物凄く怒られた。


「うるさい!朝っぱらからなんつー声出すの!!

 近所迷惑でしょう!!!」



うん、そうだね。分かってる。

 でもね、だって、毛虫だよ!?

 足がつるのは我慢できても、毛虫はむりむりむりむり。不可抗力です。私は悪くない。



 その後起きてきた瑠璃にハサミとローズマリーをとってきて貰った。お礼に焼きたてのクッキーを瑠璃の席に置いて感謝を込めて柏手を打つと、真顔で「止めて」と言われた。善意なのに。




今日は仕事じゃないので、ちょっとおめかしをする事にした。化粧下地入りの日焼け止めをばっちり塗り、仕上げに色つきリップをのせる。お洒落はしたいが、今更知り合いの前でしっかり化粧とか恥ずかしい。

せめて気づかれないくらいの変化からで、少しずつ女子力を上げておきたいよね。

で、ふと気づけば、あれ?佐川さんってあんなに綺麗だったっけ?....なーんて言われちゃったり言われちゃったり、きゃーっ!

 あっそうだ、こないだ新しく買ったバイブルに、素敵女子は鞄に小腹が空いたとき用のお菓子を忍ばせてるって書いてあったな。よし、私も何か入れておこう。

 えっと、買い置きしてるもので、なにか無いかなー?


 食品置き場にしているダンボールを漁ると、ビーフジャーキーを発見した。うーん、何かイメージ違う気がするけど、よく噛むしなかなか無くならないからダイエッターには有りかも?

 取り敢えず鞄に入れておくか。





 お店に顔を出すと、はたして長谷川は出勤していた。

 しかも、ちょうど休憩時間になったところだ。ついてる。

 私は「お菓子!お菓子ちょうだい!どうせもってるんでしょう!」という極めて失礼な、飢えた長谷川と高校生たちに持ってきたビスコッティを渡す。

どうせ持ってるってなんだ。人がいつもお菓子食ってるみたいに!


「私がいつでもお菓子を持ってると思うなよ?」

 私がちょっとむくれて見せてそう言うと、高校生たちは

「いや、佐川さんが持ってないわけないでしょ。むしろ持ってなかったら入れてやらんし」

 とか言ってきやがった。

 どんどん雑になるな、私の扱い....


「硬ったい!なにこのクッキー。佐川さん、これ焼きすぎっスよー。」


 さっそくビスコッティを口に放り込んだ高校生男子が文句を言ってきた。ふっ。高校生の男の子には、ビスコッティはお洒落すぎたかな?


「違う違う、それはビスコッティっていって、そういうお菓子なの。」


 私はにっこり笑うと、女子力の高さをこっそりアピールする。私だってこんなお洒落なお菓子作れるんだぞー。


「いやいや~、さすがに硬すぎっすよ。歯が折れるかと思ったもん。あ、でも味は良いですよ?次は焼きすぎに気を付ければカンペキですよ。」


 ポンポン。


 えっ、肩をたたいて慰められた!

 私、失敗してないのに!



「佐川さーん!俺、クッキーよりも肉食いたい!肉ーーー!焼肉つれてってー。」


 賄いとビスコッティを食べ終わった長谷川が騒ぎだす。それに便乗して高校生男子たちも「肉いいスね、肉ーーー!佐川さんのおごり!?」と囃し立ててくる。


 ....学生の頃、少女漫画とかで『少年の心を忘れない男の人って素敵』とかいうシーンがあったけど、実際目にすると....マジめんどくさいな。


 だが!嫌いではない!


 私がうんざりしたような顔をして見せると 調子にのって喜ぶ でっかい子供たちに、私は鞄からビーフジャーキーを取り出して渡す。

「はい、肉。」

「!」

「!」

「!」


「あははははははは!すげぇー!本当に肉が出てきた!佐川さん、マジで何でも食い物もってるね!その鞄どうなってんの!?」

 長谷川と愉快な仲間たちは、一瞬の沈黙の後、弾けたように笑った。


 私は高校生男子sにコーヒーを入れてくるようパワハラすると、きゃっきゃと言いながら入れに行った。可愛いもんだ。

 店内に聞こえる声で騒ぐなよー。


「しっかし、ほんとに食い物ばっかりもってるね、佐川さん。そんなんだから太るんだよー。まだあるなら俺が処理してあげるから出しな?」

 長谷川がまだ笑いながらからかってくる。


「まだ食う気か!....っとに、なんでそんなに食べて痩せてるわけ?」

 私がため息混じりに聞いてみると、

「だって俺、貰った以外にお菓子とか食わんもん。」と、平然とした答えが返ってきた。


 なんだと?


「帰りに買ってかえったりしないの?」

「いや、俺も前は買ったりしてたよ。でも、そういうのって以外と金かかってんだよね。勿体ないから止めた。」


 うっ、確かに....。私、1日に2000円は確実に買い食いしてるもんね。1ヶ月で考えると....、6万円!?

 うわ、ほんとに無駄遣いだ....。


「で、でも、腹減ったりしない?夜中遅かったりするし。」

「あー、まあ、腹は減るけど、『あー、腹へったなー』って思って寝るだけ。」

「えー!よく我慢できるなー。」


 私がビックリしながら言うと、長谷川がニヤリと笑った。


「俺、この間ラジオで聞いたんだけどさー、痩せてる人はお腹すいたら『あー、お腹すいたな』って思うだけだけど、太ってる人ってお腹すいたら『何か食べなきゃ』って思うらしいね。自分、まさにそれじゃない?」

「!!!」


 衝撃の新事実に頭が真っ白になった。

 そこへコーヒーをジョッキで作った高校生男子sが帰ってきて、ついでに休憩時間になった女子高生の群れがやって来た。


「あっ、ビスコッティだー。すごーい!」

「ほんとだー!私、この硬い歯応えが大好きなんですよー。あっ、ハーブ美味しーっ!」


 きゃあきゃあ言いながらビスコッティを少しずつかじる女子高生sに高校男子sはばつが悪そうな顔になった。


 ほらな、だから言っただろ。本当にその硬さなんだよ。




 その日、私は久しぶりにコンビニによらずに家に帰った。




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