芽が出て…膨らんで。
「あ!いらっしゃいませ!」
もう冬になり雪が降る頃には俺も、新しい部署に慣れていた。
窓口のあの子とは顔を合わす機会が増えた。
毎日笑顔で迎えてくれる女の子はこの子だけだったから、俺はなんだか勝手に親近感を覚えていた。
「おはよう。
…ってゆーか、一人で雪掻き?」
その子は女の子なのに、一人で店舗の前の雪掻きをしていた。
ほっぺを真っ赤にして、一生懸命だった。
「いや〜…上司には雪掻きは業者さんがやってくれるからいいって言うんですけど…でも。今日は結構積もっちゃってるから。
ほら、うち駐車場狭いし…みんな忙しそうだからなーと思って…」
彼女は俺にそう話しながらも、手を止めなかった。
小さな手は寒さで真っ赤になってた。
「…手伝う?」
俺はちょっとだけ気になり声を掛けてみたが、彼女は大丈夫ですと笑顔で言った。
「…でも一人で大変でしょ。風邪、ひくよ?寒いし。」
彼女はそれでも大丈夫です、と言って黙々と雪掻きを続けた。
なんだかなぁ…
「じゃあこれ。使いなよ。素手じゃさすがに寒いでしょ。」
俺は自分のはめてた手袋を手渡した。
彼女はちょっとビックリしてたけど、ありがとうございますと言い手袋をはめた。
…下心があるとまでは言わないが。
彼女にちょっとだけ、良い顔をしたかった。
手袋を渡したお陰なのか、その日以来彼女は俺が来るたびに書類を受け取り、声を掛けてくれるようになっていた。
たわいもない会話。
一言二言の小さな会話だったが、その時間が少し楽しみになっていた。
けど、それもつかの間だった。
ある日、いつものように彼女に書類を渡すと唐突にこう言った。