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過去の記憶

 ソロがスヤスヤと寝息を立てている正面の瓦礫に座り、ジンは夜空を眺めていた。

 どれだけ時が変わろうと、この景色だけは変わらない。いつの間にか、ジンは夜空を眺める癖のようなものがついていた。

(まあ、今のここは昔のような状態になってますけどね)

 瓦礫だらけと成り果てた街。

 怪物のせいでこうなったわけだが、見える景色は昔によく似ていた。

 そう、竜騎士たちが襲ってかかってきて、街が壊されてしまったあの時に。

 瓦礫ばかりで殆ど同じ風景なので余計そう思ってしまうのだろうが、やはり似ていた。景色もだが、状況も。

(……そういえば、あの時はあのよくわからないお爺さんがあそこで街を直してくれたんですっけ。随分と懐かしい)

 目を瞑れば思い出せる。まるで昔に時間が戻ったかのように。

『えーと、確か街が竜騎士に襲われてボロボロになったんだよなうん。んで、今は何処がどれくらいの被害を受けたのかとかを調べてる途中だったは……ず……』

 傭兵なのに何故か被害の調査をさせられた記憶。

『……やれやれ、ジャックさんは頑張って仕事しましたよーっと』

 仕事を終え、炊き出しを食べるのに並ぶのが面倒で携帯食料を食べた記憶。

『あれを壊せば止まるんだよな? だったら早いとこ……』

『止めといた方がいいわよ。あの手の物には……』

斬魔カマイタチ!』

 ナスタが召喚器を壊し、防衛機能の働いた召喚器が巨人になった記憶。

『どうせ毒塗ってんだろーなーとは思ってたが、いやはや、痛みもないとは優しい暗殺者なこって』

 ナスタを庇って受けた傷の毒のせいで死にかけた記憶。

「……あれ? まともな記憶が全くない気が」

『どこだここは』

『呼び方なんてお前が決めればいいさ。次元の狭間、存在しない世界、世界の裂け目、アウトレコグニン。ここに来た数少ない者たちは、各々好き勝手にそう呼んでいた』

 あの妙な世界に入り、老人が街を直した記憶。

「いや、もっとちゃんと思い出せば色々ある筈です。そんな変なことばっかりあったわけじゃないんですし」

 剣を作り出す力のことを知った記憶。

 ラーシャにその力のことについて聞こうとしてはぐらかされた記憶。

 そして――。

 記憶は、そこで終わった。

「……?」

 そこで、記憶は途切れてしまった。そこから先のことが思い出せない。

 昔のことだから忘れたのかと思ったが、途切れる前の記憶は幾らでも思い出せるのにその後の記憶が一切思い出せないのは不自然すぎる。

「……なんでしょうかこれは」

 思い出せない。

 シルスベールでのその後のことも、ラーシャが女王になるまでのことも!

「なんですかこれ!? 記憶が抜けてる? なんで? 幾ら何でもおかしいでしょう。この後私、いや俺に何があった!?」

 どれだけ記憶を探しても、シルスベールの次に行った国のことも出てこない。

 思い出せるのは、全てが終わった日。

 ナスタが女王になり、ジャックがナスタの元から去った日の記憶。

「…………」

 昔のことだから放っておこう、という気にはなれなかった。

 抜け落ちた記憶に、何か大切なことがある気がした。

 例えば、世界の成り立ちそのものとか。

 探さないとと、彼は思った。

 気づけば自然と手を伸ばし、剣を生み出していた。

 それは、『時間』を超える力を持った剣。

 記憶を取り戻すのではなく、もう一度過去を見る為の力。

 その力が振るわれ。

 ジンは、誰にもこの事を伝えることなく、この世界から姿を消した。

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